95 アルタイルの胸の内②
「テオ…お前はすごいな。これも、あの甘い薬も…単純だが今まで誰も考えつかなかったものだ。凡庸な俺なんかとは比べ物にもならない…なぁ、正直に言ってくれ。俺なんかではお前の側に立つ資格はないか?」
「なっ、なんてっ?」
ええー!いきなり何を言い出したの!
「俺はいつもそうだ。結局大したことは出来やしない。今回のこの騒ぎも親衛隊で役に立ったのはアリエスとジロー。俺は何も出来なかった。それでも俺は…俺は…お前のことを諦めきれない」
諦めって何?熱い友情ならここのところひしひしと感じてたけど、この感じはつまりあれだよね⁉
僕が友情って感じてたあの好意はもしかしてー…ラブ…
「悪評を流され後ろ指をさされ、それでもお前は誰にも媚びず思った道を進み続けた。誰に何を言われてもけっして腐らず自分の居場所は自分で作って自分を信じて立ち続けた」
そりゃし、死活問題がかかってたから!断罪問題が!
「俺はそんなお前の強さに焦がれ惹かれずにはいられないんだ!お願いだテオドール!俺なんかでは役不足なのは分かってる。だが俺にも一滴の希望を持たせてくれ!」
は、はぁー⁉ 攻略対象者様が悪役令息に何言っちゃってんのー!
「なななな、ちょっと訳分かんない。っていうか!どうしてアルがそんな卑屈になってんの?アルタイルはいつだって爽やかに笑う落ち着きのあるキャラで、僕はそんなアルタイルが好きだったのにっ…って、あ、や」
僕のバカー!
「好き…好きだった…?それはいつのことだ!俺をいつ知ったんだ!そうだ、出会ったあの頃にも言っていた…良い奴だと思ってたと…」
もう!もう!僕の考えなし!おたんこなす!
「もしかして俺たちはどこかで出会ってたのか?だが俺は失敗した。ああ…俺の失敗をお前は許しても忘れないと言っていたな。俺はもうお前の気持ちを取り戻すことは出来ないのか⁉」
「あばばばばば、ややや、いやその、違くて、その、そう!だいたいどうしてアルは自分下げしてんの⁉アルは何でも大体出来るし人より何でもすごいじゃない!」
「だが、殿下とは比べるのもおこがましいが…、それ以外の誰と比べても俺は劣る…」
は、はぁ?
「アルは頭だって良いじゃない!」
「だがデルフィヌスほどじゃない…」
「け、剣の腕だって上々だし」
「タウルスほどの腕前ではないさ…」
「大人っぽくて頼りがいがあって」
「ジローにはかなわない…」
「ま、魔法!そう!魔法だって使いこなしてる!」
「風魔法は支援型の地味な魔法だ。アリエスのような特別な魔法とは違う…」
もうやだぁ…言えば言うほど墓穴が底なしに…。役立たずっていうならそれは僕のことだよっ!
「何でも出来るさ、そうなろうとしてきたからな。だが俺に出来る事なら他の誰でも代わりは出来る。そう、いつでも俺は三番手だ…」
ちょちょちょ、ちょっと待った!三番手って何?どこから出てきたの?
「それってオールラウンダーって事でしょ?万能型ってことだよね!ととと、とにかくアルタイルはカッコいいよっ!アルみたいな良い人他に居ないよ!」
「良い人か…」
何故僕はこんなに必死になってアルタイルを励ましているのか?
思いがけない展開に頭がついていかない。
それでも今、目の前にいる様子のおかしいアルタイルを放置しちゃだめだと本能が告げる。
攻略対象者の中でも一番クセのないアルタイル。
無難に何でもこなせるバランスの良い〝アルタイル”は〝アリエス”との相性も抜群で、一度フラグを立ててしまえばあとはどの選択肢を選んでもどんどん好感度が上がっていく。
風属性らしくいつも涼しげに笑っていた〝アルタイル”は僕の推し。
だけどそんな彼が内面にこんなコンプレックスを抱えてたなんて、今まで全然気が付かなかった。こんなこと悩んでたなんて…
良いキャラ、良い人かぁ…
前世の何かで読んだことがある。〝いい人”っていうのは〝どうでもいい人”って意味なんだって。
僕はアルをそんなふうには思わないけど、アル自身が自分をそう思っちゃったらいけないから出来る限りのことをしておきたい。僕の断罪回避のために最初に動いてくれた彼の為に。
「アルは充分すごいよ。僕知ってる。アルが僕の夢を叶えるために冒険者のこといっぱい調べてくれたって。今日のこの冒険だってアルがいっぱい計画たててくれたって聞いたよ?それにこのあいだの騒動だってじろーをデルフィに引き合わせたのもアルだって聞いた」
「…どれもこれもその程度のことしか出来ないんだ、俺は…」
はぁぁぁん?
「アルのバカ!」
「テオ…」
「その程度なんかじゃない!じろーのラバーシップだって走行距離が延びるよう改良のアドバイスしたのはアルじゃないか!」
「知ってたのか…」
「お母さんが言ってたよ!料理の良し悪しは全部最初の下ごしらえで決まるんだって!!アルの下ごしらえがなかったらこんなに上手くいかなかったに決まってる!!!」
「侯爵夫人がそんなことを…?」
へ?
「あっ、だっ、でっ、あー、あー、そんなことより、だからねっ!アルはそんな風に自分を悪く思わないで。一番とか二番とか自分の道を進むのにそんなの関係ない!アルの道はアルだけのもので、アルにしか出来ないことはいっぱいあるしアルにしかない良さもいっぱい…いっぱい…んん?」
あーーー!!!
自分で言ってて気が付いちゃったよ!
こっ、これは!アルタイルルートのアリエスのセリフじゃないかー!
何でパクっちゃってんのー!僕のばかっ!
天使のように優しいゲームの中のアリエス。彼はこうして攻略対象者の苦悩一つ一つにいつも寄り添いその心を救うことで好感度を…って待て。あの時のアルタイルの悩みはもっとこう、大人びてたはず。
司法長官でもある父親の後を継ぎたい、その夢と優秀な長兄次兄との狭間で苦悩しこじらせた複雑な感情。
「俺には人を裁けるほどの器は無い…」そういってアルタイルはアリエスの前でその胸の内を吐き出して見せた。
こんな年相応の、魔法の地味さを嘆く厨二みたいな悩みなんかじゃなかったよねー!
「テオ…それなら俺はお前を好きでいてもいいのか?殿下がお前を手放さないのは分かってる。だがジローはお前を諦めないと言った。なら俺は…俺だけがこのまま黙って身を引くなんてそんな事」ジリ…
ひぃぃ!圧が強い!
「おっとそこまでだ」
危機一発セーフ!斥候さんがアリエスを連れて戻って来た!
「アルタイルよぉ、お前の気持ちは分かるが押してばっかじゃ気持ちはつかめないぜ。たまには引かねぇと。みろよ、テオ坊ちゃんが固まってらぁ。クソ真面目な奴ってのはこれだからダメなんだ。ちっとは遊んで恋愛の駆け引きってやつを覚えねぇと」
「そういうお前はその駆け引きとやら知ってんのかよ。知ってたら女房に逃げられやしないよなぁ」
ついでに軽口たたくおじいちゃんたちも一緒だ。…はっ!リーダーさんがすんごい温かい目で見守ってる。ああ…穴があったら入りたい…
でも助かった…いや助かってない!
ジ、ジローは?居たぁ!聞かれた!
「アル…、どうせ俺もお前も険しい道だ。フェアに行こうぜ、フェアにな。ふっ、まぁちょっとばかり先行してて、悪いな」
「しまらないな…はっ、だがこんなのも俺らしいか…。まぁでも…何か吹っ切れた」
「なら僕はアルタイルに付きましょうか?ふふ、冗談ですけど。ジロー、あなたにお兄様は渡しませんよ」
「アリエス…なんだどうした、降りたのか?」
「いいえ、僕はお兄様を一番幸せにする人を見極めることにしたんです。誰も該当しないと分かればその時こそは…」
な、何の話をしてるんだろう…
耳がそれを聞くのを全力で拒否してる。あーあーあー、聞きたくない!
もう何にも聞きたくないってば!




