20話「なんとか真相を知りたい」
「いつまで泊まるつもりなんですか」
「そりゃあマチル君が帰ってくるまでさ」
店の2階を借りてから3日がたった。風呂や簡単な調理場が付いていたため、どうにかなっているが、もうそろそろ我慢の限界だ。
「というか、その息子が帰ってくる確信なんてありませんよね?」
「いや、来るね。あの鉄手、かなり精巧な物だ。そう大量に作れる物ではない。俺は、それを少なくとも5つは壊したんだ。向こうも作れるうちに作っておきたいだろうよ。それに...」
マムルは部屋の入り口を見る。そこには杖をついた店の店主が立っていた。
「うちのバカ息子を待って、ご苦労なことだな。これは差し入れだ」
「ありがとうございます」
エリスは店主から袋を受け取る。中にはパンが入っているようだ。焼きたてなのだろう、パンの香ばしい匂いが部屋に充満する。
「冷める前に食べなさい」
「エリス、止めろ」
エリスがパンに手を伸ばした時、マムルはそれを制止した。
「どうしたんですか?一欠片ぐらいなら隊長にもあげますよ」
エリスは不機嫌な顔でマムルを見つめる。自分達は3日間ほぼ缶詰状態だったのだ、これくらい食べてもバチは当たらないだろう。
しかし、マムルはエリスから袋を奪い取ると、中からパンを取り出し、剣で切った。
「ちょ、何して...」
「店長、俺は結構人を信じないタチでね。だから、こうゆう小細工にも気付ける」
マムルが切り裂いたパン。その断面は、青色に染まっており、普通のパンでないことは一目で見て分かった。
「睡眠薬...!」
エリスはその色に見覚えがあった。確か、睡眠薬は誤飲を防ぐために青色に着色されていると聞いたことがある。
「最初から違和感があった。あの鉄手、おそらくかなりの技術力がないと作れない。それこそ、長年その道で生きている熟練じゃなきゃな。それにあんた、なんでいきなり店を見に来たんだ?いくら自分の店とはいえ、もう随分昔に閉店した店に」
店主の顔はみるみるうちに苦悶の表情に変わっていった。
確かに、店主は鉄手の一部を見て、一瞬で息子が作った物だと見抜いた。親子だから分かった物だと思っていたが...
「あれはワシと息子で作った。最初はかなり苦労したが、なんとか実用化まで漕ぎ着けたよ」
店主は観念したように語り始めた。
ある日、音信不通だった息子がいきなり帰ってきた。親ってのは単純だよな。あれだけ、息子が帰ってきたら殴ってやろうと思ってたのに、息子に会えた嬉しさにすぐ上書きされちまった。そして、息子は帰ってくるなり言ったんだ。ある物を作るのを手伝って欲しいってな。
それが何に使われるのかは何となく分かっていた。おそらく、正しいことには使われないだろう。だが、俺は止められなかった。このまま息子と昔のように物を作って過ごせるなら、それでいいと思ったんだ。けど、すぐに罪悪感が胸を締め付けるようになった。当たり前だ、息子が犯罪の片棒担いでいるかもしれない状況で、正気を保てる親なんていない。今度帰ってきたら、あいつに聞こう。そしてけじめをつけよう、そう思っていた。
そんな中、あんたらがやってきた。あんたらが持ってる物を見てすぐピンときたよ。そして同時に、年貢の納め時だとも思った。その時が来た。息子と共に、罪の精算をする時が来たんだってな。
「だが、息子が捕まるのが怖くなった」
マムルの言葉に、店主は力なく頷く。
「あんたらを騙すようなことをして申し訳ない。だが、俺は...」
「店主、息子はいつから帰ってきてないんだ」
こうべを垂れる店主にマムルは聞く。店主が製作を手伝っていたことは分かった。だが、肝心のモーティスの居場所は、知っているとしたら息子の方だろう。
「息子は...一ヶ月前から帰ってない」
「一ヶ月前か...」
空いている期間としては、もうそろそろ帰ってきてもおかしくない。だが、こちらの行動が勘付かれている可能性もある。このまま張り込みを続けるべきなのか...
「黙っていたのは俺の方だ。あいつはバカだから、あんな武器、きっとあいつは騙されて...」
「待て、なぜあれが武器だと分かった?」
確かにあの鉄手は武器として使われていた。だが、普通はあれが武器になるなど思うだろうか?実際、マムルも最初は義手だと思っていたのだ。
マムルは店主に詰め寄る。その剣幕に、老人は思わず一歩後ずさった。
「店主、もう一度聞かせてくれ。あなたは一体、"なに"を作ったんだ?」




