12話「なんとか傲慢でありたい」
「今...帰りました」
「お帰りー」
ロンが帰ると、ソファでエイがくろいでいた。サラに作ってもらったのだろうか、手に持つ器の中にはポップコーンが盛られている。
「ロンも食べていいわよ?」
「いや、僕は...大丈夫です」
ロンは力なく返事をする。あれから、ロンの頭の中にはとめどなく言葉が巡回していた。
君は不平等だな。お前は空っぽだ。お前は”正しさ”を知らない。
その言葉一つ一つが彼の心臓を締め付ける。
「ロン大丈夫?どっか調子が悪かったり...」
「師匠は、僕を誰だと思いますか?」
異変を感じロンを心配する師匠の言葉にかぶせながら、ロンは食い気味で聞いた。あまりに抽象的な問いに、エイは面食らった様子でロンを見つめている。
「僕...今日感じたんです。今考えて、しゃべって、行動しているのは本当に僕なのかって。もしかしたら...誰かから教え込まれたことをそのままトレースしてるだけなんじゃないかって」
ロンはぎゅっと自分の服をつかむ。自分が言っていることが無茶苦茶なのは分かっている。こんなもの議論してもなんの答えも出ない。でも...
「分かるわよその気持ち。」
「え?」
エイからの意外な返事に、ロンは思わず声を漏らす。
「私も魔法使いを目指してた時よく思ってたわ。自分の夢は、ほんとにこれなのか。ただ母親の人生をなぞっているだけじゃないかってね」
玄関に立ちっぱなしのロンを振り返り、エイは続ける。
「けど、私途中で思ったの。大事なのは傲慢だって」
「傲慢...ですか?」
エイはポップコーンを一個ロンに投げる。思わずロンはそれを手でキャッチした。
「例えばそのポップコーン。それは、どこかの農家がトウモロコシを作って出荷し、あのメイドが買ってきて作ったものよ。けど、こうして私が食べていなかったら、農家もメイドも働いた意味はない。私が食べることで初めて彼らの行動に”意味”が生まれた。そう、自分で思い込むのよ」
エイはそう言い、ポップコーンを口に運ぶ。ポリポリと小気味いい音が室内に響いた。
「これを人生にも当てはめるのよ。あなたは謙遜が過ぎるわ。もっと傲慢でいなさい、もっと胸を張っていなさい。あなたは映し出された存在じゃない、あなたがオリジナルで、周りがあなたをトレースしてるのよ。自分を誰かのモノマネだと思い込むことほど、無意味なことは無いわ。」
「....」
ロンは黙り込む。傲慢さ。僕の正しさは、自分だけのものだと言える自信。
「それに、あなたがたくさんの建物を壊したことなら、あなただけが背負い込むことはないわ。たまには師匠も頼りなさい」
「...ありがとうございます。ちょっとだけ、心が軽くなった気がします」
ロンはにこりと笑う。久しぶりに心から笑えた気がした。
「じゃあ、僕先にお風呂入ってきますね!」
「ロン」
洗面所に行こうとするロンをエイは呼び止める。
「なんですか?」
「いや...何言いたいか忘れたわ」
エイはそう言い、視線をポップコーンに戻した。ロンは再び洗面所に向かって歩き出す。
...また言いそびれてしまった。自分勝手にとは言ったものの、やはり彼は他人思いだ。一度相手を認識すれば、無意識にでも気を遣ってしまう。
誰から教えこまれたたのか。そう言われて、一番に思いつく候補は自らの生みの親だろう。だが、彼は聞いてこなかった。彼の両親のことを聞いてこなかったのは、私が知らないものと納得しきっているのか、それとも...
エイは最後のポップコーンを取り上げると、噛まずに一気に飲み込む。ところどころ食道に引っ掛かるポップコーンの気持ち悪い感触を、エイは自らへの罰だというように享受していた。




