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11話「なんとか生きたい」

(あの雷、確かに威力はすごかった...)


ロンたちが犯人を教会に輸送した後、ザインは雷が落ちた跡を調べていた。


あのドラゴンのような雲から放たれた雷、あんなものを連発されれば、熟練の魔術師でも無傷ではいられないだろう。


「これで初級魔法か...グリルさんたちが言っていたことも、あながち間違いではないのか?」


こんな大技を出しておきながら、ロンにはまだ魔力に余裕があるように見えた。


本当に、彼なら”救世主”に....


「やあ、マア隊員。”こんなところ”で何か探し物かい?」


路地裏の暗闇から、剣を携え歩いてきたのは、一番隊隊長マムルだった。煙草を吹かせているが、その目は鋭く、一切の油断がないのが見て取れた。


「いえ...ロン君たちが無事任務を遂行したようですので、その後始末をしに」


マアの”変装”をしたザインがマムルに微笑む。


「マムル隊長こそどうされましたの?隊長たちの会議があったんではないですの?」

「ああ、あったよ。団長殿が気を遣って早めに終わらせてくれたんだ」


そういうことか。ザインは唇をかむ。隊長が不在の間に観察を済ませるつもりだったが、悠長に構えすぎた。とにかく、今はこの場から一刻も早く立ち去らなくては。


「帰ってきて驚いたよ。俺があいつらに直接説明しようと思ってた事件の調査に、すでに向かったっていうんだからな」


マムルは煙を吐き出す。ザインはじりじりと足を後退させる。この男はまずい。彼の本能がそう告げていた。


「それに、君は休暇中のはずだが?」

「...仕事があったので、休暇を取りやめましたの」


ザインはスカートの中に隠しておいたナイフに手を伸ばす。これを投げつけ、その間に逃げる、それしかない。


「...まあ、なんだ。このままでもらちが明かねえな。とりあえず、目上と話すときは座ろうや」

「サラマンダー」


突如、ザインの足を炎の矢が貫いた。あまりの痛さに、ザインは意図せずその場に座り込む。


「まったく、人の姿をまねやがって気持ち悪い奴ですわ。私の休暇を台無しにしてるんじゃねーですわよ」


杖を持ちながら後ろから現れたのは、本物のマアだった。杖の先をザインに向けたまま、マアはため息をつく。


「で?君は”教団”の者か?ロンに用事があったようだが...」


マムルは跪くザインを上から見下ろす。しかし、マムルの言葉は何一つザインには届いていない。今、彼の脳内を支配しているのは”痛み”と”怒り”だった。


痛い。何が起きた?後ろから攻撃されたのか?痛い。立ち上がれない。足が熱い。痛い。なぜ僕が。僕はただ...


気づけばザインは地面に叫んでいた。


「僕が...僕が何をしたって言うんだ!いつもお前らはそうだ!僕はただ、”生きたい”と、そう願っただけなのに!お前らが...いつも邪魔をする!」


ザインの魔法は解け始め、顔がどろどろと溶けかけていた。


「マア、こいつを拘束...」

「もうたくさんだ...もう十分だ!トンプソン!見てないで助けろ!」


マムルの言葉を遮り、ザインは叫ぶ。それは、死期を悟った獣が、最後の力を振り絞り発した遠吠えのようだった。


その瞬間、空から大きな拳が表れ、マムルに殴りかかる。だが、マムルは瞬時にそれを切り捨てた。


「...!義手か!」


マムルが切り捨てた腕から部品が飛び散る。それと同時に、マアに向かって飛んでいく物体があった。それは包帯でくるまれ、手に三本の刃物を握っている。


「っ!プロメテウス!」


マアは炎の人形を出し、包帯をつかもうとする。しかし、複製体は腕の間を器用にすり抜け、マアを切り裂こうと突進してきた。


「このっ!」


マアはぎりぎりでそれをよける。だが頬をかすめた一本の刃物により、彼女の肌に一線の赤い紐が表れる。


「マア!今は拘束を最優先にしろ!」


ザインは、空を浮かぶ鉄でできた手によって、連れ去られようとしている。マムルは垂直の壁を駆けあがり、剣で切ろうとした。だが、4つの浮かぶ鉄手がそれを阻む。


「邪魔だ!」


マムルは1秒もかからずにそれらを片付けるが、すでにザインはマムルの射程外にまで飛んで行っていた。


「くそったれ」


マムルは残骸となった鉄手を踏みつける。


一瞬だった。まさか撤退まで想定していたのか?


「隊長!無事ですの...ですか!?」


マアは建物の上に立つマムルに声をかける。


「俺にかまうな!今すぐハリスを呼べ!あいつに追跡させる!」


このまま逃がすわけにはいかない。何とか証拠をつかまなくては...


ふとマムルは足元を見る。そこには先ほど彼が切った鉄の塊が落ちていた。よく見ると、指の部分に名前が彫られている。


「モーティス」


忘れない。いや、忘れてはいけない名前。必ず殺すと”約束”した名前。


「...そういうことか」


マムルはザインが消えていった空を見つめる。その顔にはいつもの余裕さや、鋭い眼光は無く、ただひたすらに殺意が込められていた。



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