15話「なんとか距離を縮めたい」
「すごい!広いですねー!」
ロンは馬車から顔を出し、思わず感嘆の声を漏らした。ここは騎士団が管理する街からは離れた平原である。ロカノ平原、この平原はそう呼ばれているらしい。
風に揺れる草木、毛をなびかせながら草を食べる鹿、空をかすめていくグリフォン。基本町から出ることのなかったロンにとって、彼の目に映るものはすべて新鮮に見えた。
「あまり顔を出すなよ。危ないぜ」
「ああ、すみません、ハリスさん」
ロンは顔を覗かすのをやめ、馬車の椅子に座りなおす。緑髪の男、ハリスは一番隊の隊員で、ロンの先輩である。謹慎を受けたエリスの代わりに、共に任務を請け負うこととなったのだ。
「こっからは完全に自然の世界だ。魔物が襲ってきたりするかもしれねえ」
「気を付けます」
ハリスは面倒見がいいらしく、先ほどからずっとロン達のことを心配するような言動を見せていた。教育係としては、エリスよりもよっぽど適役に見える。
「うぷ...」
「君も無理して座っとく必要はないぜ。まだ到着までは時間がある。横になってな」
ヒナはどうにも調子が悪そうだ。本人曰く、乗り物酔いらしい。
(彼女もまだ底が見えないな)
ロンはゆっくりと横になるヒナを見ながら、こないだのことを思い出していた。時折見せる別人のような言動。そして、ロンはともかく、エリスより早く目覚めれた理由。まだ何か隠していることがありそうだ。それに、彼女とは心の距離を感じる。
(今回の任務で距離を縮めれたらいいけど...)
ロンはそう思いながら、自らも目を閉じるのだった。
「エリスちゃん元気ー?ウン!ゲンキダヨー!」
「死にたいんならそう言ってください。できるだけ苦しめて殺してあげますよ」
耳につく裏声でエリスに話しかけてきたのは、一番隊隊長マムルだった。エリスは、同僚を吹っ飛ばした件について、反省文を書いている途中だ。
「何の用ですか?遺言なら他を当たってください。今忙しいので」
「仮にも直属の上司にひどくない?」
マムルに対するエリスの当たりはさらに強くなっていた。彼女は完全に上司をストレスのはけ口にしているようだ。
「君に任務だよ。そんな反省文はさっさと書き上げちゃいな」
「謹慎中の人間に任務を与えていいんですか?」
エリスは、マムルの顔と反省書を交互に見ながら、ペンを走らせている。
「...これは団長からの任務ではない。あくまで、俺個人のものだ」
「...内容は?」
エリスは書類を束ね、それらをまとめる。反省文は書き終わったようだ。
「内容は、モーティスの追跡だ。実は、興味深いものを見つけてね、モーティスという名が彫られた鉄手だ。調べた結果、これは市販のものではなく、どこかでオーダーメイドされたものだと分かった」
「...それが作成された場所を探しに行くということですか」
エリスは書類を置いて立ち上がり、マムルを見つめる。
「ああそうだ。もしかすると、誘拐された子供たちの行方も分かるかもしれん」
誘拐犯が、モーティスという名をしゃべったのはマムルも知っていた。
「...わかりました。ただし、任務の報酬として、私とお姉さまに同期間の休暇をください」
「約束しよう」
マムルの言葉にエリスは満足そうにうなずくと、彼女はそのまま部屋を出て行った。
(できれば一人で行きたかったが、多対一も想定される。モーティスが逃げ出しても、彼女の魔法なら追いつけるだろう)
マムルは、そんなことを思いながら、ふと机の上に放置された反省文を見る。そこには、でかでかと書かれたマムルの似顔絵とともに、ちょび髭という落書きがされていた。




