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23話「なんとかドラゴンを貫きたい」


普通の少年。幼少期のザイン・アルバーツを一言で表すなら、これ以上の言葉はない。母親、父親、そして双子の兄との4人暮らし。決して金持ちではないが、貧乏ではない。実に満ち足りた生活を、ザインを送っていた。だが、一日。たった一日の、一瞬の出来事が、ザインを普通の少年から”押し上げて”しまった。







(気分がいい。空を飛ぶことが、ここまで気持ちの良いことだったとは)


騎士団の連中が下に小さく見える。巣をつつかれた蟻のように逃げ惑う姿は、上から見れば実に滑稽だ。


(ああ、素晴らしい。これが僕だ。これが...ザイン・アルバーツの本来の姿、これが僕の本性だ)


白いドラゴンは口を大きく開け、地面に狙いを定める。熱さは感じない。口から業火が吐き出される。駆除された蟻たちがもがく姿が、ザインにはどの星々よりもはっきり見えた。


「今だ!打てええ!」


突然、ザインの後ろ脚を注射に刺されたような痛みが襲った。後ろを見やると、釣り針のようなものが刺さっている。鎧は胴にしかついていないため、足は無防備なのだ。


「巻き取れええ!」


2番隊隊長、ガミルの掛け声で、隊員たちはロープの巻かれた機械を手で回し始めた。ザインにつながった針とロープは、ドラゴンを地面にできるだけ近づけようとするものだった。


(小癪なことを)


ザインは再び口を開き、炎を吐き出そうとする。しかし


「運命を掴みし怪物ヘカトンケイル!」


ガミルはランスを空へ掲げる。すると、掲げられたランスに呼応するように地面から複数の手が伸び出てきた。手はそのままドラゴンを掴むと、ブレスを吐こうとした口を抑える。


「射程距離内だ。美しい肌をしているが、その鎧抜きに見たかった」


ガミルはそのままランスをドラゴンに向け、突進の姿勢をとる。


「僕がこれを想定していないとでも思ったか?」


その言葉にガミルは思わず動きを止めた。ドラゴンがしゃべったのか?

多くの手に抑えられながら、ドラゴンはガミルを見つめる。


「ドラゴンを低脳と思って油断したな。だから、深く考えずに魔法を使った。そのおかげで、僕は射程距離内に近づけたというのに」


白いドラゴン、ザイン・アルバーツはにやりと微笑む。


「...!皆、防御姿勢!」


ガミルは振り返り、隊員たちに叫ぶ。撤退は間に合わないと瞬時に判断したガミルの、苦渋の決断だった。そして、ガミルは一人ランスを構え、ドラゴンに突進していく。


「粗雑な完璧に近い模倣エンプーサ


一瞬にしてザインの周りを白い煙が覆う。その煙に、ガミルは方向感覚を見失った。


ザインは本来、他人を変身させることはできない。理由は、単純に彼自身の魔力不足である。また、変装自体も、上っ面を変える程度の魔法。対象の魔法や身体的特徴までは模倣できないはずだった。


モーティスの手渡した薬、使用者の魔力を倍増させる効果をもつ。それを飲んだ今、「粗暴で完璧に近い模倣」の不可能は、すべて可能へとひっくり返った。


徐々に煙が晴れる。ガミルはランスを構えたまま、周囲を見渡す。盾を構えた兵士がガミルと同じく、周りを警戒していた。不発?違う、明らかにおかしい点がある。


「隊長!ご無事でしたか!」


隊員の一人がガミルに駆け寄ろうとする。しかし、その様子を見たほかの隊員は血相を変え、ランスを構えた。


「隊長がドラゴンに襲われているぞ!援護しろ!」

「え?」


途端、ランスに貫かれ、ガミルに駆け寄った隊員は血を吐き出す。


「皆、よせ!」


ガミルは止めようとするが、遅かった。ドラゴンへと変わり果てた隊員はその場で倒れこむと、そのまま動かなくなった。


「なんということだ...」


ガミルは拳を握りしめる。強く握りしめたその拳からは、血がしたたり落ちていた。


「第二ラウンド。といったところかな」


立ち尽くすガミルたちを見ながら、複数のドラゴンに囲まれたザインは、満足そうに笑った。










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