87 ジローと過ごす花鳥園?
ついに最後の一日になってしまった。ああ…せっかくの夏休みが…
そういえば前世でも八月の最終日になるたび、明日が来なければいいのにってそう思ったっけ。
とは言っても今回ばかりは引きこもり含めて三か月も休んでたから、さすがの僕も多少は新学期が待ち遠しい。
新学期といえば、色々リセットされた第二学年の新学期からは演習も解禁になってしまった。そこはあのままでも良かったのに…
と、とにかく、学院が始まればなかなか遊びにも行けなくなっちゃう。だからアリエスに最後の日はジローと遊ぶって高らかに宣言して見せた。ちなみにジローの許可は得ていない。
「はいお兄様。これが今日行く予定地の園内図です。ここならお兄様も興味深いんじゃないかってアルタイルとジローの推薦ですよ。ちなみにハインリヒ様はジローが一緒だとは知りません。ですから決してジローが一緒だったと口にしてはいけませんよ。僕とアルとお兄様。いいですね、今日出かけるのは3人です」
「あ、うん」
そうか、さすがにお兄様はダメだったか。
お兄様はデルフィに負けず劣らず貴族としての矜持が強い。ジローを手足とすることはあっても決して馴れ合いはしないだろう。こればっかりは仕方ないよね。
それにしてもこれ…花鳥園かぁ…
前世でも一度連れて行ってもらったことのある花鳥園。とても楽しかったのを覚えてる。
手の平にいっぱい小鳥を乗せて頭をつつかれたりもしたんだっけ。エミューと一緒に散歩をしたのもほんとに楽しい体験で…
この世界でも行けるなんて…どんな思い出が出来るんだろう?
そう考えるだけでワクワクして前の晩はほとんど一睡も出来なかった。
「ひゃぁぁ~!王都にこんなところがあったなんて!すごいっ!」
「本日ここはデルフィヌス様が貸し切りにしてくださいました。だから僕たちだけで気兼ねなく過ごせますよ。今回の件の慰労ですって。あ、ジローには陛下からこれとは別に報奨がでるようですよ。ご存じでした?」
「へ、へぇ…すげぇ、まじかよ」
陛下からジローに報奨!すっご!
ジローは僕の知らないところでうんと頑張ってくれていたらしい。とっても大事なお役目をこなしたってみんなから聞かされた。
何もらうんだろう?ボーナスかな?トロフィーかな?それとも勲章とかそういった感じ?絶対見せてもらわなくちゃ!
それにしてもここは…僕の思ってた花鳥園と違う。檻に居るのは鳥型の…
「魔鳥!」
「どうした?テオは冒険者になるんだろう?これくらいで怖がっていてはダンジョンには入れないぞ」
「ダンジョンの魔獣はこれよりでけぇ。ハハッ、どうした?びびったのか?」
「び、ビビってなんかないよっ!ただ初めて見た魔鳥だったから…ゴクリ…」
目の前の大きな鷲型の魔鳥とばっちり目が合う。
「ギシャァァァァ!」
ザザ!ひぃぃぃ!
殺傷力の強い大きな魔鳥は、魔法を放てないようアンチマジックの魔石に囲まれミスリルの大きな檻に入ってる。それがプライドに触るのか憎々し気にこっちを見ている…こわ…怖い…
思わずジローの腕にしがみつ…こうとしたら、アリエスがその間に割り込んできた。いいんだけどね、アリエスの腕でも。
だけど人にそれほど危害を加えない無害そうな魔鳥は放し飼いになっている。よかったぁ…これこそが僕の来たかった花鳥園…だろうか?
「いいかテオ。こちらが仕掛けなければ何もしてこないとはいえ気を付けるんだ」
「仕掛けたらなにかされるんだ…」
「それから園内の花々には肉食植物も混ざってやがる。むやみに指でつつくんじゃねぇ。この園内は全て自己責任だからな」
「うっ、そ、そうなの?」
「ここは力を誇示する場所なんですよお兄様。多少なりとも魔法の使えるいずれかのご子息や腕っぷしが自慢のどこかの商人が、お目当ての誰かさんを連れてきては「俺が守ってやる!」とか「俺の後ろに隠れてろ!」とか言っていいとこみせようとするんですよ」
「「………」」
あれ?どうしてアルとジローは明後日の方角を…?何か飛んでたっけ?
「と、ともかく!森林地帯の魔鳥なんかも冒険者のベルトや革袋、奪っちまったりするから気をつけろ。よくおっさんたちがぼやいてるだろ」
「ええ~、じゃぁ僕のこのリボンタイとか…って、ああっ!」
言ってるそばから持ってかれた!おのれ…
「も~!返してっ!返してよぉ!」
ぴょこぴょこ飛び跳ねながら黄色い魔鳥を追いかける。
その時ふと思い出したのだ。あれ?もしかしてゲーム中盤のミニゲームってここじゃない?
決められた時間内に黄色い鳥に奪われたアクセサリーをいくつ取り戻せるかのあのゲーム。
そして奪われた飾りを時間内に全部取り返すことが出来るとその後の好感度上昇率がはね上がるのだ。
SDキャラがとても可愛いあのミニゲーム。これだったのか…感慨深い…
そうこうして追いかけてると気がついたらそこには僕とジローだけになっていた。
「ほらよっ。もう取られないようポケットにでもしまっとけ」
「あ…ありがとじろー。ねぇ?アルとアリエスは?」
「ははっ、アリエスも髪飾り奪われたって二人して追いかけてった。お前があげたやつなんだって?そりゃぁ失くすわけにはいかねぇよなぁ」
「そーなんだ…。じ、じゃぁ二人っきりだね」
「お、おう…」
なんだろう…こうして二人っきりになるのは久しぶりだ。最近はいつも誰かが一緒だったから…なんか恥ずかしいな…
「あ、ねぇじろー、これ…」
「なんだ?」
「王家の湖で見つけたの。人魚のウロコだって。キラキラしてキレイでしょ?じろーにあげる」
「おっ、まえ、これっ!すげー貴重なもんじゃねぇか!いや、ダメだろこれは!さすがの俺も貰えねぇよ!お前知ってんのか?これがどれほど高価な素材かって…。ハイポーションの原料になるんだぞ!」
「うっ、で、でもっ…せっかくじろーにあげようと思って転んでびしょ濡れになりながら頑張って拾ったのに…。レグルスにだって…そのっ、一応ちゃんと聞いたもん…」
「テオ…お前そんなに…参ったな。どうすりゃいいのかわかんねぇよ。…わかった、これはお前の気持ちだ。貰っとく」
ジローにあげたいって話したら最初すごい渋い顔したレグルス。
嘘泣き半分で無理やり頼むと「分かったよ。君はホントに悪い子だ」ってそう言って許可してくれた。
知らなかった…ハイポーションの原料なんだ…。どうしよう、今初めて聞いた。
だからあんなに渋い顔してたのか…。土下座くらいで許してくれるかな…
そして目の前のジローも神妙な顔でため息をつく。高価で貴重な人魚のウロコ…。そりゃ僕だって友達から「お土産~」って言って、いきなりハイブランドの二百万ぐらいする時計貰ったらドン引きするわ。ごめんねジロー。
僕ってばどっちに対しても大迷惑だ…。
「王家の湖か…。そうだよな。分かってるつもりだったが…そんなもんじゃねぇか。なぁテオ…どれくらい立派になったら侯爵家は俺を認めてくれるんだろうな?」
「どれほど立派になっても僕が居る限り認めませんよ。残念でしたねジロー」
「ひぃっ!」
音もなく現れたアリエス、…こ、怖ぁ~…
だけどジローは気が紛れたようだったし僕も後ろめたさが霧散した。
そうして半日かけて隅々まで満喫した。
僕の髪の毛は何度も食べられかけてアリエスがそのたび切れ散らかしていた。ちなみに屋敷に帰ってよく見たら服のはじっこが溶けていた…。ゾッ…恐るべし、異世界の花鳥園。
こんなふうにして散々だった僕の夏は花鳥園での楽しい思い出で最後のページが埋められた。
終わり良ければ総て良し。
そしてそこに挟もうと取り出した記念のパンフレットにキレイなレタリングで書かれていたのは…
〝魔鳥園”




