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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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90 レグルスの胸の内

レグルスに頼まれたジャガイモのレポート、ようやくまとまったそれを王城へ届けに来たのはある休日のこと。


前世の僕には四人のおじいちゃんおばあちゃんが居る。

田舎の方のおじいちゃんとおばあちゃんは大きな畑を持っていたプロ農家だ。

だから夏休みで遊びに行くたび色んなことを教えてもらった。


それに一緒に住んでたおじいちゃんおばあちゃんも、家の近所に小さな畑を借りて少しだけ野菜を作っていた。


僕はアルバイトと称し、草取りなんかのお手伝いしてはしょっちゅうお小遣いをもらってた。金額が多すぎるってよくお母さんに怒られたっけ。


何が言いたいかというと、こう見えて野菜のことには詳しいってことね。だからまあまあ立派なレポートが出来上がっていた。


以前は来るのを躊躇した王城、けど学院と同じでここもずいぶん居心地が良くなっている。


…レグルスの手前、大っぴらに何か言われることはなかったけど、やっぱり空気は悪かったんだなって、こうなってみてやっと気づいた。



「レグルスはいこれ。ジャガイモのレポート。分かることだけね。それでね、この間話した孤児院の庭で育てるって話…」


「テオ、まずは資料を見てからだよ。あの孤児院は貴族の寄付でなりたっている。何かあれば責任が問われるからね。君と違って皆はまだこの奴隷芋を身体を壊すものだと思っている。子供たちの健康を害さ無い、その証明が無ければ簡単に考えを変える事なんて出来ないだろう」


「そうなの?」

ガックリ…

「…面倒だね、貴族って」


あの孤児院の子供たちはもう何回だってポテチを食べてるのに!プンプンだよ!


「自分たちで作って自分たちで食べるだけだよ?それでもいけないの?」


こんな話を聞くたびにやっぱり平民になりたいって今まではそう思っていた。


「テオドール。貴族には果たさねばならない義務がある。貴族が庶民には出来ぬ華やかな暮らしを出来るのも、その代わりに庶民では負い切れぬだけの責務を果たすと彼らが信じているからだ。何かあれば我々高位の者が自分の住まう地を、そして自分たちを守ってくれる、そう思うからこそ彼らは我々に敬意を払ってくれるのだよ」


「それはわかるケド…」


「彼らの信頼を失うわけにはいかないよ。あんな事件の後でもあるし慎重にならざるを得ないんだ。王家とはあくまでも国の代表者であり、けっして国を支配するものであってはならない。だからこそドラブのような腐敗貴族を放置することは最大の裏切り行為といえる」

「レグルス…」


いつもの定番スマイルを消して真顔になるレグルス。初めて見る顔に僕までつられて真顔になる。


「王族として教育を受ける中で私はそんな風に考えていた。蓄積された過去からの負債…。だが狡猾な彼らに悟られぬよう水面下で事を進めるのは至難の業でね、セリッシュ嬢の暴走はまさに降ってわいた好機だった」


「テオには分からなかったろう?私はああ見えてけっこう必死だったのだよ。腐敗貴族の一掃。これは父上の代から課せられた悲願。本当に必死だったんだ…」


必死だった…僕を囮にするくらい。


王様は僕とお父様を王宮に招き、何が起きていたのか事の次第を話してくれた。

そして前のドラブ侯には良くしてもらったと言ったけど、けして良い貴族だったとは言わなかった。


処罰を受けたあれだけ多くの家門、今の代だけであそこまでの結びつきになるはずが無いってお父様は言った。

いったいいつから、いつの代から腐敗は続いていたんだろう。王様の顔にはいくつもの深い皺があった。


レグルスはゲームの中でも清廉潔白で公正明大なキャラだった。

ゲームの中で王子がテオに怒ったのはテオに人への憐みが無かったからだ。

だってテオドールは王子に出会うまで、お兄様とお母様以外の誰にも心を開いていなかったんだからしょうがない。


そして僕がこの目で見てきた本物のレグルスはちょっぴり腹黒い部分もあったけど…でも王族として正しくあろうとしてきた本当に立派な王太子だ。


いつも涼しい顔でなんでも簡単に出来ちゃうレグルス。それでもあの春頃は、なんだかいつも疲れていた。

きっと僕の知らないところで色んなことをしていたのだろう。

それなのにその合間に僕の噂の出所まで探してくれて…

今だってそう、こうして会っている時でさえ、レグルスはいつも何かの仕事をしてる。


僕といる時ぐらい書類をしまったらいいのに…


軽口をたたきながらもその手は常に書類をめくる。どれだけ大変でも愚痴ひとつこぼさない。


いつかデルフィに言った自分の言葉を思い出す。

僕は言ったっけ。権利を捨てるから義務も果たさないって…


あの時は自分の事で精一杯で…でも今は少しだけ心に余裕が出来た。


なんだか恥ずかしい…。みんないろんなことを考えてるのに、僕だけがいつまでも自分のことばかり。


自由になりたい…それは今でも変わらない。けど今僕のこの自由はみんなが与えてくれたものだから。


「どうしたんだいテオ?神妙な顔して。ふふ、大丈夫。検証して必ず議会を通して見せる。自信があるんだろう?これで上手くいくって」

「う、うん。絶対上手くいく。あ、あのねレグルス…」

「なに?」


「いつかね、冷たいって言ってごめんなさい。僕は何にも分かって無くて…レグルスはすごいね。とても立派な王子様だった。お手伝いできることあったらなんでも言って?レグルスが過労死しないように僕も助けてあげる。あ、ちょっとだけだよ!ちょっとしか無理だからね!色々は出来ないからね!」


そんなにポカンとしなくったって…おかしいかな?僕がこんなこと言ったら。


「…は…、参ったな。テオドール、君はなんて悪い子なんだ。こんなふうに私の心を揺さぶって。私の物になると決めたわけではないんだろう?それなのにその顔、その言葉は反則だよ。おいで」


「あ…」


腕を引かれてその膝に乗り上げる。

もうもうっ!すぐこうやって抱っこするんだから!…って、あれ?これって僕をぬいぐるみ代わりにしてるのかな?

そういえばなんか疲れてるときは体温のあるもの抱きしめると良いって前世のアニマルセラピー本に書いてあった。そうかぁ…疲れてるんだな…


助けてあげるって言ったばかりだし、仕方ない…少しだけこのままでいてあげる。

部屋の片隅に居るケフィウスさんが気になるけど…王子の側付なんて空気と同じようなものだもんね。



--------------

「テオドール様は随分成長されましたね。少し子供っぽさが抜けたようです。まだまだ王太子妃としては不十分ですが」


「ケフィウス…君はずっとテオドールを品定めしていたね。どうだい私のテオドールは。ほら、これを見てごらん。テオのまとめた芋の資料だ。きれいな字でとても分かり易くまとめられている。ところどころ重要な部分には色彩が添えられて…こういった書類のまとめ方を私は初めて見たよ。やはり神童といわれるのは伊達ではないね」


「彼は言動が幼いのでつい神童であることを忘れがちですが。しかし…内容の検証はもちろん必要ですがこれが本当ならとても役に立つ情報です。北の食糧不足がこれで一気に解決します」


テオドールのまとめあげた資料。彼はこれをどうやって知ったのか…


毒性を下げる芋の保存方法、下処理の仕方。植え付けに適した肥料から、今は飼育肥料用に秋にしか植えない芋が、上手くやれば年二回、三回収穫できると書いてある。

土の酸性…アルカリ性?ともかく、土壌の質を高める方法まで。それに連作に関するこの情報は他の農作物にもあてはまりそうだ。

現状の田畑を焼いて土壌を肥やす辺境のやり方は時に大きな災害を呼ぶ。それをしなくてよいとなれば、様々な可能性が広がるだろう。




ああ、だめだ…。なんとしてもテオドールが欲しい。

私の描く未来には彼がどうしても必要だ。




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