83 家族の再生①
何と言う事だろう…
あれほどここを避けてたお父様が夏の半分を王都邸でお過ごしになるなんて。
それも現在、この食卓には家族全員が揃っている。お父様、お母様、お兄様に僕、そしてなんとアリエスも!
こうしてこの五人で並ぶのは実に初めての事なのだ。ドキドキ…
「これより母ヴィクトリアは私と共に領地へ参る。ハインリヒよ、当主代理としてこの王都邸を任せたぞ」
「はい、父上。お任せください。このハインリヒ、つつがなく屋敷とそして弟達を守ってみせましょう」
「そしてアリエスよ、長らくの冷遇すまなかった。これより本邸に居住を移すが良い」
「あ…いえ、ありがとうございます。」
「テオドール」
「ひゃいっ!」
「兄ハインリヒとは互いに話し合ったと聞いた」
僕の隣で、何故かアリエスがピクリと反応する。
「ハインリヒよ。それでいいのだな?」
「はい。私にとっての喜びはテオドールが幸せでいる事ですから」
「そうか…私よりもお前の方が愛とは何かをわかっておるようだ。これからも兄として…テオドールを頼んだぞ」
「もちろんです」
涼しげな顔で答えるお兄様に視線を向けてアリエスのエメラルドグリーンの瞳が静かに揺れる。アリエスは今何を考えているんだろうか…
食事が終わるとアリエスに離れへ来ないかと誘われた。
そうだなぁ…これでもうこの離れには来ないかもしれないし…
お父様はここをどうするんだろう?僕にくれたりしないかな?
あの話を聞いた後だとこの離れもどこはかとなく感慨深い。会ったことも無い人だけど遺伝子の半分をくれた人。
この離れにずっと居たんだなぁ…テオのお父さん。僕に似た身体の弱い本当のお父さん。
ゲームの中のテオドール。
あの子の欲しくて欲しくて仕方なかったお父様の愛情は、同じところにいる本当のお父さんがきっと惜しみなく注いでくれてるに違いない。
「あ~あ、お兄様が下さったこの離れに出来たらずっと居たかったのですけど…そう言う訳にはいきませんよね」
「そうだねぇ、お父様が初めてはっきり三男だって宣言したのにずっと離れに居たいなんて言える?」
「そうですよね…残念」
心底そう思っているんだろう。アリエスは懐かしそうに目を細めている。
「ねぇお兄様、初めて僕をここに連れてきてくれたあの日のこと覚えてらっしゃいますか?僕は全て覚えてる。お兄様の温かな手も、おぼつかない足元も。ふふっ」
「おぼつかない…」
足が短いって言いたいのかな?
「…お兄様は初めからずっと優しかった。どうしてお兄様はあんなにも僕に優しくしてくださったんですか?僕はみすぼらしい子供だったでしょう?」
「ええっ、優しいって…そんなこと無かったと思うんだけど?」
だって僕はどっちかというとずっとアリエスを避けてたんだから。むしろ冷たくした覚えしかない。
だけどそうだなぁ…僕がしたことと言えば。
「優しくなんかしなかったよ。僕はいつだって僕の事だけ考えてたんだから。アリエスを辛い目に合わせたら僕は幸せになれなくなっちゃう。だから先にアリエスを何とかしようと思ったりはしたけど」
「お兄様は僕が辛いと幸せではないのですか?」
「え?あ、うん。そりゃそうでしょ。当然だよ!」
断罪フラグを何とかするにはアリエスのハッピーライフが必須事項で、それ以外あの時の僕には選択肢なんて無かったわけで…
それをアリエスが辛いのが嫌だったのかと聞かれればそうだとしか言えない訳で。
「…僕の幸せをいつも望んでくださるのですか…」
「言ったでしょ。アリエスが幸せにならないと僕も幸せになれないからね」
「お兄様…。あの部屋でおっしゃったことそのままですね。「お父様が幸せじゃないとお母様が幸せじゃない」か…。ステキなお考え…。お兄様はなんてどこまでも……ああ…なんて大きいのでしょう…」
「うん?」
「歓楽街で産み落とされた望まれなかった子供…、あの時みじめな子供の幸せを心から願ってくださったのはお兄様ただお一人でした。父である方には望まれず、母親にはお金を無心するためのコマにされ、どこにも居場所が無かった僕に、お兄様こそが居場所を作って下さったんです。だから僕も何がお兄様の幸せなのか…そうですとも、何がお兄様のためなのかよく考えますね」
「えぇー、いいよ別に。アリエスは自分の事を考えてよ。ほら、レグルスと結婚して王妃になるとかさぁ」
「…今なんて言いました…?」
ビクッ
思いのほか低い声が聞こえてきて少しびびった…




