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13話「なんとか関係を聞き出したい」

「ザインのやつ、調子はどうだ?」


治療部屋から出てきたグリルに、ギルバーツは声をかける。


「けが自体は大したことなかったよ。ただ、問題は彼のハートだろうね」


そう言うと、グリルはそのままカウンター席に座り込んだ。ここは”教団”のアジトである。今この場には、グリル、ギルバーツ、そして無口な大柄の男、トンプソンがいた。


「しかし...あのマムルとかいうやつ、とんでもない化け物だな。トンプソンの手を五本も持っていくなんて」

「...」


トンプソンの浮かぶ鉄手は特別な合金でできており、普通、剣で切られるようなことはまずない。だが、あの隊長は一瞬で鉄手を破壊した。いったいどんな魔法を使ったのか、ギルバーツには見当もつかない。


「それにしても、ギルバーツ君は仲間思いだねえ。あれだけ言ってても、結局ザイン君を助けに行くんだから」

「...俺はただ”教団”の情報が漏洩するのを防ごうとしただけだ」


ギルバーツはきまり悪そうに下を向く。そんな彼を、グリルはニコニコ見つめていた。


「実際戦ってみてわかっただろうけど、うちの戦力は騎士団と比べて貧弱だ。奇襲だから何とかなったものの、正面から戦っていたらおそらく全滅だっただろうね」


グリルは立ち上がると、部屋全体を見まわすように言う。


「だから、我々も戦力を増強する必要がある」

「具体的にどうするんだ。まさか、プルのことじゃないよな」


プルは”教団”の構成員である。しかし、アジトに顔を出すことは少なく、ギルバーツも一年ほどあっていない。


「まあ、見ればわかるよ」

「まさか...もう呼んだのか?」


その時、何者かが扉を開ける気配がした。全員の目線が出入り口に集まる。そこから出てきたのは、スーツをまとい、ペストマスクをつけた男だった。


「久しぶり皆さん!私が帰ってきましたよ!」

「誰だてめえは」


ギルバーツには見覚えのない人物だった。というか、こんな変な恰好をしたやつを見た覚えがあってほしくなかった。


「おやあ?どうやらあなたは初めましてのようですねえ。よろしい!では改めて自己紹介をしましょう!名前くらいは憶えて帰ってくださいね!」


そう言うと男はカウンターに上り、両手を高らかに挙げる。


「私はモーティス!魔術師兼、技術士兼、魔法研究者です!」

「モーティス君、土足でカウンターの上に上るのはやめてね」

「これは失敬!」


モーティスはグリルからの注意を素直に聞き、カウンターから下りた。


(こいつがモーティスか)


ギルバーツも彼の名前は聞いたことがあった。確か、トンプソンの鉄手を作ったのもこの男だったはずだ。まさかここまで怪しい奴だとは思わなかったが...


「では本題に移りましょう!ここに取り出したるは一本の薬瓶!」


モーティスは懐から一本の瓶を取り出す。そこには緑色の液体が入っており、明らかに体に悪そうだった。


「これを飲めば、あら不思議!一気に魔力は倍増!騎士団を皆殺しにできること間違いなし!」

「誰がそんな怪しいもん飲むかよ」


ギルバーツは頭の後ろで手を組み、興味なさそうにつぶやく。こんなものを飲んで騎士団を全滅させられるなら苦労はしない。それに、自分たちの目的は救世主を探し、手に入れることなのだ。騎士団を皆殺しにすることでは無い。


「誰も飲まないんなら、僕が飲むよ」


いつの間にか、そこにはザインが立っていた。だが、その顔に以前のような生気は無く、目もうつろである。


「素晴らしい!ではあなたにこの薬を預けましょう!」

「やめとけザイン。自暴自棄になるには早いぞ」


ギルバーツの忠告を聞かず、ザインはモーティスから薬を受け取る。緑の液体越しに、カラスのような仮面が歪んで見えた。


「これで僕も...あは、あはははは」


ザインの高笑いがいつまでも部屋の中をこだましていた。








「あー疲れたー!」


ロンは背伸びをすると、椅子から立ち上がり、窓から外を眺める。ロンは、こないだの事件の報告書を書いていた。とてつもない量だったが、ようやくすべて書き終わったのだ。


(それにしても、まさかあのマアさんが偽物だったなんて...)


”教団”が騎士団に入り込んでいたことは大々的には知らされていない。騎士団内のごく一部、ロン達のような当事者以外は、隊長クラスしか、このことを知らない。なんでも、騎士団内で団員どうしが疑心暗鬼になるのを防ぎたいらしい。


ちなみに、偽物の話を知ったエリスが、マムルに「死ねええ!偽物おお!」と言って殴りかかっていたが、一瞬で制圧されていた。


(なんでエリスさんはあんなに隊長のことを嫌ってるんだろう)


「外を眺めてぼーっとするなんて。ずいぶん余裕そうねロン君」


はっとしてロンが振り向くと、そこにはいつもの黒い制服に身を包んだエリスの姿があった。


「あ!いや!違うんです!ちゃんと報告書は書き終わりました!」

「そ。ならいいけど」


エリスはロンの隣に立ち、一緒に外を眺める。


「昨日は元気なさそうだったけど、回復したみたいね」

「あ!はい!もう大丈夫です!ご心配おかけしました!」


ロンはエリスに頭を下げる。どうやらエリスは、ロンを心配して様子を見に来てくれたようだ。こういう面倒見の良さから、マムルはエリスを教育係として認識しているのだろう。


そういえば、エリスさんに何か聞こうとしていたことがあったような...


「あ!そういえばエリスさんに聞こうと思っていたことがあるんですけど...」

「何かしら」


エリスはロンを見る。風に吹かれ、黒髪がさらさらとなびいた。


「いや、うちにいるサラっていうメイドさんが、エリスさんと同じ苗字なんですけど、お二人って何か関係が...」


そこまで言い、ロンは口を紡ぐ。エリスの様子がおかしい。調子が悪い?いや違う。これは明らかに切れている。いったい何に?


「そう...あなただったのね。お姉さまを奪ったのは..」

「お、お姉さま?」


ロンは思わず後ずさる。とんでもない殺気だ。


「あのちょび髭のメイドじゃなくなったって言うから、今度こそ二人の時間が作れるって思っていたのに...あなたの、いや、お前のせいで」

「お、落ち着いてくださいエリスさん」


少しずつ近づいてくるエリスを、ロンは何とか止めようとする。だが無意味だった。


「殺してやる」


それは地獄から響いてくるような、恐ろしい声だった。








「....?」

「どうかしたのサラ?」


エイはいきなり足を止めたサラに尋ねる。


「いえ...何となく妹の声が聞こえた気がしたので...」

「へえ。あなたって妹居たのね?知らなかったわ」


サラは窓から外を見る。

庭の低木では、二匹の小鳥が楽しそうにダンスを踊っていた。








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