4話「なんとか丸く収めたい」
「以上が事件の概要ですわ....です」
「わかった。ご苦労」
騎士団の執務室で、マアは事の顛末を報告書に書き、提出していた。徹夜で作り上げたのだろう。彼女の目の下にはクマができている。
「やはり辻斬りの犯人は人間ではなかったか。魔法で作られた複製体、もしくは...」
昨夜、ロンが消し去った辻斬りは、改めて騎士団が調査したところ人間ではなく、魔法で作られたナニカだと結論づけられた。前から予想されていたことだが、今回でその事実が決定的になった。
「それで、そのロンという男には町のパトロールでもさせるのか?」
椅子に座り、報告書を読みながら男は聞く。
「そのことなのですが...マムル隊長が自らの直属にすると言ってまして...」
「まったく、あの人は」
男はため息をつく。彼に自分勝手なところがあるのは知っている。特に、自分が優秀だと思った人間をマムルは自分の部下にしたがるのだ。
「まあいい。許可しよう。ただしロン君には必ず見張りをつけろよ」
「それと...これは個人的な質問なのですが。団長は、エイ・ヨフチュウという女性をご存じですの...ですか?」
騎士団団長、スエヒロ・リュウタロウの動きがぴたりと止まる。団長はマアを睨むように見つめた。その目に、マアは気おされそうになる。
「...なぜそう思ったんだ」
「あ、いえ。マムル隊長とその女性が知り合いのようでしたので、団長もご存じかと...」
マアは冷や汗を流しながら答える。団長はもう50代後半である。しかし、一線を退いているとはいえその迫力は凄まじいものだ。団長は書類に視線を戻す。
「いや、知らんな」
「そうでしたか...失礼しましたわ」
マアは慌てて頭を下げる。
「マア君、君は昨日から寝ていないのだろう?今日はもう帰りたまえ。休暇届は私が出しておこう」
「ありがとうございます」
マアは恐縮しながら部屋を出て行った。団長はマアが退出したのを確認すると立ち上がり、窓から外を見つめる。
(エイ・ヨフチュウ、また彼女の名を聞くことになるとは。それに、ロンという規格外の魔法を操る少年...)
男の脳裏に7年前の出来事が浮かぶ。秘密裏に処理された、騎士団内での前代未聞の事件。責任を取り、辞めさせられていった魔法使い...
「もしかするとロンという少年、私と同じように別の世界から...」
男はそうつぶやくと、席に戻り、何かを書き始める。部屋の片隅の止まり木では、役目を待つかのように白いハトが毛繕いをしていた。
「あーなんかもう、何から話せばいいんだろう」
「ごめんなさい師匠。その、僕は師匠の役に立とうと思って...」
ログハウスの中では、エイがソファに仰向けになり、たそがれていた。そんなエイに対して、ロンは必死に言い訳をしている。
昨日の出来事から一夜明け、翌日。ロンは無事解放されたが、その代償に騎士団での労働が確定してしまった。しかもロンは家から出て行かず、ここから通勤するつもりらしい。
「仕方なかったとはいえ、よりにもよってあのちょび髭若作り男に...屈辱だわ」
エイは悔しそうな顔で天井を見つめている。
「師匠って、マムルさん..じゃなくて隊長と知り合いのようでしたけど、どういう関係なんですか?」
「親の仇よ」
「え?」
いつもの冗談だろうか。ロンはエイの表情を窺うが、ふざけているようには見えない。ロンが詳しく聞こうとした時、扉をたたく音がした。
「あ!今でます!」
ロンは小走りで玄関に向かい、扉を開ける。その先には....
「お世話になります」
メイドの姿をした少女が立っていた。ポニーテルにまとめられた黒髪は彼女の背中にかかっており、一目見るだけで身だしなみに気を遣っているのが分かる。
「マムル様からの要請により参上しました。ロン様でいらっしゃいますか?」
「ええ、ああ、そうです」
淡々と告げる少女に、ロンは少し戸惑う。そんなロンを前に少女は話を続けた。
「初めまして。今日からロン様の専属メイドとなります。サラ・ハセガです。...早速ですが、家の中へ入っても?」
「ええ、どうぞ...」
「失礼します」
サラはすたすたとログハウスへ入っていく。確かにマムルはメイドを派遣するとは言っていたが、こんなに早く来るとは思っていなかった。そして、思っていたよりも若い。勝手におばさんが来ると思っていたロンは、度肝を抜かれた。
「お聞きしたいのですが」
「え?何ですか?」
サラが部屋の隅を指さしながら聞く。その目は青く澄んでおり、見つめているとそのまま吸い込まれてしまいそうだった。
「あれはロン様のペットでございますか?」
「いや、ペットなんて...」
ロンは彼女が指した先を見つめる。
いきなり知らない人が入ってきて驚いたのだろうか。そこには布団に隠れ、中で震えるエイの姿があった。




