9話「なんとか犯人を拘束したい」
「騎士団の奴らも大したことないな」
「お前魔法とけよ。その姿で喋られたら気持ち悪いんだよ」
先ほど煙を出したであろう魔法使いが、上から降りてくる。フードを被っており、顔は見えない。
「分かったよ」
少年はそう言うと、顔に手をかざす。すると、みるみるうちに背丈、顔が中年の男に変わっていった。
「...何回見ても気持ち悪いな」
「うるせえ。さてと、こいつらは殺すか」
顔を見られたからには生かしておくわけにはいかない。男はエリス達を見つめる。煙を吸い込んだせいだろう。皆すっかり気を失って...
「あのぉ」
突然、ロンが申し訳なさそうに男達に話しかけた。そう、彼だけがなぜか気を失っていなかった。
「なっ、お前なぜ起きてる!?俺の煙を吸い込まなかったのか?」
「いや、吸い込んだんですけど、僕、実はそういう魔法に耐性があって...」
そう、ロンには中途半端な毒や魔法は効かない...特に睡眠系に対しては。これも、エイの努力の賜物である。
この数年間、エイは説得だけでロンを追い出そうとしていた訳ではなく、実力行使も行なっていた。だが、魔法を使ってもロンに勝てるはずはない、ならどうするか。そこでエイが思いついたのは、睡眠薬を飲ませ、そのまま遠くの街にロンを置いてこよう作戦である。
しかし、その作戦も失敗に終わった。流石に致死量の睡眠薬を投与するのをエイが躊躇い、中途半端な睡眠薬を飲ませたのが間違いだった。ロンの体内では完全に睡眠薬に対する抗体が出来上がったのだ。
「えっと、皆さんが事件の犯人...ってことですよね?」
ロンは立ち上がり、男達に尋ねる。
「おいジョン!ずらかるぞ!」
先ほどまで少年だった男は、一目散に逃げ出そうとする。しかし...
「なんだこいつ!?」
男が逃げようとした先には巨大なクマの人形が立ち塞がっていた。
「やっぱり、子供を攫うなんて許せないよね?」
それはヒナの魔法だった。気がつくと、ヒナもロンの隣で立ち上がっている。彼女の手に握れるサイズだった人形が、今や2メートルほどの大きさになっていた。
「なんでお前まで起きている!?」
煙を出した犯人、ジョンは目を見開いている。その様子を見て、ヒナは子供っぽく笑った。
「ん?別にあの煙が効いてない訳じゃないよ。ただ、眠ったのが"あの娘"だっただけ」
ヒナはそう言いながら、クマの人形をジリジリと男に近づけていく。その姿はまるで別人のようだった。
「ロン君、この童顔中年野郎は吾輩が拘束するから、そっちの...ジョン?って奴拘束して」
ヒナはテキパキと指示を出す。
「え?ああ、ええと拘束拘束...」
ロンは頭の中で自分の使える魔法を思い出す。師匠に教えてもらったもので、人を拘束できる魔法はあっただろうか。
「何してんの?早くして」
オロオロしているロンにヒナが急かす。
人を拘束する魔法。そんなものは師匠から習っていない。ならば、知っているもので応用するしかない。
「ええと、ボルテクション!」
ロンが思いついたのは雷魔法だった。電気で犯人を痺れさせ、拘束する。悪くない作戦だ、ロンの魔法が規格外であることを除けば...
突然、空が曇り始め、帯電を始める。雲の形はまるでドラゴンのようだった。
「ジョンもう一度煙を出せ!」
男がジョンに指示を出す。
しかし、一度牙を剥いてしまえば、獣が口を閉じる理由などない。瞬間、暗雲から轟音と共に雷が落ちる。そして、その雷はジョンだけでなく、その場にいる人間皆を撃ち抜いていた。
そう、犯人だけでなく、味方までも...
「あなた正気!?」
黒いマントが、ロンの前をかすめる。そこにはヒナを抱えるエリスの姿があった。
「エリスさん!?起きてたんですか?」
「さっき起きたのよ!というか、こんなクソ狭いところであんな魔法使うんじゃないわよ!」
「初級魔法のつもりだったんですけど...」
よく見ると、エリスとヒナの服は所々焦げている。エリスの魔法を使ったのだろうか。二人ともなんとか致命傷は回避していた。そして、エリスに抱えられていることが原因だろう、ヒナは不機嫌そうな顔をしている。
「おいエリス。ロンを叱るよりもやることがあるんじゃないのか」
「ちっ、分かってるわよ。というか、いつもそんぐらいハキハキ喋りなさいよね」
ヒナの指摘に、エリスは舌打ちをしつつも、同意する。
道の端には、焼け焦げ、息も絶え絶えの犯人が横たわっていた。




