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10話「なんとか問いに答えたい」

「マリアちゃん、そこの掃除が終わったらこっちもよろしくー」

「はーい」


ステンドグラスに日差しが差し込み、万華鏡のように床が光っている。ここは街の教会、ブリーゲン教会である。マリアはこの教会で神に身を捧げるシスターとして働いているのだ。


(今日もいい天気だな。こういう日には決まっていいことが起こるんだ)


マリアはそんなことを思いながら、礼拝所の掃除を続ける。

この世界で、教会は神に祈る場として機能しているだけではない。教会は住人にとってある種のインフラのような物なのだ。その理由は...


「誰か治療できる人を呼んで!今すぐに!」

「えっ!?」


突然の来訪者にマリアは驚く。扉を勢いよく開けたその人物は髪から服まで全て黒く、明るい日差しの刺す今日とは真反対のように思えた。


「ええと、騎士団の方でしょうか?」

「そうよ!とにかくこの二人の治療を最優先にして、ある事件の容疑者なの!」


マリアは騎士団の少女の後ろを覗き込む。確かに少年と少女に背負われ、ぐったりとしている男達の姿があった。雷に打たれたのだろうか、焦げ臭い匂いが教会に充満する。


「っ!今すぐ神父様を呼んできます!」


マリアはそう言うと、一目散に教会の奥へと走って行った。






「がはっ!」


視界が霞むなか、ジョンは背中に確かな地面の感覚を味わう。ゆっくり右腕を見ると、焦げたはずの腕は元に戻っていた。だが、腕はロープで縛り付けられ、身動きが取れない状態だ。


「おっと、目を覚ましたようですよ」


そこにはジョンを覗き込む男の姿があった。礼服に身を包み、首には十字架をかけている。


「では、ここからは騎士団の方にお任せいたしますね」


そう言うと、神父らしき人物は部屋を出ていく。それと入れ違いに、先ほどジョンを殺しかけたロン達が入ってきた。


「誘拐した子供達の居場所を言いなさい」

「俺達を半殺しにしたことに対して、謝罪もなしかよ」


ジョンは鼻で笑う。殺されかけたにしては、ずいぶん余裕そうな態度だ。


「ケビンのやつはどこだ。まさか死んじまったんじゃねえだろうな」

「...お前と一緒に居た奴のことなら、生きてはいる。だが、部屋は隔離してある」


ジョンと共にいた男、ケビンはジョンよりも先に目覚めていた。だが、意識の混濁が酷く、とても話せる状況ではない。


「ちなみに言っとくが、俺らはただの"下請け"だ。ガキどもの居場所なんて知らねえよ」

「っ!そんな嘘...つかないでください!」


ヒナはクマの人形を強く抱きしめる。特殊な魔法で覆われているのか、クマの人形は先ほどの雷を受けても傷一つついていなかった。


「嘘じゃねえよ。俺らはただ誘拐したガキを引き渡していただけだ」

「その引き渡し先は?」


エリスは、ジョンに近づこうとするヒナを片手で静止する。


「不気味なやつだったぜ。仮面をかぶってて、絶対に顔を見せないやつでな」

「その人は、なんて名乗ったんですか」


ロンは拳を震わす。子供の行く末も知らず、誘拐し、無責任に引き渡す、到底許される行為ではない。もちろん、その子供達を引き受けていた人物もだ。


「そいつの名はモーティス、これ以上は何も知らない。いいや、知りたくなんてないね。あいつは自分を恐人だと理解しているタイプだ。知ってるか?そういう奴がこの世で1番タチが悪い」


ジョンはそこまで一気に話すと、深いため息をつく。ずっと自分の中でしまい込んでいたことなのだろう。言い終えたその顔には、安堵の念すら読み取れた。


「なんで...なんでそんな顔ができるんですか!あなた達は罪のない子供達の未来を奪ったかもしれないんですよ!」

「...お前の顔を見た時から思っていたが」


ロンからの非難にジョンは首を少し傾け、ロンと目を合わす。その目には一種の哀れみがこもっているようにも見えた。


「俺はお前みたいなのを知ってるぜ。お前の顔は、表面でしか"正しさ"を知らない奴の顔だ。自分で見つけ出したものじゃない。人から教え込まれた"正しさ"を自分にトレースしているだけ...要するに、お前は空っぽなんだよ」

「違っ、僕は...」


そこまで言い、ロンは黙り込む。騎士団に入ると決めた夜、マムルから言われたことが彼の頭の中で反芻する。


「君は不平等だな」


違う、僕は自分の正しいと思ったことをしている。じゃあその正しさはどこで学んだ?師匠から?違う、もっと根本的な...僕を産んだ人から。僕を産んだ人は、育てた人は誰だ?エイ師匠...違う、彼女は僕の...


「犯罪者の戯言だ。気にするな」


エリスの言葉でロンは我に帰る。ジョンは拘束されながらも、未だ不敵な笑みを浮かべていた。


「これからお前達を騎士団まで輸送する。話があるなら、そこですることだな」


しかし、ロンの中には、未だ混沌が渦巻いていた。


僕は空っぽなんかじゃない。僕はこいつらみたいに人の命を弄ぶようなことは決してしていない。本当にそうか?あの夜の火球は本当に誰も傷つけなかったか?


ロンの背中を冷や汗がつたう。自分自身について考えたことなどは今まで一度もなかった。彼の人生に初めて現れた問い。それは本来、長い時間をかけて解かれるべき物だった。だが、それを教えてくれる者は、その問いに答えれる者は果たしているのだろうか。


僕は...


僕は"誰"だ?










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