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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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93 アリエスの胸の内 10月

ついにこの日がやって来た!

念願のダンジョンへ行く記念すべき日。冒険の予行練習に行く日がやってきたんだ!


実は最近、前より少し真剣に将来の事を考えている。


冒険者…憧れでしかないその響き。

何もしないで諦めるなんてとても出来なくて、だからお兄様に無理を言った。


一回行ってみる。一回行ってみてそれから決める!一回行ってみなきゃ分かんないじゃん!って。


そうじゃなきゃきっと後悔が残る気がする。

そうしてついにお兄様から冒険の許可がおりた。

それならばいっそ寒くなる前、実り多いこの時期になったのは、僕が「りんご狩りがしたい」と言ったからだ。


道案内で同行するのは怪我が治って退院済のおじいちゃん二人。サグデンじいちゃんとドワンゴじいちゃん。

それからアリエスとアルとジローの三人。


タウルスも一応誘ってみたんだけど、今は騎士団の立て直しに疲弊している父親の役に立ちたいと、とても残念そうに、だけどきっぱり辞退した。

どうやらタウルスは今でも、僕の冒険者は悪い冗談って思ってるみたい。失礼な。


そして真打はお兄様がお雇いになった現役冒険者、〝フェニックス”の皆さんだ。


いかにも剣士なリーダーさんとシーフみたいな斥候さん。火力は他にもう一人。あとは魔術師さんと僧侶さん、合計5人のパーティーだ。


Dクラスの冒険者でさえ安全に進める第二階層までしか行かないって言うのにちょっとこれは…。過剰装備だ。

フェニックスのメンバーだって嫌じゃないのかな?そう思って聞いてみたら、「このパーティーは貴族の依頼を中心に受けてるパーティーなのですよ」だって。なら良かった…



そして前日の夜。僕とアリエスは準備に余念がない。


「アリエスこれは?」

「固焼きクッキー…非常食に良さそうですね。そのクッキーは簡単に崩れませんし持っていきましょう」

「じゃぁこれは?」

「寝袋…、お兄様、泊まりませんよ?」

「ふぅん、じゃこっち」

「鍋一式…昼は軽食を持っていきますし夜は…ですから泊まりません。残念ですが日が暮れるまでに帰りますよ」

「うむむ…、でもこれは持ってく!きっと役に立つから!」

「なんですか?それ」

「スライムで氷を包んだ保冷剤!氷はね、お兄様に頼んで作ってもらったの。お兄様、氷属性だから」

「氷…水属性の上位種ですか。ああ、だから炎属性の殿下と相性が悪いのですね。納得です。それにしてもそれ…いいですね。使えそうです」

「でしょでしょ。あっ、薬はいいよね?アリエスが居るし」

「僕のヒールは怪我は直しても病気には効かないのですよ。だからお兄様のお薬はいつでもお役立ちです。お腹の薬とかお持ちくださいね」

「ということは…僕とアリエスがそろえば無敵だね」

「ふふ、そうですね。」


こんなふうにして荷物をまとめたらあとは明日のために早く寝るだけ。


明日の朝は出発が早い。

下町まではお家の馬車で行って、下町からは冒険者らしく乗合馬車に乗っていくのだ。ガタガタ揺れるって言われたから大き目のクッションもちゃんとマジックバックに詰め込んだ。


「ね、眠れない…」


遠足の前の日みたい。目が冴えて冴えて仕方ない。早く眠れるようにと思ってお茶だって飲まなかった。早く寝なきゃって気ばかりが焦る。明日みんなに迷惑なんてかけられないのに。


コンコン


「お兄様?温めたミルクをお持ちしましたよ」

「アリエス!どうしてわかったの?僕が起きてるって」

「ふふ、お兄様は大きな出来事の時はいつも「眠れなかった」っておっしゃるじゃないですか。だからきっと今夜もそうだと思って」


ミルクは僕の一人分。アリエスはいらないって。

そしてその後は一緒にベッドに潜り込む。そのほうが眠れますよってアリエスが言うから。


添い寝されてるみたいで恥ずかしい…。僕ばっかりいつまでも子供みたいだ。そういえばいつからアリエスはこんなに背が伸びてたんだろう?

僕の背は未だに前世の最期と同じ。あそこで成長が止まったみたい。


だけど二人分のベッドはポカポカとあったかくて…いつの間にか夜は寝息と共に過ぎて行った。



-----------

僕のすぐ横、枕を並べた隣からすぅすぅと寝息が聞こえる。

あれほど眠れないって言ってらしたのに、僕が隣に入り込むと暖かいって言いながらすぐに眠りについたお兄様。


ふふ、可愛らしいな…こんな無防備だなんて…


悔しいことにハインリヒ様の見極めは実に正しく、お父様の眼前で仲良し兄弟の宣言をして以来、お兄様は以前に比べ俄然甘えてくるようになっている。まるで何かのタガが外れたかのように。


〝僕とアリエスが揃えば無敵”


なんて嬉しいことを言うのだろう。だけどこの信頼さえも兄弟の絆あってのこと。

兄弟の絆…僕をしばる呪いの言葉。

兄弟のままで居ればお兄様の心は得られる。だけどそれ以上にはけして進めない。


ハインリヒ様はどうお考えなのか?お兄様の心を動かす自信がお有りなのか?

お父様とデイヴィッド様の話に聞き入っていたハインリヒ様。彼の求めるものは何なのか…?


ああいけない…まだ煩悩が拭えない…

あの日決めたじゃないか。一番に考えるのはお兄様にとっての最善の道だって。


僕に対しお兄様がそうであったように僕もお兄様に対しそうでありたい。

僕の幸せを常に望んでくれたこの優しい人に報いたい。それがどんな選択だとしても必ず力になって差し上げる。

そう、たとえそれが僕にとってどれほど辛い苦行であっても。


殿下に望まれるまま婚姻を結び正妃として国を治めるのか、この屋敷で家族に守られながら学を修めその才知を極めていくのか、それとも…


初志貫徹、自由を手にするために全てを捨て、ジローと共に歩むのか…






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