1話「なんとかこのまま暮らしていきたい」
「お前に教えることはもうない」
「え?」
自称見習い魔法使い、ロン・ポランは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
ここは山奥のログハウス。魔法使いエイ・ヨフチュウの住居である。
「明日中に荷物をまとめろ。街までは私が送って...」
「待ってください!」
ロンは思わず叫ぶ。
「教えることがないってどういうことですか!?僕はまだ師匠に教えてもらってないことが...」
「じゃあ、あれはなんだ」
黒髪をなびかせながら、ロンの師匠、エイは家の外を指す。彼女が指した先には赤色のドラゴンが横たわっていた。一発で仕留められたのだろう、胸には空洞がぽっかり空いている。
「いや、なんか家の外で騒いでたので邪魔だなーって...迷惑でしたか?」
銀色の髪をした少年、ロンは頭をかきながら気まずそうに答えた。彼はいつもそうだ。人のことを気遣うのはいいが、その方法が極端すぎる。
「私、ドラゴンなんて倒したことないけど。てゆうか、私あんな魔法教えてないよね」
「え?でも師匠が教えてくれた魔法を使って倒しましたよ?」
「なにそれ。こわ」
エイは帽子の鍔をつかみ、深いため息をつく。
「ロン。お前は私のところにきて何年になる?」
「6年です!」
ロンは山の中でエイに拾われた。拾われた時、彼の年齢は10歳で両親の記憶はおろか、なぜ自分が捨てられたのかも覚えていなかった。そこからエイが魔法使いとして彼を育てたのだが....
「僕、師匠に恩返しがしたいんです!もしあの時師匠が拾ってくれてなかったら、きっと僕は....
そうだ!もう教えることがないんなら僕を警備員として雇ってください!」
「山一個簡単に吹き飛ばせれるやつがこの家の警備とか、完全にオーバースペックだわ!」
「じゃあ、ええと...」
ロンはどうにかしてエイと暮らし続けるつもりのようだった。
(こんな危険な...じゃなくて、こんな素晴らしい人材を山奥で拘束しておくわけにはいかない。どうにかして追い出さなければ...)
エイは長年山で暮らしている魔女である。騎士団で働いていたこともあったが、ある”やらかし”が原因でクビになり、ひきこもるようになってしまった。
ロンを拾った当初、エイは彼を弟子にするつもりはなかった。実際、騎士団に捨て子届けを書こうとしていたくらいだ。しかし、エイは途中でロンの魔法の才能に気づき、そして思った。
(これは使える)
エイは騎士団での”やらかし”によって退職させられたことを根に持っており、復讐の機会を探っていたのだ。
(私がこの子を立派な魔法使いに育てて、騎士団に推薦すれば私の名誉も回復するに違いない!)
だが、一つの誤算があった。ロンの才能がありすぎたのである。ロンは一年もすれば師匠の実力を超えた。そして彼は拾われてからの6年間、4回ログハウスを倒壊させ、3つ山を吹き飛ばした。故意でないとはいえ、もし事故でエイに魔法が当たってしまったら...彼女は死体すら残らないだろう。
命の危険を感じたエイは1年ほど前から、ロンを山から追い出そうと画策している。しかし、当の本人が拒否し続けているのだ。
「とにかく明日には出ていくこと!いいね?」
エイはロンに言うと、足早に自分の部屋に帰ろうとする。これは私の命だけでなく、彼のためでもあるとエイは自分に言い聞かせた。
「待ってください!もし僕がいなくなったら、家事や料理はどうするんですか!」
エイは足をぴたりと止める。確かに、ロンが家事を覚えてから料理などはすべてロンに任せている。ロンがいなければエイはパスタすら作れないだろう。買い出しもロンに任せっきりのため、エイ自身は4年ほど山から下りていない。
「師匠、人と話して食べ物買えるんですか!?」
「ロン」
エイは振り返るとにこやかに告げた。
「ロン、明日からもよろしく」
こうしてまたロンの独り立ちする日が先延ばしにされた。
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