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君を想う夜  作者: 水原 凛
It is broken
18/24

5

 「ねぇ、穂乃香?」

 真紀の家のお風呂でゆっくりして部屋に戻ってきた穂乃香に真紀はちょっと躊躇い気味に問いかける。

 「何?」

 今は気持ちが大分落ち着いたのか、先ほどよりも幾分顔色がいい穂乃香がいる。

 「あの、ね。詳しくは聞かないけど…。今日穂乃香があんな時間にずぶ濡れのまま家の前にいたのは、越野課長のせい?」

 少しためらいを見せたものの、穂乃香はかすかに頷いた。

 「―――そう…。」

 穂乃香が三角座りをしたその背中に合わせるように真紀も三角座りをする。

 何かあるたびに、二人はこんな風に背中合わせで会話をしてきた。

 「…今日、明日って家にこのまま泊まっていきなよ?」

 「でも…。」

 「何があったか詳しくは聞かないよ。けどね、こんな風に泣きそうになっている穂乃香を私が放っておける分けないでしょ?それにもうお母さんには言っちゃったしね。明日の朝、張り切ってご飯を作らなきゃって嬉しそうに言ってたわよ?」

 「―――でも悪いわ…。」

 「あのね、穂乃香。家はむしろ大歓迎なのよ。私は一人っ子だし、まるで妹が帰ってきたみたいで。」

 「妹って…。」

 「あら?だって誕生日から言っても性格から言っても私のほうがお姉さんでしょ?」

 「そんな事ないわよ。」

 「ううん。これだけは絶対自信あるわ。高校時代の友達に聞いてくれてもいいくらいよ。お母さんなんて、『アンタじゃなくて穂乃香ちゃんが私の娘だったらよかったのに』って何度も言ってるくらいよ。だから気にしないで泊まっていきなさいよ。月曜日は我が家から一緒に出勤するんだからね。因みに服は私のを着ていけばいいのよ。」

 有無を言わせない真紀の言葉に、穂乃香は微笑する。

 「ありがとう。」

 「そう。それでいいのよ。明日は寝不足でも大丈夫でしょ?今からDVDでも見る?」

 「うん。―――あ、でも土曜日って清水君とデートじゃないの?」

 ふと思い出した。

 いつも土曜日から日曜にかけてデートするのが真紀の週間予定だったはずだ。

 「あぁ。なんかね、男友達と雪山でスキーですって。」

 「スキー?」

 「そ。しかも野郎ばかり5人でね。何が楽しいんだか。」

 「そうなの?」

 「そ。毎年1回の行事だから、文句は言わないことにしているの。だから、穂乃香がこの週末を一緒に過ごしてくれるとすごく嬉しいんだ。」

 そう言って笑う真紀の目には嘘偽りなどない。気遣いではない。そこに真紀の本心があふれているからこそ、穂乃香は安心して微笑んだ。

 「うん。」

 いつもと同じように接してくれる。

 穂乃香にはそんな真紀の存在が、本当にありがたかった…。


 3泊4日。

 穂乃香は、真紀の自宅でこの休みを過ごした。

 久しぶりの真紀との休日。

 真紀のほうも、あえて何も聞かず、ただ穂乃香とすごすこの休日を楽しんでいるようだ。

 そしてただ、時折、ちょっと心配そうに穂乃香の表情を覗き込むことはある。だが、それだけだ。

 真紀と過ごすこの週末が、穂乃香にとって本当にかけがえのないものになっていく。





 カタカタカタカタカタ……。

 月曜日。

 いつものように時間は過ぎていった。―――まるで、何事もなかったかのように。

 ただ違うのは、暁の視線が穂乃香の頭上に止まることがなかった、ただそれだけだ。

 勿論。

 気づいているのは、暁と穂乃香、それに真紀くらいだろうか。

 だが、誰にもわからないくらい些細なこととはいえ、穂乃香にとってはとても大きなことだった。

 (―――暁さん…。)

 気づかれないように、何度も何度も暁のほうを伺う。だが、その日。暁と視線が合うことはついになかった。

 長い。長い一日だった…。

 (もう、ダメなのかな。)

 そんな言葉が頭の中に浮かぶ。

 金曜日。何があんなふうに暁を怒らせたのかは、わからない。ただ、いつもの彼じゃなかった暁が怖かったのだ。

 ―――やっぱり、逃げちゃいけなかったのかな?

 いつも大切にしてくれているのは分かっていた。だからあの態度の急変には驚いたけど…。

 (逃げちゃ、いけなかったんだよね。きっと…。)

 逃げずにちゃんと話を聞いていれば、こんな気まずいこともなかっただろう。

 そして何より。

 ―――抱いてもらえたかも、しれない…。

 そんな言葉が頭をよぎる。

 暁とは、それこそ付き合うきっかけとなった時以来、抱かれていないのだ。

 (私の身体に興味がないのかな?) 

 そんな風に思うときもあるが、暁の視線や態度からは決してそうではない事が分かる。―――だからこそ。不安だった。

 金曜日の夜。

 あんな強引で乱暴とはいえ、もしかしたら、あのまま暁のマンションにいれば、彼に抱かれていただろう。そうすれば、『愛されていないのかな

』と思うこともなかったのかもしれない。

 (逃げなきゃ、よかった…。)

 だが、今更。

 暁のマンションに行く勇気などない。しかも、今日のように暁に無視をされている今の状態では…。



 ―――もう、ダメ、かな…。

 穂乃香のため息とともに、時間はゆっくりと進んでいき、やがて定時を迎えることになる。



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