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3話「なんとか師匠の役に立ちたい」

「なにがなんでも遅すぎる!」


山の中にあるログハウス、エイは部屋の中をせわしなくいったり来たりしていた。ロンの帰りが遅すぎるのだ。


「いつもここまで遅くなることは無いし..それにさっきの爆発、まさかロンが関わってるんじゃ...」


先の爆発音はエイにも聞こえていた。花火か何かだと思っていたが、ロンの魔法だったとすればまずい。しかし、確かめる方法もない。やはり、探しに行くべきだろうか。そう思い、エイが玄関の方を向くと、誰かが戸を叩いていた。ロンが帰ってきたのかもしれない。エイは急いで戸を開ける。


「ロン!おかえり...」


そこにロンの姿はなかった。その代わり...


「ハト?」


そこには一匹のハトがいた。よく見ると手紙を口にくわえている。エイがその手紙を受け取ると、ハトは夜空へ飛んで行ってしまった。


「何かしらこれ」


エイは丸められた手紙を開く。そこにはこう書かれていた。


「ロン・ポランを拘束中。保護者は速やかに騎士団まで来ること。」








「ロンさんの保護者様ですわね?」


ツインテールの少女は、部屋に入りながら確認を取る。部屋の中にはすでに、いかにも魔法使いらしい帽子をかぶった女性、エイが座っていた。


「....」

「ええと、何か間違いがありましたかしら?」


黙り込んでいるエイに少女は戸惑いながら聞く。


「え、ああ、はい、すみません。ずっと山にこもりっぱなしで、その...ロン以外と話すのが久しぶりだったので...」

「はあ」


エイはすっかり委縮してしまい、もじもじしている。まるでエイの方が拘束されているかのようだ。


「ええと、ロンが何かしたのでしょうか?やっぱりさっきの爆発はロンが...」

「ご推察の通りですわ。ロンさんには建造物等損壊罪の容疑がかけられていて、町への被害は今確認できるだけで50棟ほどの家屋に損傷が....って大丈夫ですの!?」

「ああ、お気になさらず」


エイは机に突っ伏したまま答える。いつかこうなるだろうとは思っていた。普段から町では魔法を控えるようにと言いつけてきたが、ロンの力がばれるのも時間の問題だったのだ。エイの様子を見て気を遣ったのか、少女は先ほどの発言に付け加える。


「でも、ロンさんは辻斬りに襲われて、その犯人を捕まえようとして魔法を使ったんですわ!まあ、その犯人は跡形もなく消えてしまいましたけど...だから、見方を変えれば自己防衛のため仕方なく...」

「明らかに過剰防衛ですよね?」


エイは机から顔を上げる。その顔に生気は無く、世界に絶望したような顔をしていた。


「そういえば、ロンはどこへ?」


うつろな目でエイが尋ねる。


「ええと、ロンさんなら取り調べを受けていますわ。確か、担当はマルム隊長が..」


突然、エイが椅子を倒しながら立ち上がった。椅子はガシャンと音をたてて倒れる。


「どうかしたんですの?」

「早く...早くロンのところへ連れて行ってください!」


エイの顔に絶望は無く、その代わり怒りと焦燥がにじみ出ていた。








「その....やはり弁償とかになるんでしょうか」

「ん?ああ、まあ、それで済むといいけどね」


ロンは騎士団内の部屋で取り調べを受けていた。無論、彼の起こした爆発についてである。


「ほんとに爆弾とか使ってないの?魔法だけであれを?すごいねえ」


男は心底感心したように目を見開く。男は茶髪のツーブロックで、黒いマントと紋章をつけている。年齢は40代ぐらいだろうか。あまり見た目を気にしていないのか、あごには無精髭が生えていた。


「もしかして、禁固刑とかつきますか?そんなことになったら師匠が...」

「この状況で他人の心配かい?」


男は半笑いで報告書とロンを交互に見つめる。ロン・ポラン、16歳で前科どころか、どこかで働いていた記録もない。戸籍もでたらめ。そのうえ、とんでもない威力の魔法を使える。よくもまあこんな奴が今まで隠れていたものだ。


「...で?その師匠っていうのは君の保護者のことか?それなら今マアが事情を話しているが...」

「師匠が来てるんですか!?」


ロンは身を乗り出し尋ねる。


「師匠大丈夫かなあ。僕が帰れてないから晩御飯も食べれてないだろうし...それに、あの師匠が山から下りてくるなんて...」

「さっきから君は、その師匠とやらを気にしているらしいが」


男は足を組みなおし、手で髭をなぞる。その目は鋭く、紋章にある鷹の目のようだった。


「君が壊した家屋、そしてそこに住んでいた人たちのことは心配しないのか?」

「え、でも誰も亡くなってないんですよね?」


ロンはけろっとした顔で答える。男がロンを取り調べている中で感じていた違和感。師匠とやらへの執着かと思っていたが...


「君は不平等だな」

「え?それってどうゆう...」

「ちょっと、落ち着いてくださいまし!」


すると、何やら部屋の外から騒がしい声が聞こえてくる。


「いいから早く開けなさいよ!この部屋?」


外で騒いでいた女性、エイは部屋の扉を蹴り飛ばす勢いで開く。


「師匠!」

「ロン!早く帰るわよ!こんなところにいたら...」

「残念だが、それはできないよ。ミス・エイ」


男はポケットから煙草を取り出し、それに火をつけながら答える。


「彼はこの事件の容疑者だ。みすみす逃がすわけにはいかない。それに...君が保護者ならなおさらだ」

「...そう言って、また私を騙すつもりでしょう。マムル・イマダ」


ロンはエイの顔を見る。そこには、彼が今まで見たことないほどの嫌悪の情が表れていた。エイにマムルと言われた男は、煙を吹き出し、一息つくと話を続ける。部屋の中にたばこのにおいが充満し、ロンはせき込んだ。


「だが、俺も魔術師だ。こんなたぐいまれなる人材を牢屋で眠らしておくのは心が痛む。それに、決して故意でやったわけではなさそうだしな。だから、一つの条件をのめば、彼を解放しよう」

「隊長!そんな勝手なこと!」


出入り口から、先ほどまでエイと話していた少女、マア・フクドゥが口をはさむ。そんな彼女をマムルは片手を挙げて制止する。


「その条件は?」


エイはその様子を見ながら、マムルを睨みつける。どうやらマムルは騎士団の中でも地位が高いらしい。彼の一存で容疑者の釈放ができてしまうほどに。


「その条件は...ロン・ポランを騎士団に入れることだ」

「え?いやですけど」


ロンは即答した。まさかの条件と、ロンの答えを聞き、エイとマアは口を開けて唖然としている。


「...理由は?」

「いや、だって...騎士団に入ったら、家の家事とかできないし、だからと言って師匠ができるわけでもないし...」


思わずマアはエイを見つめる。いきなり家事能力のなさを暴露されたエイはぽかんとしていた。


「なるほど家事か...ならば君の家にメイドを派遣しよう。もちろん給料は私が支払う。これなら君も安心して働けるだろう。それに、騎士団は金払いがいいんだ。その金を使えば、”師匠”にもっといい暮らしをさせてやれるだろうなあ」

「師匠に...!やります!」


ロンはまたもや即答した。


「え!ちょ!私の許可とかは?」


ようやく話に追いついたエイがロンに詰め寄る。そんなエイが見えていないのか、ロンは椅子から立ち上がり、マムルの手を握る。


「これからよろしくお願いします!ええと...マムルさん?」

「こちらこそ。それと俺のことは隊長と呼んでくれ」

「わかりました!」


ロンは目をキラキラとさせている。お金を稼いで親孝行....いや師匠孝行ができることがよほどうれしいのだろう。こうしてロンは保護者の許可なしに騎士団に入ることとなった。これは見方を変えれば自立への一歩といえるだろうが、ログハウスからロン追い出すというエイの目的はまだ叶わずじまいである。











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