25話「なんとか家族を守りたい①」
ケニーは僕の目標だった。彼の後を歩けば、僕が失敗することは無かった。彼が避けるところを僕がよければ、落とし穴に落ちることは無かった。僕は兄の二番煎じ。けどそれでよかった。なぜなら、彼は僕のヒーローだから。ヒーローの背中は、憧れても、追いつけるものではないから。手を伸ばしても、届くものではないから。だから...だから、あのまま何とか一緒に生きて行けたなら。何とか家族みんなで、笑いあえたなら。それで、よかったんだ。
「お兄ちゃんは将来何になるの?」
一度だけ、ケニーに聞いたことがある。ケニーは、一般家庭に置いておくのにはもったいないくらい、魔法の才があった。
「うーん。そうだな...」
兄は前髪をくるくるしながら、しばらく悩んでいた。
白い髪と同じ背丈、はたから見れば僕らはほぼ同じだった。だが、それ以外は僕と真逆だった。例えば兄は、僕のようなしょうもない魔法じゃなく、植物を動かすことができた。
人を守ることができる魔法。僕もそんな魔法を使いたかった。だが、僕が覚えてしまったのは、上っ面だけを繕う魔法。そんな魔法では、人を守れないことは明白だった。
「騎士団...僕、騎士団に入ろうかな」
「いいじゃん!お兄ちゃんならきっと入れるよ!」
それは心から出た称賛だった。それでいい、兄はみんなのヒーローになるんだ。兄は、その魔法で多くの人を...
「だからザイン。お前も一緒に騎士団に入って、家族と、この町を守るんだ!」
「え?」
僕は素っ頓狂な声を上げた。兄と騎士団に入る?そんなことは無理だ、僕の魔法じゃ...
「僕は好きだよ、ザインの魔法」
俯く僕を見て、ケニーは心を読んだかのように言った。
「ほかの人に変身できるなんて普通出来ないことだし、ザインの魔法は、きっと人を幸せにできるよ!」
「人を幸せに...」
僕の魔法を人助けに使う。今まで考えたことは無かった。けど...けどもし、本当に僕の魔法で人を救えたら、兄とともに、ヒーローになれたなら、それはどんなに素晴らしいことだろう。僕はごくりと唾をのんだ。
「僕...僕、お兄ちゃんと騎士団に入るよ!それで、家族と、たくさんの人を助けるんだ!」
「よし、約束だ。これは僕の夢じゃない。僕らの夢だ」
兄が人差し指を僕の前に出す。僕はその指に、自らの指を絡めた。その指のぬくもりを、僕は今まで一度だって忘れたことは無い。
「二人ともご飯よー!」
下から母の呼ぶ声が聞こえた。夕食ができたのだろう。
「ザイン、騎士団に入るには、まず背を伸ばさなくちゃな。僕らはどっちも背がちっちゃいし、いっぱい食わなきゃ!」
ケニーは言うが早いか、一目散に階段を下りて行った。どたどたと階段を駆け下りる音。僕はその音をずっと胸の中でかみしめていた。
自分の魔法で人を幸せにする。僕の夢は、目標になった。きっと簡単なことでは無いだろう。でも兄となら、成し遂げられる気がした。
ある日の夕方だった。隣人の魔法が暴発したのか、もしくは、騎士団の魔法がたまたま家屋に当たってしまったのかもしれないが、はっきりとした原因は今でも分かっていない。ただわかることは、僕たちの家が赤く染まった後、黒い塊になってしまったこと。兄と父が逃げ遅れ、互いにくっついた炭の状態で発見されたこと。そして、母と僕だけが生き残ってしまったこと、それだけだった。
それだけ分かれば、母を壊してしまうには十分だった。
「母さん、入るよ」
僕は教会の一室に入る。母はベッドから上半身を起こしたまま、窓から外を眺めていた。
家が燃えてしまったあの日。たまたま買い出しに行っていた僕は、火事に巻き込まれなかった。しかし、兄と父は炎の犠牲になり、母は窓の下で気を失っていたところを保護された。
「でも...母さんが無事でよかったよ。母さんまでいなくなちゃったら僕...」
僕は泣きそうになるのを、何とかこらえる。この部屋に来るまで、僕は何時間も泣いていた。尊敬する父も、共に人を救うと約束した兄も、同時に失ってしまった。でも...でも僕は兄と約束したんだ。僕は、家族を守って見せる。
「母さんこれね、近所の人たちが見舞金だって。あと、まだ使えそうなものを家から持ってきてみたんだけど...」
母がゆっくりと振り向く。僕と同じ白い髪。太陽の光にその紙が透け、部屋の床に影を作る。そして母は、ゆっくりと口を開いた。
「ありがとう...私もあなたが生きていて嬉しいわ...”ケニー”」
僕は今、どんな顔をしているだろう。母が今までに僕らを見間違ったことは無かった。だから、このタイミングで僕を兄と間違えたのは、きっとそれが母の理想だったからだ。
生きていてほしかったのは、ケニー・アルバーツの方だったからだ。
「...どうしたのケニー?」
母は不思議そうな顔で僕を見た。
人を幸せにする。僕の魔法で、人を幸せにする。兄との約束、家族を守る...母を、救う。
「いや...ただ、父さんと”ザイン”が死んだのを悲しんでいただけだよ」
その日から、僕は兄になり、ザイン・アルバーツという名の少年は死んだ。




