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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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92 ハインリヒの胸の内②

今僕は悪戦苦闘の真っ最中。

貴族服のボタンときたら多いうえに小さ…小さいんだってば!

それにいたるところにチェーンやバックルがあって、ううう…だから好きじゃないんだってば…


まだ成人年齢になってない僕は夜会の時以外それほどかっちりした服を着ない。学校は制服だし。

だけどそれもあとわずか。


成人したとたんにいろんな社交が押し寄せて、来る日も来る日もこういう服を着なくちゃいけないのか…うぇ…


「お、お兄様?あの、従者のコナーは?」

「うん?ああ、今は他の用事を言いつけていてね。時間がかかっても構わない、全部脱がせてくれるかい?」

「も、もっちろん!」


どれくらい時間がかかっただろうか…、一枚ずつパーツをはいでいくとついに肌着に到達した。肌着の向こうにはお兄様の立派な体躯。


「あ、あれ?お兄様って何か運動してたっけ?なんかすごく引き締まってる…」

「ふふ、普通の修練しかしていないのだけどね。気になるのかい?ほら触ってごらん」

「じゃぁお言葉に甘えて…」ペトペト「すごい…」

「そういうテオはいつまでたっても赤ちゃんみたいにふわふわした身体だね」

「ひゃんっ!」


いきなりお兄様にわき腹を触られてくすぐったいやらびっくりしたやら。

それにしたって赤ちゃんみたいとは聞き捨てならないな!


「赤ちゃんって、僕はもう子供じゃないんだから!あと半年とチョットしたら成人に…あ」


成人に…なる気まんまんのセリフが口をついて出たけどそこは僕のリミットだった。


「そう。あと半年で成人だ。殿下の意向はどうあれテオドールは好きな道を選べばいいのだよ。このままここで好きなように暮らすという選択も含めて」

「好きなように…」


「そうだ。テオは薬学の道に進みたいのではないのかい?すでに相当の薬を作っているだろう?」


初級冒険者の生計方法として薬草に眼をつけた僕。それは孤児院、治療院への納品を経てすでに生きがいになっている。


「薬学…」


「それとも農学かい?ずいぶんと芋の栽培に興味を持っていたね?」


そこは違うから。僕は作は作るでも調理の方だから。


「従者を従え薬草採取に出てはどうだい?冒険も採取も大して変わらぬだろう?」


いやざっくりしすぎだから。


「いずれにしても王妃となればそれらを心行くまで学ぶというのも難しくなる。ここでなら好きなだけ学問を極められる。このまま屋敷から学術院に進むという事も念頭に置いて考えると良い」


「お兄様…そんなにも僕の将来考えてくれてありがとう。で、でも冒険者はそんなに無理かな?こう見えてけっこう…何?その生ぬるい笑顔」


ああでも…


今まではここを出て行くしか断罪からは逃げられないって思ってて、だから冒険者になろうって、そう決めていたんだけど今は…


冒険者になりたい気持ちは変わらない。だけど本当は気付いてる…僕に冒険は荷が重いって。


僕は前世でもお父さんに連れてってもらったボルダリングさえ出来なかった。

駆け足も遅いし握力も弱い。ハッキリ言ったら鈍くさい。

動物は好きだけど吠える犬とかは苦手だった。この間の魔鳥園でもよく分かった。

キャンプの火起こしだってお姉ちゃんのほうが上手くて…僕はいつもお肉をくしに刺す係。


だけど、だけど、それでもやっぱり…


「いますぐ決めることでも無い。ゆっくり考えなさいテオドール。それよりもほら、プレゼントだ」

「プレゼント?なに?えー、なんで?今日は別に何の日でもないのに」

「兄が弟にプレゼントを買うのに理由が必要かい?ほら着て見せてご覧。きっと似合う」


お兄様が差し出したのは淡いブルーのシフォンブラウス。普段着るブラウスよりもずっと柔らかい見たことない生地のブラウス。


「ええー!すご…お兄様!すごく柔らかい!」

「そうだろう?新作の生地らしい。ほらおいで、お兄様が着せてやろう」

「ええ~いいよ、僕一人で着れるし…」

「テオ…お兄様は大人なのにテオの手を借りた。こんな恥ずかしい思いをお兄様一人にさせるのかい?テオもお兄様の手を借りてこそお互い様になるんじゃないのかい」

「うっ!」


お兄様の言い分にも一理ある。恥は一緒にかけば相殺されるよね。うぅ…なら仕方ない…


「…あの…」

「なんだいテオドール」

「この着せ方って…こういうもの?」

「このほうが着せやすい。なにか問題あったかい?」


問題あるかないかって言ったら別にないけど、なんでこんな二人羽織みたいに後ろからボタンを閉めるのかな?


「おや、テオドール少し瘦せたんじゃないのかい?ああ…やっぱりあの騒動で心を痛めて…」

「痛めてないっ!痛めてないよ。だからさわ…触っちゃダメっ、お腹触んないでっ、うひゃっ、くすぐったい!」

「兄が弟の健康状態を心配するのは当然だろう?」

「ひゃぁ!くす、くすぐったい…うひゃひゃっ、我慢出来ない…もうっ!おしまい!おしまいだよ!」


お姉ちゃんともよくくすぐりあっこしてたけど、僕は昔から脇腹は弱いんだから。

あれ以来お兄様ったらすっかり兄弟愛に目覚めちゃって、こんなふうにじゃれあったりとか子供のころに戻ったみたい。


おかしくないよね?だって兄弟だもん。



なんとかお兄様の着替えを終え、仕方がないので美術の宿題を終わらせることにする。


「じゃあもうお庭に戻るね」

「テオいいね、よく考えるのだよ。王宮はけして楽しいばかりの場所ではないのだ」


念押しされるお兄様からの忠告。

そうして庭に戻る道すがら気付いたのだ…


あれ?お兄様って手を痛めてたんじゃなかったっけ…?



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