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14話「なんとか過去を聞き出したい」

「...といった感じですかね」

「なるほど...ご協力感謝しますわ」


マアはペンを走らせながら、向かいに座っている女性に感謝の意を示す。関係者に話を聞き、事件の概要をまとめるのは主にマアの仕事だ。本来は隊長も手伝うべきなのだが、マアが一人でやった方が圧倒的に早いため、この隊ではほぼ彼女だけでやっている。


「じゃあ、これで私は失礼します」

「お見送りいたしますわ」

「大丈夫です!何回か来たことあるので」


そう言うと、シスターマリアは部屋から退出した。

教会と騎士団は昔から協力関係にある。特に、治療行為を騎士団関係者に行った場合は、こうして報告に訪れることになっているのだ。


「あのぉ。教会の方...ですよね?」


気がつくと、マリアの前に一人の少女が立っていた。手にはクマの人形を持っており、不安そうな様子だ。


「そうですけど...あれ?あなたどこかで...」

「良かった...あの、実は治療してほしい人がいるんです」


白髪の少女はマリアの手を引っ張り、どこかへ連れて行こうとする。


「ちょ、ちょっと待ってください」


マリアは足を踏ん張り、少女を止める。確かにマリアは治療出来るが、あまり大きな傷は治し切れないのだ。自分の手に負えるものか確認しておく必要がある。


「えっと、治療するのは良いのですが、その人はどんな症状なんですか?」

「...かけです」

「え?」


声が小さく、上手く聞き取れない。マリアが聞き返そうとした時、少女が振り返った。その目には涙が溜まっている。


「ロン君が...死にかけなんです」










白い光が目に差し込んでくる。太陽の光かと思ったが、どうやら違うようだ。ロンはゆっくりと目を開ける。そこには白い天井があった。


「知らない天井だ...」

「目を覚ましたようですね」


ロンが寝返りをうち、声のした方を見るとそこにはマリアが座っていた。目を覚ましたロンを見て、安心したように微笑んでいる。


「死にかけ...なんて言われた時はビックリしましたが、軽い脳震盪でよかったです」

「僕...何をされたんですか?」


ロンはマリアに聞く。エリスの殺気を感じたあとの記憶が曖昧だ。何か一瞬で吹き飛ばされたような...


「やあロン君!お見舞いにきたよ!」

「えっと、隊長さん?怪我人の前ではお静かに」


突然入ってきたのはマムルだった。マリアの注意が聞こえているのか、聞こえていないのか、マムルはそのままのトーンで続ける。


「エリスは減給処分になった。あと、一ヶ月は君の半径2メートル以内に近づくのも禁止だ。いやあ、災難だったね。あ、これお見舞い用のりんご」

「はあ、どうも」


ロンはマムルからりんごを受け取る。よく磨かれており、ロンのポカンとした顔が、反射して自分でもよく見えた。


「おっと、そのままでは食べれないね。俺が剥いてあげよう!」

「その...エリスさんは、サラさんが僕の家で働いているってことを知った瞬間怒り始めたんです。隊長...もしかして知ってましたか?」


ピタリとマムルの動きが止まる。どうやら心当たりがあるようだ。


「...分かった。話そう。君には知る権利がある」


マムルはロンに向かい直すと、真剣な顔で見つめる。その剣幕に、思わずロンは唾を飲んだ。


「彼女たちとの最初の出会いは、二人が仕事を探して、俺の屋敷のメイド面接を受けにきた時だった。その時、エリスの魔法の才をいち早く見抜いた俺は、サラをメイドとして雇い、エリスに騎士団の入団試験を受けさせることにしたんだ。だが、俺はある事実を失念していた...それは、エリスが度を超えたシスコンだと言うことだ」


そこまで話すと、マムルはふぅーっと息を吐く。その場にいるマリアとロンは何も喋らない。だが、二人の感想は一致していた。


(いったい自分たちは何を聞かされているんだ?)


「サラと同じ職場で働けないと知ったエリスは暴れ狂った。俺を殴り蹴り、ちょび髭と罵った。俺はエリスからいじめを受けていたんだ」


マムルはわざとらしく手で顔を覆う。どこまで本気で言っているか分からないが、エリスがマムルによく殴りかかっていた理由を、ロンはようやく理解することができた。


「だから、サラを君の家に派遣した。俺のメイドじゃないと知れば、エリスは俺をいじめるのをやめてくれると思ったからだ」

「そんな浅い考えでサラさんを派遣したんですか?」

「...君も言うようになったね」


流石のロンもこれには苦言を呈さずにはいられなかった。一方マリアは、完全に部屋を出るタイミングを見失い、オロオロしている。


「だが、結果として君を傷つけてしまった。これはお詫びの印だ」


マムルはそう言うと、ロンにりんごを差し出す。りんごはドラゴンの形に切られていた。


「...器用ですね」

「ところで、ここからが本題なわけだが。すまない、ここからは騎士団の話になる。シスターには退出願いたい」


マリアにとっては願ったり叶ったりである。二人に軽く挨拶を済ませると、マリアはそそくさと部屋を出ていった。


「あの誘拐犯達のその後は聞いたか?」

「いえ、まだ...」


ロンは首を振る。報告書は自分の行動を書けばよかったため、事件のその後をロンは知らない。


「少し考えればわかることだが、別にあいつらは君たちを襲う必要はなかった。だってそうだろう?あいつらは騎士団を罠にはめようとせず、ただ隠れてればよかったんだからな」


確かにそうだ。あの手口で子供を誘拐していたのだろうが、わざわざ僕たちにまで仕掛ける理由はない。むしろ、自分の身を危険に晒すだけだ。


「この件について、あの睡眠煙君に尋ねたんだが、知らないの一点張りだったよ。なんでも相方のケビンが勝手に決めたことらしい。そして、ここからが重要だ」


マムルは懐からタバコを取り出し、火をつける。


「そのケビンとか言うやつ、まだ意識が正常に戻らない。魔法のショックにしてはあまりに不自然だ。で、調べさせたところ、あいつの体から未知の薬品が検出された。おそらく、それが原因だろう」

「未知の薬品...ですか」


ロンは昨日のことを思い出す。現場の周りには怪しい薬物のようなものはなかった。ならば、事前に飲んでいたのか?


「まあ、ここから先は別の隊の仕事だ。そういう事に詳しい奴がいるんでね。あと、君には新しい任務がある」

「もう新しい任務ですか?」



先ほど報告書をやっとの思いで書き終えたロンにとっては、休みが欲しいところだ。


「まあまあ、そんな難しい任務じゃないよ。任務自体も明後日からだしね」


マムルはタバコの煙を吐き出すと、ニヤリと笑った。


「いや何、ロン君には、ドラゴン狩りに行ってもおうかなと思ってね」








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