9 危機管理能力
あれから何事もなく月日は立ち僕は十二歳を迎えようとしていた。
十二歳、本当だったら魔法学院中等部へ入学する歳なんだけど…
「嫌だ!絶対絶対行かないから!」
「テオドール、そんなわけにはいかないのよ。あなたはこのレッドフォード家の次男なのですからきちんとした教育を学院で受けねば…」
「中等部で習うような内容なんて僕自分で出来るもん。無駄ったら無駄!」
「だからってテオドール…」
「お兄様が一緒に行ってあげられたら良かったんだけどね…」
「それに僕、下町の学校に行くって決めてもう届も出しちゃった!」
お母様とお兄様は、僕が庶民に混じって学校に行くなんていうもんだから大パニック。
だけど結局はいつも僕のわがままが通る事になってる。
お母様は僕に甘々だし、お兄様は僕のいうことなら大体いつも聞いてくれるし。
だけどきっとこれもゲームの力なんじゃないかって気がしてる。
だってテオドールがワガママでお母様とお兄様が言いなりじゃないと話が進まないんだから。
それならそれで好都合。普通なら通らないワガママも都合よく通せるのはむしろ僕的にラッキー?
貴族家の子供で一定以上の魔力を持つものは問答無用で学院に通う義務が生じる。
そこでその力をもっともっと研鑽して、いずれは国の為に役立てるのだ。
そのため十二歳になる前、国からやってきた検査官の前で魔力の測定をするのが決まりになっている。
僕はレベルに達してなかったから中等部への入学は任意ですんだ。おかげで高等部までは自由の身だ。
そんなわけだから、お母様がたとえどれほど反対したって測定値の高いアリエスが中等部から入学するのは決定事項。
なら厄介払いにてっきり入寮させるのかと思ったんだけど…
「えっ?寮に入んないの?通い?」
「本人の望みでございます」
「なんでまた…。寮に入ればいろいろと自由になるのに」
「アリエスにはアリエスの考えがあるのでしょう。それに侯爵夫人がアリエスの為に満足な寄付をなさるとは思えませぬし」
「そっか。侯爵家の息子が一般寮に入ってたらもっと対面悪いもんね」
先生の言う事もなるほど納得だ。
学院の寮はその寄付金の額で割り当てられる部屋が決まる。
王都に屋敷を持つ高位貴族は通いが多い。それでも入寮を希望する人は居るし、念のため部屋だけは取っておく人も居る。
そんな時、寄付の額が多ければ個室、それもさらに高額なら豪華な部屋が割り当てられる。
反対に寄付の額が低いと二人部屋。もっと低いと4人から6人までの大部屋になる。
侯爵家のプライドだけでお母様が庶子のアリエスに個室を与えるわけがない。
それにしても…五年間僕に魔法を、アリエスに魔法と一般教養を教え続けてくれた先生ともこれでお別れだ。
ちなみに僕の魔法は…えーえー、設定どおりにまったく上達しませんでしたよーだ。
あ~あ、先生がここに来なくなったらお兄様とお母様以外の話し相手が居なくなっちゃうな。
うう……寂しくなんかないんだからねっ!
「ええっ、徒歩で通うって言うの⁉」
「通えない距離ではありませんしね」
僕の使えない従者はアリエスの通学事情をあっさりと言いきった。
「けど、魔法学院まで歩きだと片道2時間くらいかかるじゃん。往復4時間って…いやいやありえないでしょ」
「そうは言いますがテオドール様。庶子であるアリエスがこうして学院に通わせてもらえるだけでもありがたいと思わないと」
「そんなこと言ったって…」
この人積極的に意地悪仕掛けたりするほど悪人なタイプではない。だからって善人かと言ったらそうでも無い。
僕だってイイ人ぶるつもりはないけど…
往復四時間の通学なんて、前世の常識的にちょっとかわいそうって思っちゃうんだよね。
う~ん、しょうがない。
お母様に言っても、僕が学院に入らなかったことでへそを曲げている今、さすがにワガママ言えないだろうし…むしろ話を蒸し返されたら困る。
……へそくりを出すか。
僕には毎年決まった額のお小遣いがお父様から割り当てられている。僕はそれを大人を通さず自由裁量で使えるようお父様にお願いしていた。
お父様は連れ子の僕に最低限の関心しかないみたい。だけど〝神童”と呼ばれる僕が〝薬草を育てて薬を作る”って言ったら予算内で収めるっていう約束で自由にさせてくれた。
その予算をさらに僕は、前世の知識でちょっとした便利グッズを作って増やしていたのだ。
と言っても、つくったのは板に車輪と取っ手を付けただけのキックボードもどきだったりするんだけど、敷地の中をそれで移動してたところ、お兄様がそれを見てすごく感動して商業ギルドに登録してくれたのだ。
これがまぁ、意外と売れて…
そんなわけで多少の貯金ならあるのだが…
僕は厩舎へ行くとそこで休んでいた御者に聞いてみることにした。
「ねえ、馬車ってどこで買ったらいいの?」
甘かった…
馬車、つまり必要なのは車部分と馬と御者、それから維持費もかかるなんて…
毎月の維持費なら増やした僕のお小遣いでもなんとかなるかもしれない。だって僕ほとんど家から出ないしね。薬草の苗以外お金使わないんだよね。
でも、肝心の馬車がそもそも高くて、馬込みだと…う~ん、最低限のしか買えそうにない。前世で言うと軽みたいな?
仕方ない。アリエスにはこれで我慢してもらうか。だって二時間歩くよりはましだよね。
御者だけは下っ端の馬丁でいいからってお母様から許可をもらった。
これでなんとか通学できるだろう。
「って言う訳だからこの馬車使って。乗り心地は我慢して」
「待って!待ってくださいお兄様…」
「何?もうなんなん…」
「どうして…お兄様はどうして学院に行かれないのですか?平民に混じって市井の学校へ行くって聞きました」
「学校に行きたいからだよ。そんだけ」
「待ってください!納得いきません!」
馬車を持っていった僕に妙な言いがかりで食い下がるのはアリエス。彼は庶子の自分が魔法学院に通って正当な侯爵子息の僕が庶民学校へいくのが、どうしても、どーしても納得できないみたいだ。
「僕が学校行くのにアリエスが納得する必要ある?」
「一緒に…やっと一緒に学院生活出来るって思ったのに…学院内でなら…もっと親しくなれるかもって…」
は?はぁ?親しくって…こわ…
そんなこと考えてたのかアリエス!冗談じゃないよ!
走ってその場を離れる僕。いつだって僕は出来る限り接点持たないように最大の努力をしてるのに!
なにかと絡もうとしてくるアリエスにゲームの強制力を感じる…
…だけどこれでやっと…




