乙女クソゲーの正ヒロインに転生したので悪役令嬢を救いたい
侯爵令嬢カナリア・ヴァレンシュタインは、破滅の運命にある。
王太子アッシュリードの婚約者であり、誰もが羨むほどの絶世の美女。
艶やかな青みがかった長い黒髪と切れ長の紺の瞳が特徴で、寡黙ではあるが思慮深く、馬術や剣術もお手のもの。
数多くの才を持ったカナリアに取り入ろうとする者も多く、彼女の周りには常に取り巻きたちの姿があった。
誰もがカナリアに畏怖の念を抱き、彼女がこの国の女王になることを疑わなかった。
だが、クロエ・ミルフォードが、カナリアの通う学園に転入してから、カナリアの運命は狂い始める。
甘栗色のショートボブで、容姿も勉学もカナリアには劣る、片田舎出身の平民。
それでもクロエには愛嬌があった。
氷の令嬢と評されるカナリアとは正反対で、クロエは陽だまりのように明るく天真爛漫。
自然と彼女の周りには人が集まっていた。
あろうことかアッシュリードさえ彼女に惹かれていた。
そんなクロエの活躍を良く思わない者も当然現れた。
クロエの周りでは嫌がらせが起こり始める。
特にカナリアの取り巻きたちは執拗にクロエに嫌がらせを行っていた。
——その裏にはカナリアの嫉妬がある。
そう誰もが信じて疑わなかった。
★★★
「カナリア。君との婚約は破棄させてもらう!」
王宮の大広間。
アッシュリード様が目の前のカナリア様に向かって糾弾する。
——あぁ。ついにこの日が来たか。
アッシュリード様の隣で私——クロエ・ミルフォード——はそう思う。
今日は国王陛下の誕生日パーティーだった。
アッシュリード様は、後ろの玉座に座る国王様に許可をいただいた上でカナリア様の罪を大勢の貴族様たちの前で告発した。
「君は、クロエ・ミルフォードに嫉妬し、卑怯にも自分で手を下さず配下に指示して嫌がらせをしていたそうだね」
カナリア様に侮蔑の視線を向けながら、アッシュリード様は私の肩を抱いた。
正直、やめてほしい。
パーティーに参加している貴族様たちが注目して恥ずかしいし、カナリア様もじっと氷のように凍てつく瞳をこちらに向けているし。
自然と私の体は震えあがった。
けれど当然ながら止める者はいない。
後ろに座っている国王様でさえ沈黙を貫き、この流れをじっと見ていた。
「我が国の貴族でありながら、護るべき民を私情で攻撃するとは……君の所業は数々聞いているよ」
アッシュリード様の怒りが私の肩から伝わってくる。
私も怒りで吐き気と体の震えが止まらない。
「教科書を隠したり課題の絵を盗んだりするだけでは飽き足らず、階段から突き落としたり上から岩を落としたり、あろうことか、暴漢に襲わせるなど……! 君には失望した!」
アッシュリード様が伝えた所業の数々に、この場に集まった貴族様たちがざわめき、口々に非難し始める。
その非難から逃げるようにカナリア様の背中に隠れる者たちがいた。
カナリア様の取り巻き——つまり私に嫌がらせを行った張本人たちだ。
彼女らは『私たちはただ言われたことをやっただけ』とでも言いたげに殊勝な表情を見せていた。
白々しいにも程がある。
「何か言うことはあるか!?」
アッシュリード様はカナリア様に問いかける。
だが、カナリア様は背筋を伸ばしまっすぐアッシュリード様を見た。
「……殿下……私は……」
「——あの小娘が悪いんじゃない!」
カナリア様がゆっくりと言葉を紡ぐのを遮って、いつものように取り巻きのひとりが甲高い声を上げた。
「平民の分際でアッシュリード様に色目を使うなんて……!」
「そうよ! カナリア様を差し置いて卑しくも! もう少し弁えるべきなのよ!」
取り巻きたちはカナリア様を擁護したいのか。
私の方に罪をなすりつけようとしていた。
そんな彼女たちが叫ぶ中、それでもカナリア様は眉を顰めてまた口を開こうとする。
「いえ。私は……何も……」
「——色目を使った平民に嫌がらせをして何が悪いっていうの?」
「私たちはカナリア様の言う通りに……!」
またカナリア様の言葉を遮り、キャンキャンと取り巻きたちは弁明する。
——まったく……。
むしろカナリア様の心象が悪くなるのを、彼女たちはわからないのだろうか。
「——だまれ」
隣のアッシュリード様が蔑むように取り巻きたちを睨んだ。
その圧に彼女たちはヒュッと息を呑み、カナリア様の後ろに隠れた。
「父上——我が国の王の前で往生際が悪いぞ。それでも淑女か?」
カナリア様はその言葉を黙って聞いていた。
ドレスの裾をギュッと掴みつつ、時折、私の方をチラチラと視線を動かしていた。
その目は私に何か訴えかけるようにジトッとしていた。
私はその目を知っている。
「…………チベットスナギツネ……」
「何か言ったか? クロエ」
「いいえ。なんでも」
私が首を振ると、カナリア様はもういつもの凍った無表情に戻っていた。
そんなクールを装っているカナリア様が気に食わなかったのだろう。
アッシュリード様はギリッと歯ぎしりをする。
「すでに目撃証言も多数ある! お前の配下もカナリアに無理やり指示されたらしいな」
アッシュリード様の言葉に取り巻きたちはうんうんと何度も頷いた。
カナリア様は何も言わず、じっとアッシュリード様を見つめた。
「卑怯卑劣という言葉はお前のために存在していたのだな。
——この際だから言っておこう。私はこのクロエと婚約するつもりだ」
大広間が再びざわめいた。
アッシュリード様の前代未聞の宣言に、貴族様たちはお互いに顔を見合わせた。
「異論がある者もいるだろう。だからこそ、この場で真実を明らかにしておきたい。カナリアが口を閉ざすならば被害に遭った本人に聞くしかない。陛下と皆の前でクロエが語るならば、もはや誰も疑うことはできまい」
——ようやく出番か。
アッシュリード様が切なげな表情を浮かべながら、私に向き直った。
「こんなところですまない」
そして囁くような声で私に謝罪した。
「君が嫌じゃなければ、君のされた行いを話してくれないか?」
「…………はい……わかりました」
私はしおらしく青ざめてみせながら、アッシュリード様に頷いた。
するとアッシュリード様はまるで自分が主役のように大袈裟に腕を振ると、
「さぁ! クロエ、話してくれ! 君がカナリアにされた数々の所業を!」
大広間に轟くほどの大声をあげる。
この会場にいた貴族様たちが一斉に私に注目する。
「はい……」
さぁ。ようやく出番だ。
ここは効果的に見せるため、両手で顔を覆い体を小刻みに震わせよう。
声も切なげに儚く、今まで耐え忍んできたことを思わせて同情を誘おう。
「私……私クロエ・ミルフォードは……」
そしてこっそりと指先に浸しておいたグラスの水を目元にちょんと塗る。
ばっと顔を上げた瞬間、一筋の水がまるで目から流れ出るように演出。
そして私は叫んだ。
「——カナリア様には何もされておりません!」
「そうかそうか。辛かっただろ…………え?」
その瞬間、会場中が静寂に包まれた。
アッシュリード様も、端正な顔が台無しになるほど呆けている。
——あぁ。懐かしい。この顔は処理落ちしている時に何度見たことか。
やがて彼は私の言葉を理解したのか。
動揺したように私の肩を掴む。
「どどどどどど……どういうことだ、クロエ?」
「嫌ですねぇ。アッシュリード様。声までバグっていますわ」
「バグ……? いや。そんなことはどうでもいい! 君は嫌がらせをされていたんだろう?」
「はい。間違いございません」
「ならばもう我慢する必要はないんだ。真実を言って、僕と一緒にカナリアのことを追放しよう」
「えぇ。ですから私、真実を言っております」
そう言うと、私は一歩前に出た。
「私はカナリア様には何もされておりません。私に嫌がらせをしたのはあそこにいる彼女たちです」
と私はカナリア様の取り巻きたちを指差した。
すると取り巻きたちは焦ったようにカナリアの後ろから出てきた。
「なにをバカなことを……!」
「そ、そうよ。私たちはカナリア様に指示されて仕方なく……」
「えぇ! 私たちは心を痛めながらやっていたのよ!?」
さっきの弁明とは大違いだ。
自分の立場が危ぶまれると、平気でカナリア様を出しに使う。
まったく都合がいい口をしている。これだからクソゲーのモブたちは。
「こちらをご覧ください」
私は懐からとある小道具を取り出して上に掲げた。
「これは……音を保存する魔道具だと!?」
アッシュリード様が驚いたように目を丸くする。
「ま、魔道具ですって……!?」
取り巻きのひとりがキーキーと甲高い声で叫んだ。
「そんな貴重な物、平民のあなたがどうして……!?」
「こちらにはとある会話が録音されています」
「……ッ!? ま、まさか」
私の言葉にカナリア様の取り巻きたちは青ざめる。
私は問答無用でその魔道具を起動した。
『————ねぇ……本当にあの平民をいたぶっていいの?』
『えぇ。調子に乗っていますから報いを受けるのは当然です』
『でもカナリア様の許しを得ずにこんなこと……もしバレたりしたら……』
『バレても問題ありませんわ。なにせカナリア様は私たちの味方ですから』
『そうですわね。もし問題が出たとしてもその時はカナリア様のせいにしてしまいましょう』
それはカナリア様の取り巻きたちの会話だった。
「こ、これは……」
取り巻きたちがパクパクと口を開け閉めしている。
「あぁ。なんということでしょう。彼女たちは私を虐める計画だけではなく、あろうことかカナリア様にその罪をなすりつけようとしていたのです……!」
私はわざとらしく声を張り、悲痛な表情を見せた。
その後、私はカナリア様に目を向ける。
「カナリア様はこのことは?」
「いいえ……私は……」
「——不正よ!!」
カナリア様が答えようとした瞬間、取り巻きのひとりがまた甲高い声を出した。
「こんなのでたらめに決まっている!」
「こんな会話したことも聞いたこともないわ! 私たちは本当にカナリア様に指示されて……!」
「きっとあの平民が何かしたのよ!」
——この人達はまた……。
私は呆れてため息を吐く。
「はぁ……世界がシームレスになってもやはりクソゲーはクソゲーですね」
「はぁ? なにわけのわからないこと言ってるのよ?」
取り巻きのひとりが訝しげな視線を向けて首を傾げる。
「そっちこそ。その下品で耳障りな口を閉じてください。——私はカナリア様に聞いているんです!」
「————ッ!!??」
「この場においてカナリア様はまだ何もしゃべっていません。
さきほどからカナリア様が一生懸命喋ろうとしているではありませんか!
それなのに、ただでさえ数少ない貴重なお言葉を傾聴せずに遮るなんて……そしてぺちゃくちゃぺちゃくちゃないことないこと勝手なことを言って!
カナリア様をご覧ください!
平然とした顔で立っていらっしゃいますが、ドレスの裾をギュッと握って何も言うことができないこの状況を耐え忍んでらっしゃいます」
そう言うとカナリア様はすぐにパッと離して恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「そ……そんなことないわ……」
「——ッ!」
私の心臓にクリティカルヒット。
「ク……クロエ……?」
「はッ!」
アッシュリード様に声を掛けられてようやく意識が回復した。
「失礼しました。氷のように美しく聡明で芯が強く儚い御方の貴重な赤らめシーンで意識が飛んでしまいました」
「……赤らめ……シーン?」
「とにかく! あなた方が私に嫌がらせをしていたのは事実! にもかかわらずカナリア様だけに責任を取らせるなんて……虫が良すぎるとは思いませんか?」
我に返った私の言葉に貴族様たちも同意し始め、取り巻きたちが萎縮する。
そこで私ははっきりと宣言した。
「改めて申し上げます。私がカナリア様に嫌がらせをされたという事実はありません!」
「クロエ……いったいどういうことだ……?
は、話が違うじゃないか……?」
その宣言の後、アッシュリード様は私に話しかけてきた。
アッシュリード様は冷や汗を浮かべ目が泳ぎ、何がなんだかわからなくなっているご様子だった。
そんな彼を前にして私は首を傾げた。
「話……とは?」
「僕とともにカナリアに制裁を加えようという話さ!」
「はて? いったいなんのことやら。
私はパーティーの最中、急にアッシュリード様に連れられ、わけもわからずここに立たされた身です。
まさか何もしていないカナリア様に制裁をしようなど思いもしませんでしたわ」
私は悲しそうな表情を作り首を横に振る。
「そもそも私はアッシュリード様と婚約をするつもりなどありません」
「………………え……?」
私の言葉にアッシュリード様の顔が青ざめ、会場も一気に沈黙に包まれた。
「そんな驚かれても困ります。私だって突然、婚約の話が出てきて驚いているのですから」
私は頬に手を当て困ったように眉を顰めた。
「でも僕は王太子だぞ。将来が約束されている。クロエはそんな僕と結婚したくないということか?」
「将来が約束されている? それってアッシュリード様が密かに改ざんした帳簿が明るみに出て、破滅する将来が約束されているということでしょうか?」
「————ッ!!」
会場にいる貴族様たちが一斉に息を呑む音が響いた。
「な、なにを言っているんだ……クロエ? それは君のために…………——ハッ!」
動揺しすぎてボロがでてしまったのだろう。
アッシュリード様はしまったという顔をして後退った。
その隙に私はアッシュリード様の元を離れて、カナリア様の手を引いて抱き寄せた。
さながら気分は、望まぬ結婚式から花嫁を助けるために乱入して略奪する王子様だ。
「私は頼んでいませんよ。そんな勝手でわがままで私情で私たちのお金を使うような人と誰が結婚したいと思いますか。
——行きましょう。カナリア様」
そう言うと私はそのまま大広間の扉へ向かう。
ふと玉座の方へ目をやると、国王様と視線が合った。
私が足を止めて頭を下げると、国王様は何も言わず、ただ静かに頷いた。
それから帳簿や請求書の束を抱えた眼鏡をかけた青年の前に立つ。
「あとは任せます」
「まったく……いや、アッシュのことは任せろ」
この国の財務を担う財務卿の御曹司——ルーク・ウィルソン様だ。
アッシュリード様の親友だが、今回のアッシュリード様の不正に激しい怒りを覚えていた。
「アッシュ……この請求書について聞きたいことがある!」
「そ……それは!」
ルーク様の冷徹なまでの問い詰めを背中で聞きながら、私は大広間の扉を開けた。
★★★
「——カナリア様! 上手くいきましたね!」
私はカナリア様の腕に自分の腕を絡ませて、王城の廊下を歩く。
「そうね……全部、あなたの言う通りになったわ」
実のところ、今回の一連の出来事は全てカナリア様に共有済みだった。
婚約破棄についても、カナリア様が無実の罪を着せられるのも、その上で私がアッシュリード様や取り巻きたちを断罪するのも。
全てカナリア様に打ち明けていた。
カナリア様にはただ「なにもしていない」とだけ言ってくだされば、あとは私がなんとかする、という作戦だった。
最初は信じてもらえなかったが、ルーク様から預かった帳簿の写しを見せ、録音の魔道具を聞かせると、カナリア様は黙って頷いてくれた。
「でも……ごめんなさい」
「? なにがですか?」
「あの子たちが……喋らせてくれなくて……」
「あぁ。そのことですか! いえいえ。想定の範囲内です!
まぁカナリア様が救いを求めるお顔をしていたのはビンビンに感じましたけど。ほんとチベットスナギツネみたいで!」
「……チベット……?」
「ほんとカナリア様は愛らしいお人ですねぇ!」
カナリア様は訝しげな顔をして首を傾げる。
だが、すぐに眉を顰めて不安そうにぽつりと呟いた。
「でも……」
「おや? どうしたんですか? そんな浮かない顔して……」
「…………」
カナリア様は俯き黙ってしまうが、しばらくすると顔を上げて私を見た。
「あの子たち……大丈夫かしら……って……」
「まぁ!」
感動のあまり私は両手で口を抑えた。
「自分を陥れた彼女たちを心配なさっているんですね! さすがカナリア様! その責任感と優しさに私、昇天しそうです」
「そ……そう……」
私の圧にカナリア様は体を仰け反る。
その引き気味の態度もジト目も私の大好物です。ありがとうございます。
「でも大丈夫ですよ。まぁ少しおいたが過ぎましたけれど、彼女たちが破滅することはありませんよ」
「そう……」
私の言葉にカナリア様は安心したように吐息をついた。
「…………ありがとう。あなたは本当に何でも知っているわね」
「えへへ。滅多に褒めないカナリア様にそう言われると照れますね。
何でも任せてください。特にカナリア様のことは何でもわかりますから」
——前世でね。
実は私には前世の記憶がある。いわゆる異世界転生というやつだ。
そしてこの世界は、私がやり込んだ乙女クソゲーの世界。
アッシュリード様、ルーク様、そして宮廷魔術師の息子ノティス・ハルランド様という3人の攻略対象と恋に落ちる王道ストーリーなのだが、本当にひどかった。
まずゲームとしてロードが長いし、始まったと思うと処理落ちで映像が乱れる。
更にちょっとぶつかっただけでも好感度が0になったり、逆に100になったりするし、バグも酷かった。
もう投げ捨ててやろうかと思ったくらいだ。
だが、それでもこのゲームをやり込んだのは、カナリア様のおかげだ。
ゲーム画面に映った瞬間、その美しく理知的な顔に私はどハマりしたのだ。
ゲームをしながら何百枚もスクショをし印刷し部屋一面をカナリア様で埋め尽くしたのを今でも覚えている。
艶やかな長い黒髪も、聡明そうな瞳にも心臓が高鳴った。
それだけじゃない。
麗しい唇も、手入れが行き届いたきめ細やかな肌も、柔らかそうな頬も。
すべてすべて私のタイプにドンピシャだった。
もうこのクソゲーの世界に唯一現れた救いの大天使……いや、大聖母という感じだ。
「な、なに息を荒くしているの?」
「いえ。なんでもありませんわ。カナリア様ぁ」
——残念。そんなことを思い出していたら、カナリア様にドン引きされてしまった。
まぁそのゴミを見るような目も大好物ですけどね。
そういうわけで前世では、カナリア様を攻略するためにこのクソゲーをやり続けたのだが、カナリア様は主人公クロエに嫌がらせをする悪役令嬢。
残念ながらカナリア様ルートはそのゲームには用意されていなかった。
それどころか、カナリア様は全てのルートで破滅してしまう運命にあった。
アッシュリード様のルートでは、王国を追放されてしまうし。
ルーク様のルートでは、斬首刑に処されてしまう。
ノティス様のルートの場合、アッシュリード様との婚約は続くが、先ほど断罪した帳簿の不正が露見してしまいアッシュリード様と共に破滅してしまうのだ。
クロエが誰も選ばなくても同じこと。
カナリア様はその全てでバッドエンドを迎えてしまう。
——これだからクソゲーは、と思ったのだがよくよくゲームをやり込んでいくと、違和感を覚えた。
そもそもカナリア様は何も悪いことはしていないのだ。
クロエをいじめていたのもカナリア様の取り巻きたちだし、帳簿の不正もアッシュリード様のせい。
カナリア様が寡黙で責任感が強いことを良いことに、彼女には何もしゃべらせず、体のいいスケープゴートになっていたのだ。
まじクソゲー。まじ許すまじ。
だからこの世界に正ヒロインとして転生したとわかった時に早々に決意した。
悪役令嬢カナリア様を救おう、と。
幸い私にはゲームの知識があった。
好感度がすぐ100になるバグを利用してルーク様やノティス様に恩を売り、証拠集めに尽力した。
すべてはカナリア様のため。
正ヒロインの立場は推しを救うために最大限利用させてもらった。
「ねぇ……クロエ……」
前世のことを思い出していると、カナリア様が話しかけてきた。
「はい。なんでしょうか?」
「私は……これからどうしたらいい?」
カナリア様はそう聞きながら、そっと私の腕をほどいて一歩先を歩き出した。
私はカナリア様の背中を追いかけながら聞き返す。
「うーん……カナリア様はどうされたいですか?」
「私は、そうね…………」
そこでカナリア様は沈黙した。
色々考えているのだろう。寡黙で責任感のあるお方だ。
王太子の婚約者という責務から突然解き放たれ、正真正銘、自由になってしまった。
役目を今更、外されても、何をすればいいのか。
そう戸惑うのも無理はない。
「ひとまず……」
それでもカナリア様は解を出そうとしていた。
「領地に戻る……というのは、どうかしら?」
「あ、いいですねぇ! あそこは王都の次に栄えていますし、しかも魔道具に必要な魔鉱石が取れる鉱山も近くにありますもんね。
あ、であれば魔道具を大量生産して魔法都市にしちゃうのはいかがでしょう? カナリア様は魔法にも精通していらっしゃいますから、もっと大きくできそうですね!」
「…………あなたはすごいわね」
「へ? そうですか?」
私が首を傾げると、カナリア様は立ち止まり振り返った。
「クロエ……私には……どうやらあなたの力が必要……みたい」
「——ッ!」
「あなたがよければだけど、私と一緒に………………」
カナリア様は相変わらずクールな表情で私を見つめていた。
けれど、その手は——ドレスの裾をギュッと掴んでいた。
そんなところも可愛くて微笑ましい。
「なに……笑っているのよ?」
「いいえ。カナリア様が本当に愛らしくて」
私はそう言いながら、カナリア様の手を優しく握った。
「はい。喜んで。私はカナリア様にどこまでも付き従います」
「そ……! そう……ならこれから……よろしくね」
カナリア様は恥ずかしそうに顔を赤らめて、視線を逸らした。
「はい! カナリア様!」
「でもクロエ……どうしてそんなに私のことを助けてくれるの?」
「それはカナリア様が私の推しだからです」
「お、推し……?」
カナリア様は聞き馴染みのない言葉に首を傾げて戸惑っている。
——あぁ。なんて可愛らしい。
「そうと決まれば、カナリア様! さっそく領地に行きましょう!」
「ちょ……ちょっとクロエ…………!?」
私はカナリア様の手を引いて走り出す。
——これでカナリア様は私を心から信用してくれた。
この瞬間のために私はこれまで計画してきたのだ。
計画通りにいってよかった。
カナリア様はもう何があっても私を手放そうとしないだろう。
「カナリア様……愛していますわ」
「え? …………何か言った?」
「いいえ。なんにも」
もう絶対にカナリア様を逃がさない。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今後の励みとなりますので、少しでも面白かったと感じていただけましたら、是非ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価いただけましたら幸いです。
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