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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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96 楽しいダンジョン

「それにしてもテオ坊ちゃんは悪いやっちゃなぁ」

「風評被害!僕は何にもしてないよっ!」


「なんにもしないからこうなってんだろ。坊ちゃんには王太子がいんだろ?諦めつくようちゃんとふってやれよ」

「そうそう、傷は浅いにこしたこたぁねぇ。まだ若いんだ。失恋の傷くらいすぐに癒えらぁ」


「ははは、アルタイル殿も悪い男に惚れたものだ」


そう笑いながらフェニックスのみなさんが魔蟲をぶっ刺しサクサク進むが、解せぬ…


それはさておき。


魔蟲とは魔法を放つ虫である。

一見前世の害虫に似てるけど、そのサイズときたら全然違う。

数十センチもある蠍やムカデなんて背筋がぞわぞわして仕方ないし、糸吐く以外無害とは言え1メートルもあるイモムシなんて気持ち悪くて近寄れない。


「テオ…お前そんなに後ろに下がって冒険はどうした?ははっ、まぁ前に出られるよりいいっちゃいいけどな」

「じ、じろーっ!ちが、違うの、そのっ、ただちょっと虫は…虫は苦手で…」


「虫は僕も好きではありませんよ。ジロー、余計なこと言ってないでサクサク進みなさい」

「はいよ。聖魔法のアリエス様」

「…ムカつく…」


ア、アリエス?


そのアリエスと治癒の済んだアルタイルは僕を挟んで並んで歩く。良かった。ちゃんと解毒出来たようだ。


「そんな顔するなテオ。俺は大丈夫だ。それからアレは少し…その、出がけに兄と口論になり少し余裕が無かったんだ。すまなかった」


あー…、その口論とやらがゲームで苦悩してたあたりのエピソードだろうか?


「だが気持ちを伝えられてよかったよ。あのままじゃ消化不良になるとこだった」

「う、うん…」


そう言われても今度はこっちが消化不良だよ。


「そうだテオ!そういえばアース共和国のダンジョンにはレッドボアが出るそうだ」

「レッドボアの肉は美味いんだが高くてなぁ、わしらじゃそうは手が出ねぇ。上手く仕留められてもほとんどはギルドに売っちまうんでな」


上手く話題を変えてくれたアルタイルとドワンゴじいちゃんの好意に甘える事にする。

せっかくの初ダンジョンを黒歴史にはしたくない。


と言うわけでかなり奥まで進んできたダンジョン一階層だが…


「これ…、僕の思ってた冒険と違う…⁉」


「…」

「…」

「そうですか?冒険なんてこんなものですよ」


「え…」


今さらながら僕を囲む四方を見渡す。


前衛と後衛をフェニックスのみなさんがガッチリガードして、僕のすぐ前にはじいちゃんたちが、左右にはアリエスとアルタイルが居てすぐ背後にはジローが居る…


鉄壁…


あ、あれっ?冒険ってこういう感じだったっけ?


「???」


「お、坊ちゃん。ニードルスクワールだ」

「ニードルスクワール!うそっ、見たい!」

「サグデン殿どうします?追い払いますか?」


ニードルスクワールは小型犬程度の大きさで尻尾がトゲトゲになったリスっぽい魔獣だ。それほど危険度は高くないはずだけど…


その時スッと前に出たのはアリエス。どうやら試したい事があるらしい。

アリエスはその両手を前にかざし全身に魔力を放って呪文を唱えはじめた。


『導きの光よ、見えざる鎖となりその尊き命を従属せよ。トゥインクルチェイン』


キラキラとしたエフェクトが降りそそぐ中、アリエスの魔法がニードルスクワールを包み込んでいく。

そしてその真っ赤な目が黒に変わった時、ちぃちぃと鳴きながら尻尾の棘を寝かせてリスはアリエスの肩へと飛び乗った。


「従属魔法か。いつの間に…アリー、お前は本当にすごい。学内でもこの魔法を使えるものは殿下だけかと思っていたが…」

「ふふ、古代魔法の応用ですよ。それに何より先ほどの祠でレベルアップが出来ましたので。ここに案内してくださったアルのおかげですね」


アリエス!ナイスフォロー!


「ほら、お兄様の所へお行き。お利口にして可愛がられるのですよ」


アリエスの命にぴくぴくっとしてリスが肩に飛び移ってくる。こ、これこそピ〇チュウ!リアルポ〇モン!


「わぁ!アリエスありがとう!」

「いいえどういたしまして」

「可愛い…リスちゃんだ…可愛い…くすぐったい」


「…先を越されたな。まったく機を逃さないやつだ…」


後ろでジローがぼやいてたけど、僕はもうスクワールに夢中だった。お兄様に言ってケージとリボンを用意してもらわなくっちゃ。


「おっと蝙蝠か…」

「問題ない。これは吸血系じゃない奴だ。テオドール様、少々耳をお塞ぎ下さい。テオドール様の耳を傷めては次期侯爵様に叱られます」


ハーピー系の蝙蝠は向かってきたりはしないがその鳴き声は衝撃波だ。


きゅぽ


ふっふっふ。こんなこともあろうかと持ってきたのだよ、耳栓を。


これはスライムとラバーケロッグのゴムを合わせて作った耳栓。

今日の行き先がエジプシアンダンジョンって聞いた時、砂漠だったらどうしようって思って持ってきた便利グッズだ。砂嵐には必需品だって、お父さんと観た前世の紀行番組でやってたんだよね。


まぁ実際は砂漠なんて無かったけど…


ポケットから出した耳栓をそこに居る全員に配っていると、ジローの感心したような声が聞こえてきた。


「へぇ…あれとあれでこうなんのか…。すげぇな。テオ、これどうやって合成した?これうちで扱っていいか?」

「もちろんいいよ。これね、なんか高音だけ聞こえなくなるの。会話の邪魔はしないからけっこう便利。すぐにギルドに登録してじろーの専売にするからね」


フェニックスさん達からも「これはいいな」とか言われて少し有頂天な僕。

そんな時にソレは目の前に現れたのだ。



「あっ!子猫っ!子猫だ!」

「だめだテオ!それはサンドキャットの子供だ!見た目を裏切り狂暴で…って、嘘だろう…」


アルタイルが焦って叫ぶ。

だけど自分でもびっくり。ウジャウジャ出てくる子猫が僕の身体にすり寄ってくる。


うーんこれはいい。スリスリスリスリ…あっ!


「多分これだ」


ポケットの中には昼食後にドワンゴじいちゃんに渡した胃薬の残りがある。

疲労回復にも程よく効くこの薬は確か主成分がマタタビだ。


僕はその胃薬を子猫たちの前に差し出してみた。一応生薬だから身体に害はないだろう。というかサンドキャットは魔獣だし。


「他にもないかな…」


カバンにあった固焼きクッキーも置いてみることにした。


おお意外!固焼きクッキー人気じゃない?

動物は意外にも甘党である。そしてこのクッキーは砂糖の代わりに蜂蜜が入ってる。つまりヘルシー。猫まっしぐら!


「うっ!」


すっごい重低音のゴロゴロ音。


「やっぱ普通の猫じゃないんだ」

「ふふ、こう見えて魔獣ですからね」


その爆音に壁が揺れ…揺れ…


「あ…ああっ!」


岩天上には蝙蝠の衝撃波によりちっちゃな亀裂が入っている!


「…や、やばっ!石塊が!!ぎゃー!!!」


「「危ないテオ!」」

「お兄様!」



巻き上がる砂煙。そこに浮かび上がる一つのシルエット。

危機一髪で僕を救ってくれたのはアルタイルでもジローでもなく…


「神獣バスティト…、まさか本当に現れるとは…」

僕を咥えて落石を避けると、その大きな猫は何かの魔法でサンドキャットを眠らせた。


黒い猫。大きくてスレンダーな気品のある猫。その身体には金の紋様が刻まれていて神々しさが五割り増し!


「すごい…これが神獣バスティト…ん?」


ちょっとバスティトさん、え…マタタビ…ええ?…ゴロンゴロンしてる…


それにしてもこの金の文様、どこかで見たような気がする。


ああそうか。

これはゲームの中で見たイベント。出現場所はダンジョンじゃなくて学院の森。アリエスはそこで光の加護を貰ったのだ。金の紋様を持つ神獣に。


微妙に記憶と違う…


これはきっと、そうあれだ。僕がシナリオをめちゃくちゃにしたせい。

ダンスイベントも野外イベントもそれらしいのはあったけどかなり違ってた。だからこのイベントだって、スチルの神獣はもっと犬っぽかったのになぁ…?なんてことはきっと気のせい。



そうこうするうちにも、サンドキャットにあげたはずの僕のヘルシークッキーはいつの間にかバスティト様が食べつくしてる。


「気に入ったのかな?よしよし」ナデナデ


「馬鹿テオ!」

「いや待て!」


アルタイルとジローの焦った声をよそに、念入りに毛繕いを済ませた猫神様はアリエスの眼前に立つ。


静寂…、だけどアリエスは目を瞑って何かを感じている。


「……わかりました。身命を賭して。言われるまでもなく僕がお護りします。ご安心を」


カッ!


「眩しい!」


眩い光の中、アリエスは何かの命を受けたようだった。

そして聞かされたのは衝撃の事実!


「お兄様…バスティト様は定期的にこのクッキーと胃薬を捧げるようにとお望みです。その見返りとしてお兄様に光の加護とお体に触れる権利を下さいました。そして薬の造り手を守護するようにとこの僕にも光の加護をくださいました」


「え…?」


何故かもふもふする権利を手に入れた。やった…ね?






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