99 放課後のお出かけ
ガラガラガラガラ…
「て、テオ君、君一体何持ってきたの?」
「え?荷物が重かったからキャリーに詰めてきたんだけど。便利だよ?量入るし」
「だからって、それ…」
薬学の授業は荷物が重い。太っとい図鑑はもちろんのこと、瓶に瓶に瓶に瓶…。あ”ー!
学校にマジックバックは持ち込み禁止でしぶしぶ手提げに詰め込んでたけど…もう嫌だ!
怒れる僕は前世の記憶を頼りにキャリーケースを自作した。それを見たお兄様はすぐにギルドへ登録の手続きをしたよね。
お兄様が登録したのはその車輪部分。
僕が耳栓の時に作った、ラバーケロッグの皮とスライムで合成したシリコンゴム…みたいなゴム?
それを利用したキャリーの車輪を目ざとく見つけたお兄様は、画期的とかなんだとか…なんだかとても感心していた。
そのとき馬車の車輪がどうとか言ってたから、「ゴムチューブの方がいいんじゃない?」って前世の自転車を参考に言っておいたよ。
「テオドール様、それとっても楽そうですわね。どこでお買いになりましたの?」
「キャリーのこと?」
「我が家はロマーノ商会と取引をしておりますの。取り扱いはあるでしょうか?」
「これはね、僕の自作だからどこでも買えないよ。でもしばらくしたらブラウニング商会で販売されるから少し待っててね」
「ブラウニング商会…存じませんわ。新興の商会かしら?」
「うん、えへへ、最近個人商店から出世して商会になったお店だよ。まだ今は下町どまりだけどきっとすぐ貴族街に進出するからね」
「まぁそうですの…。取り扱いががはじまりましたらぜひ教えてくださいましね」
ジローのお店ならきっとすぐに大きくなる。
だってジローはたくさんの子供を雇えるようにしたいんだから。たくさんの仕事を増やして、子供たちだけじゃなく困った人たちみんなが働けるように。
だから僕も協力しなくちゃ。だって僕はジローのパーティーメンバーなんだから!これも冒険の形だよね!
「ブラウニング商会…どんなものを取り扱ってるの?」
そう聞いてきたのはリヒャルト君だ。貴族とはいえ仕送りの慎ましい彼は、あまり街歩きはしないらしい。寮内ならお食事は三食フリーだからね。
「ねぇリヒャルト君。その、田舎の領地なんだけど…アサルトマウスってまだ出てる?」
「えっ、うんまぁ」
「あのね、あの…マウスの駆除装置…ブラウニング商会の工場で、た、たまたま、ほんと偶然今作ってて。それでねっ、その…気になるなら一緒に見に行かないかな…って思って…」
「それ…僕に遊びにいこぅって誘ってる?」
「遊びとかそんなんじゃ!あの、そのっ、駆除装置ができ、出来てっ、その、器用な子がいて、頼んだら作ってくれて」
「頼んでくれたの⁉ もしかして僕の為に?」
「ちっ、ちがくてっ!その、マウスはみんな困るからっ!作ったら売れるからっ!…だからその……誘ってとかじゃなくて。…嘘です、いっしょに行きたいです…」
リヒャルト君ってば二つ返事でOKだよ!良かった。ドキドキした。
だって僕…ここへ来てから普通の、ゲームの登場人物以外の学友って初めてで…。ましてやこうして自分から誘って一緒に出掛けるなんてそれも初めてで。
そうしたら寮で同室のルトガー君まで一緒に行きたいって言ってくれたから、こんなのもう舞い上がっちゃうよね!
そして生徒会の無い日の放課後、うちの馬車には僕と二人が、後ろのアルタイルの馬車にはアリエスも乗って合計五人で下町を目指す。
ジローの新しいお店は下町と言っても貴族街にほど近い場所。ほとんど貴族街!行くのがとても楽になった、とはアルの感想。
あんなことがあったけどアルタイルは変わらない。むしろ何かぐっと、爽やかで、大人っぽくて、安心できる、ゲームのアルタイルに戻ったようだ。
その傍らには、前にも増していつもアリエスが居る。
なんだかお似合いだなぁ…
ゲームの時から相性良かったもんね。
工場の入り口にはジローが雇ったゼッドじいちゃんがいる。いわゆる守衛さんってやつ?裏口にも一人。
怪我の治った比較的元気なおじいちゃんたちは持ち回りでこの仕事を請け負っている。
この仕事はアルタイルからの助言だって聞いた。決まった稼ぎがあれば無茶な冒険には行かなくだろうって。
さすがアルタイル。ふぅやれやれ、これで一安心だ。
「ゼッドじいちゃ~ん。マカいるかな?学校のお、おと、お友達」
チラ…良かった。嫌そうな顔してない…
「お友達連れてきたの」ニコニコ
中に入ると工場の一角ではマカが僕の頼んだ仕事に励んでいた。
「わっ!」
「誰だ!ってテオさまか」
テオさまだって。
僕のことをずっと「おかしな貴族さま」と呼んでいたマカは、ジローに言われてかなり言葉遣いを改めたようだ。
「頼まれたもんなら出来てるぜ。それよりお前なんだよあれ!」
「あれ?」
「あんな木のおもちゃに金貨って…頭おかしいのかっ!」
「キャスのタワーの代金だよ。おかしくないよね?アリエス、僕何か変?」
「お兄様、マカは報酬が高すぎるって言っているんですよ」
えぇー…だってマカは良い感じの流木をわざわざ遠くの大きな川まで探しに行ってくれた。
それに一人で運んで洗って乾かして磨いて…その労働量たるや半端じゃない。
それにこれは世界に一つだけのオリジナル。希少価値ってやつだよね。
ペットについお金かけちゃうのは飼い主のサガだよねー!
「だってすごくカッコよかったよ?大自然の感じがしてキャスも喜んでたし。むしろもう一つ欲しい」
「まったくあんな流木組み合わせた程度で…へへっ、いつでも言えよ?何個でもつくってやる」
「それよりさー、マカ、ネズミ捕りは?」
ようやく紹介ができる。初めて出来た学院の、と、とも…友達…。でへへ…
「出来てるぜ。アサルトマウスで困ってんのそいつ?この仕掛けそいつの為に考えたんだろ?」
「テオ君…」ジーン…
「あ、ちょ、何で言うのっ、言わないでって言ったのに…。まぁいいや。早く見せてあげて。えと、あの、学院のっ、と、とも、友達のリヒャルト君とルトガー君。こっちは下町の友達のマカ。仲良くしてね」
リヒャルト君とルトガー君はスラムの子だからって変な目で見ない。嫌な顔せず挨拶してくれている。良かった。やっぱり僕の友達だ。むしろマカのほうが躊躇してるけど…
…僕には最初から遠慮なかったじゃん…
いやいや、それより僕の頼んだネズミ捕りだよ、問題は。
これは田舎の方のおじいちゃんが納屋に仕掛けてた自作のネズミ捕り。ペットボトルと割りばしとゴムで作った仕掛け。
なんとなくしか覚えてなかったけど、ペットボトルの代わりに口の広い瓶で説明して、マカはだいたい察して作ってくれた。
「これ瓶は魔石で強化してあるんだぜ。アサルトマウスの特攻にも割れやしねぇよ。ジローが、んん、ジロー会頭が店頭にも置くってさ」
「会頭!」
始まりはアームハンド。パウサントの木を研磨して整えて組み立てて、もとはジローがコツコツ一人で作って屋台で売ってたんだった。注文が多いときは夜も寝ないでコツコツと作ってたっけ。
その合間に僕の為に動いてくれて…、あの時アリエスと二人、危険な目にもあったと随分たってから聞いた。
なんでもその時セリッシュ嬢から手に入れた報酬で下町のお店を出したんだよね。
店の前で第六の騎士とタウルスが揉めて大変だったっけ。今じゃあれもいい思い出だけど。
そして今、敷地内に工場を持つ商会へと店は進化を遂げ…
ジローが会頭かぁ…偉くなったなぁ…
工場もお店もぐるりと見学してリヒャルト君にはたくさんのネズミ捕りをプレゼントした。
ルトガー君は気が付いたらマカと仲良く話しこんでた。
「なーなーテオさま」
「なぁに?」
「今年のクリスマスは何くれる?」
「え?」
「俺は今年良い子だったぜ。なら去年よりいいもん貰えんのか?何作ってくれんだよ、なぁ」
ちょ、勝手にハードル上げないでよっ!
帰りの馬車、寮まで送る僕にルトガー君とリヒャルト君は口をそろえてこう言い放った。
「マカはテオ君に首ったけだね。君ってばホントに魔性なんだから…」
不本意の極み!




