2話「なんとか不審者を捕まえたい」
「安いよ!大特価だよ!お、ロンじゃねえか!どうだこのリンゴ?今ならなんと20ポロぽっきり!」
「確かに安いですね。師匠も喜びそうだし....二つください!」
ロンは町の市場に買い出しに来ていた。市場は活気にあふれており、商品の宣伝をする声であふれている。ロンは2週間に一回、ここに買い出しに来るのが日課になっていた。
(師匠喜んでくれるかな..)
「ところでロン、知ってるか?」
リンゴをしまうロンに店主の男が声をかける。
「何をですか?」
「いやなんでもな、最近この辺に辻斬りが出るらしい。しかも...」
男はロンに耳打ちする。
「被害者は全員目がくり抜かれてたんだってよ」
「それは..怖いですね」
ロンは顔をしかめる。人を殺すだけでなく、そんな残忍なことをするとは。
「騎士団のやつらも探してるが、まだ見つかってないらしい。お前さんは細いからな...襲われないように気をつけろよ」
「怖いこと言わないでくださいよ」
ロンは苦笑する。それにしても、そんな事件が巷で起こっていたなんて...
目をくり抜かれて殺される、そんな恐ろしいことが...
ロンは想像し、身震いした。
(あまり考えないようにしよう。とにかく今は買い出しをしなきゃ)
「すっかり遅くなちゃったなあ」
ロンは両手に食料の入った袋を持ちながらつぶやく。空はすっかり暗くなっており、市場から少し離れたこの道ではすれ違う人もいない。
(靴屋のおばさんと長話しすぎちゃったな)
靴屋の店主の話が長いのはロンも知っているが、人の良い彼はいつも最後まで話を聞いてしまうのだ。ロンが空を見上げると空には星が瞬いている。
「きれいだな...ん?」
空には星とは別に人間のような形のものが浮かんでいる。布が風で飛ばされているわけではなさそうだ。
「なんだろうあれ」
ロンが目をさらに凝らす。瞬間、その人型のものが急速に近づいてきた。
「鳥かな?それにしては...」
「危ない!」
ロンはいきなり突き飛ばされ、そのまま道の傍らに投げ出される。彼を突き飛ばしたのは金髪でツインテールの少女だった。黒のマントをまとっており、肩には鷹の形をした紋章をつけている。
(この紋章って、騎士団の...)
「突き飛ばしたことはごめんあそばせ!けど、早く逃げて!」
先ほどまでいた場所を見ると、三本の傷跡に沿って地面がえぐれている。上を見上げると、その傷をつけたであろう人間が浮かんでいた。その手には三本の刃物が握られており、全身は包帯にくるまれていて顔は見えない。
「ようやく姿を現しやがりましたわね!今度こそ捕まえてやりますわ!」
少女はそう言うと懐から杖を取り出し、そのまま杖の先を、浮かんでいる人間に向ける。
「ファイヤーボール!」
彼女の声と同時に杖の先に炎の球が生成され、そのまま火球はまっすぐ飛んでいった。しかし、少しのところでかわされてしまう。
「ちぃ!逃がすかですわ!ファイヤー...」
「あのー」
戦闘中にいきなり声を掛けられ、少女は驚いてロンの方を振り返る。ロンはそんな彼女の様子を窺うように尋ねる。
「あの人を動けなくすればいいんですよね?」
「そうですけど...危ないからおさがりに...」
「わかりました!」
ロンはそう言うと深呼吸をし、空へ逃げていく人間に手をかざす。
「ええと、ファイヤーボール!」
ロンの出した”それ”は少女が出したものとは大違いだった。より大きく、より熱く、そして...
より周りへの被害が大きかった。
ロンの出した火球はさながら太陽のようだった。その火球は、一瞬で逃げていく包帯人間を飲み込み、宣言通り動かなく、それどころか燃やしつくしてしまった。
「なんて大きさですの...」
少女は目を見開く。あんな大きさの火球、出したことがない。いや、あんなもの団長にも出せるかどうか...
「あのー。建物の隙間とかに隠れた方がいいかもしれませんよ?」
「え?」
ロンは横で驚愕している少女に言った。
「本当に申し訳ないんですけど...。多分、このまま爆発します。」
結果として、この爆発は奇跡的に死者は出なかったものの、建物56棟の倒壊、損傷を引き起こした。原因不明の爆発事件。のちにこの事件は「夜に昇った太陽」として語り継がれていくことになった。




