6話「なんとか仲良くなりたい」
「やあロン君いらっしゃい。さ、座って」
「失礼します」
ロンは緊張の面持ちで勧められた椅子に座る。昨夜握手までした相手だが、騎士団に入った以上マムルはロンの上司なのだ。下手な言葉で話すわけにはいかない。それに、師匠はマムルのことを”親の仇”と言っていた。どこまで本当かロン自身にもわからないが、警戒はしておいた方がいいだろう。
「制服もなかなか似合ってるじゃない」
マムルはそう言い、ロンの姿を頭から足までざっと見る。ここに来てすぐ、ロンは制服に着替えさせられたのだ。今の彼は、黒いマントに身を包み、騎士団の一員としてふさわしい格好になっている。
「そう緊張しないでいいよ。サラから聞いたと思うが、今日はオリエンテーションみたいなものだしね」
「あはは、ええと...ありがとうございます」
ロンはまだ緊張が解けないのか、ぎこちなく笑った。まともに働いたことのないロンは、自分より立場が上の人とどう話せばいいのかがよくわからないのである。
「君は...人に気を遣われるのは苦手かい?」
「え?どういうことですか?」
マムルは唐突に、ロンを品定めするかのように聞いてくる。だが、ロンにはマムルが何を言おうとしているのか見当がつかなかった。
「まあ、この話はまた今度しよう。では、改めて騎士団へようこそ!本来は新入生たちと盛大にやるんだが、君は特例だからね。我慢してくれ」
「いえ!全然、隊長だけでもうれしいです!」
マムルはにこりと笑うと、椅子から立ち上がり、扉の方へ近づいて行った。
「これから君は基本的にチームとして動くことになる。だから今日は君の同僚たちを紹介しようと思ってね。入っていいよ」
マムルの合図とともに二人の少女が部屋に入ってくる。一人は黒髪で、いかにもしっかり者といった感じだ。髪は肩までの長さしかなく、前髪もまっすぐそろえている。
もう一人の少女は白髪で、髪は長い。だが、先ほどの人とは対照的に縮こまり、自信なさげにしている。
「あ、僕はロン・ポランといいます。まだ新米だけど、これからよろしくお願いします!」
ロンは自己紹介をした。だが、いつまで待っても二人からの反応はない。聞こえていなかったのだろうか。
「ええと」
「隊長、私言いましたよね。もっと使えるやつをよこしてくれって」
ロンを無視し、黒髪の少女は、マムルに詰め寄る。
「なのに新米ってどういうことですか?私は教育係じゃないんですよ!」
「あれ、違うの」
「はあ?」
少女からの圧に屈せず、マムルはにこにこしながら話す。黒髪の少女は、今にもマムルの胸倉につかみかかりそうだった。どうやら彼女は協力な助っ人がチームに入ると思っていたらしい。
「ごめんなさい、僕が実力不足なのは分かっています。けど、絶対努力して、足手まといにならないようにします!」
ロンは頭を下げる。さっき隊長は、これからはチームで動くと言っていた。なら、こんなところで仲を悪くしているわけにはいかない。それに、誠意を見せばきっと向こうだって考えを変えてくれるはずだ。そんなロンを見て、黒髪の少女は....
ちっ
舌打ちをした。どうやら無駄だったようだ。
「自分で名乗れないようだから、俺が代わりにこの子の紹介をしよう!」
マムルはそう言うと少女の肩をガチリとつかむ。
「あ!おい!セクハラで訴えますよ!」
「この、上司を上司とも思っていないのがエリス・ハセガ。こう見えてベテランだから、わからないことは彼女に聞いてね」
「離せ、ちょび髭!」
エリスは暴れ続けるが、マムルは離す気がないようだ。それどころかつかむ力を強めているようにも見える。もしやちょび髭という言葉が効いたのだろうか。だが、そんなことよりも...
(ハセガ?どこかで聞いたことあるような...)
ロンは思い出そうとするが、マムルは紹介を続ける。
「それで、あっちでさっきから黙ってるのが...」
「あ!ええと..ヒナ・グイース...です」
ヒナはロンに軽くお辞儀をすると、また黙り込んでしまった。よく見ると、彼女の手にはクマの人形が握られている。
「彼女もこないだ入団したばかりでね。仲良くやっていけると思うよ」
そう言いながらマムルはエリスにチョークを決めていた。さすがに苦しいのだろう。エリスは床をバンバンとたたき、降参の意を示している。
ロンは茫然とした。直属の上司からチョークをかけられる先輩に、黙り込む同僚、そして、明らかに人選を間違えている隊長...
(僕はこんな中でやっていけるのだろうか...)
ロンは師匠のためとはいえ、騎士団に入ったことを早くも後悔し始めていた。




