7話「なんとか原因をつきとめたい」
「今帰りましたー」
「ああロンか、お帰り」
ロンが帰宅すると、そこにはソファに突っ伏すエイの姿があった。なぜだろうか、出かけてきたロン以上に疲れているように見える。
そういえばサラの姿が見えない。もう帰宅したのだろうか。
「サラさんは帰られたんですか?」
「きっかり8時に帰ったわよ。何とか値段交渉したけど、料理と洗濯、あと風呂掃除をさせるのが限界だったわ」
「ええと、それは災難でしたね」
よく見ると、テーブルの上にはそろばんと契約書のようなものが置かれている。話し合いの末に、どうにかお互いが納得する形で契約したのだろう。
「で、騎士団はどうだった?相変わらずくそだった?」
「まあ、あはは」
ロンは同僚の様子を思い出し、笑ってごまかす。結局、今日だけで互いの軋轢を取り除くことはできなかった。これからに期待、といったところだろう。
「あーあ、私は疲れたからもう寝るわね。晩御飯はあのメイドが作っていったから、それ食べて」
エイが指さした先を見ると、そこにはパンやシチューが置かれている。さすがメイドといったところだろう。見た目も匂いも、店と遜色ないほどおいしそうである。
「あ」
「ん?どうかした?」
昼に騎士団で会った先輩のハセガという苗字、どこかで聞いたことあると感じていたが...
「エリスさんとサラさんの苗字一緒だ」
「皆さん、ごきげんよう」
「おはようございます!」
マアの挨拶に返事をしたのは、ロンだけだった。ほかの二人は髪をいじくったり、クマの人形と見つめあったりしている。
自己紹介をした次の日、さっそくロンたちは招集がかけられ、任務を請け負うことになっていた。隊長は不在なのだろう。ブリーフィングはマアが行うようだ。
「....返事をしてくれるのはロンさんだけですわね。ま、いいですわ。これからブリーフィングを行います」
そう言うと、マアは三人に書類を配り始める。そこには「昨今における児童連続行方不明事件の概要」と記されていた。
「そこに書いてある通り、最近、この町で行方不明になる子供が増加していますの。もちろん、家出という可能性もあるでしょうけど、騎士団としては”教団”との関係も視野に調べていく所存ですわ」
「”教団”?はっ。あいつらとうとう児童誘拐にまで手を染め始めたの?」
エリスは黒髪をなびかせながら、鼻で笑う。
「...あくまで可能性の話ですわ。けど、奴らの動きが活発化しているのも事実でしょう?」
「あのー、”教団”っていうのは何ですか?それは教会とは別なんですか?」
一人事態を飲み込めていないロンが尋ねる。
教会はロンも知っていた。彼自身が入ったことは無いが、十字架を掲げた建物は町でもよく見かける。だが”教団”とはなんだ?教会とは違うのだろうか。
ロンを見て、エリスが深いため息をつく。完全に呆れているようだ。
「”教団”というのは、いわば、魔法を用いる犯罪者集団ですわ。その実態はいまだつかめず、構成員は数十人とも、数百人ともいわれています。ただ、一つ分かっていることは彼らは”救世主”を探しているということだけ。例の辻斬りもおそらく”教団”の仕業でしょう」
「あなた、こんなことも知らずに、よく騎士団に入れたわね」
エリスからの悪態に、ロンは笑ってごまかす。ロンが何のテストも受けず、マムルの一存で入団したのを二人は知らないのだ。
「とにかく、あなたたちには、まず聞き込みをしていただきます」
「わかりました!」
突然、大きな声で返事をする者がいた。今の返事はロンではない。じゃあ誰が...
ロンとエリスが振り返ると、そこには涙ぐみながら人形を抱きしめるヒナの姿があった。
「絶対に原因を突き止めよう!」
ロンがヒナの話す姿をみたのは、これが二回目だった。
「グリル、本当にあいつを行かせて良かったのか?」
暗い部屋の中、ギルバーツは剣を磨きながらグリルに尋ねる。部屋にはギルバーツ、グリルの他にもう一人男が座っている。しかし、彼は話に興味がないのか、虚無を見つめたまま、ぼーっとしていた。
「ギルバーツ君は、どうしてもザイン君を信じれないみたいだね」
カウンターの向こうに座る老人は、読んでいた新聞から顔を上げる。
「確かに、彼にはまだ幼いところがあるが、下手な失敗はしないよ」
「そう!僕は失敗しないのさ!」
扉の方から件の少年、ザイン・アルバートが肩で風を切りながら歩いてくる。ギルバーツは無意識に舌打ちした。
「お疲れ、ザイン君。作戦はうまくいっているかい?」
「そりゃあもちろん!もうあのロンとかいうやつの周りには入り込んでるよ!僕の完璧な魔法によってね!」
ザインはカウンターに座ると、ギルバーツをいたずらっぽく見つめる。その目には相変わらず年相応の好奇心が見て取れた。
「僕の”変装”を見抜ける奴なんていないよ!」
「その、汚い自信にあふれた顔が見透かされなければな」
「ところで、グリルさん、奴ら行方不明事件の調査に行くみたいだよ」
ギルバーツを無視し、ザインは続ける。この場でザインを切りつけたくなる気持ちを、ギルバーツは何とか抑えた。
「まあ、お手並み拝見ってところだね、彼が本当に”救世主”になりうるのか」
ザインはカウンターの上を指でなぞり、子供が新しいおもちゃを見つけた時のように笑って見せた。
騎士団に入り込む奇術師の存在を、ロンたちは知る由もない。
思っていたよりも皆さんに作品を見ていただけて、作者自身も驚いています。
これからも不定期に投稿していきますので応援お願いします!




