こねこすきはねこつき
僕、湖音 小隙は突発的に記憶を失う事がある。
それは別に大きな事ではなく、何を買うつもりだったのか、何を買ったのかを忘れるなどといった、誰にでもあるような事だ。
しかしそれは妙な事に、玉葱を買うつもりがキャットフードを買っていたり、奮発してアワビを買うつもりが魚を買っていたりと、何故か猫の好むものに偏っている。
でも僕の家では猫を飼っていないし、昔飼っていた事もない。
記憶にある猫関連の事といえば、道路で亡骸を晒していた猫を可愛そうに思ったので、家の庭に埋葬したぐらいである。
それを聞いた友人はこんな事を言った。
「君の前世は猫だったのかもしれないね。玉葱などのユリ科の植物は猫に有毒だし、アワビやサザエに含まれるクロロフィルは猫の耳を腐らせておとしてしまうらしい」
魔女の帽子をかぶる彼女は、のどを鳴らして本物の魔女のように笑った。
「気付いているかい?君はどんなお菓子を作るときもチョコレートを避けるんだ、今もそうだが食べる時にチョコが入っていたら絶対にそこには手をつけない。そして大量のチョコも猫には毒だよ」
聞けば聞くほど猫のようだ、もしかしたらそういうこともあるのかもしれない。
彼女の隣に座る喋れない彼は、いつものホワイトボードに手早く書き込む。
―突然木に登って降りられなくなった事もあったしね―
それを読んだ彼女は「同情するなかれ、か」と呟きあらぬ方を見やるが、妙な行動を起こす事が稀にあるのを知っている僕達はなれたもので、彼の出した話題の方に意識を向ける。
それはつい先日の事で、蝶が飛んでいるのを眺めていたらいつの間にか木の上に居たのだ。
僕自身は木に登った覚えなど無いが2人の話では、突然蝶を追いかけて木登りをしたらしい。
不思議なものだなと思いつつお茶を啜る。
熱くて思わず舌をだしたら、2人はそろって笑い始めるので僕は少し恥ずかしくなった。
彼女は「君は本当にネコのようだな」と言い、彼は無駄に上手な絵で猫が舌を出してる姿を描いた。
翌日、悪戯魔女である彼女がネコと言うあだ名を広める事は、まあ読めていた。
あだ名については名前の事もあって別に不快ではない、しかしだ。
授業中寝てる僕が悪いのは分かる、でも人が寝ている間に猫耳を付けるのはどうかと思うよ?
全く違和感が無く、放課後に指摘されるまで気付かなかった僕もアレだけどね、君達は笑いすぎだ自重して欲しい。
〜〜〜〜〜
私は猫である、今は守護霊をやっている。
突然何を言い出すのかと思うだろうが、私はとある恩から小隙という少年の守護をしているのだ。
猫は三年の恩を三日で忘れる?私はそのような恩知らずではないのだ。
小隙は危険に対する意識が低いのだが、私のフォローで特に事なきを得ている。
例えば玉葱を買おうとした時はしっかりとキャットフードに入れ替えたし、アワビなどという耳を腐らせる危険物を買おうとした時は無難に魚へと変更した。
まったく、自ら毒物を食べようなどどうして考えられるのか。
しかしたまには失敗もあるもので、ひらひらと舞う蝶を見て、追いかけて木に登ってしまったのはご愛嬌だ。
このように何故か私の思ったとおりに身体が動かせる事もあるが、そのおかげで小隙は大きな怪我も病気も無い。
これは私の恩返しなので感謝して欲しいとは思わない。
もう少し周囲に気を配って欲しいものだが、それでこそ守り甲斐があるというものだ。
だから魔女よ、私は小隙の守護霊だ。
そのような悪霊を見るような目は止めてもらいたい。