82 嵐のその後
「テオ…テオドール…大丈夫かい…テオ、しっかり…」
「うう…」
「気が付いたかい?気分はどう?頭痛やめまいは?」
「…ここは?」
「学院の私の部屋だ…。ハインリヒは連れて帰りたがっていたが校医が馬車の揺れは良くないと言ったのでね」
「それでなんでレグルスの部屋?普通こういうのって医務室じゃないの?」
「ここが一番ベッドが良いんだ…」
あーはいはい、そりゃそうだよね。王子殿下の部屋のベッドが医務室のベッドに負ける訳ない…っていうか、休憩のための私室の奥にどうしてこんな立派なベッドがあるのか…王子さぼり疑惑を胸に、僕はゆっくり身体を起した。いてて…頭が痛い…
「お兄様、気が付きましたか?すべて、ええ、すべてもう片付きました。これでもうお兄様を傷つけるものはいませんからね」
「ああ、安心して通うといい。社交界の悪意のある噂も彼らの失脚を持ってじきに収まりを見せるだろう」
「アルタイル…いつ来たの?」
「隣の部屋、サロンの隣にずっといた。大丈夫かテオ…いきなりあんな話聞いて…辛かっただろう」
「全然平気。聞けて良かった。」
アルタイルが心配するのはお父様たちの話かな?
だけどそれを聞いて僕がショックを受けるポイントが分からない。何か問題あっただろうか?
…デイヴィッドさん…可哀そうだとは思ったけど、僕の人格は前世の記憶が勝ってるから、この世界のお父さんにはどこか薄情なのかもしれないな。
だって僕のお父さんは今でも黒目黒髪のキャンプ好きなお父さんしか浮かばない。
それに、それをいうならアリエスの方がショックなんじゃないかって思うんだけど。自暴自棄の結果なんて言われちゃって…僕ならきっと超へこむ。
「ねぇテオドール、侯爵殿はハインリヒとの婚儀はあきらめるようだよ。ハインリヒが納得するかは別の話だけどね」
「それだけど…お兄様には自分でちゃんと言った。ずっとお兄様で居て欲しいって」
「えっ!それでもあのハインリヒ様が納得なんて…」
「…お兄様は僕の頼みなら…うっ…な、何でも聞いてくれるから…だから…僕の事ずっと弟だって言ってくれた…ぐす…」
「テオは本当に泣き虫だ。そうか、ハインリヒが…」
だめだ…あの日の事を思い出すと今でも胸が締めつけられる…。
お兄様にあんな顔させて…、僕はお兄様をゲームのように不幸にしたいわけじゃないのに。
「テオドール…私との婚約はどうする?君が良ければ私はこのまま、君の成人の儀を待って正式に婚約状を取り交わしたいと思ってる。それはあらためて侯爵にもお伝えした。だけど今回のこの騒動…腐敗貴族を一掃するためとはいえ、分かっていながら君への仕打ちを黙認したのは他でもないこの私だ。君がもし私を許せないと思うなら…」
「いいえ、殿下は悪くない。この私がお願いしたのです。これは千載一遇の好機だと。テオドール様、どうか誤解なされぬよう…殿下は常に心を痛めておいででした」
「許せないって…?何のこと?僕を囮にしたこと言ってるの?」
「囮…随分とハッキリ言うんだね」
「ハインリヒお兄様がそう言ったもん。僕を囮にして殿下は巨悪を退治するんだって。僕は国の将来にかかわる大事な任務を請け負ったんだから何を言われても気にせずに自分を誇って良いんだって。」
「ハインリヒがそんなことを…」
そう、だから社交界で何を言われようが学院で陰口をたたかれようが、気にしないで過ごしなさいってあの図書室で言ってくれた。それでもだめならいつだってお兄様が守ってあげるって…くすん…大好きお兄様…
「それにレグルスってそういうタイプだもんね。僕知ってるし」
「そうだな。だがそうでなくては一国の王は務まらない。冷酷な王であれとは思わないが情に流され判断を誤るなど、僕が傍についている限りさせないよ」
「デルフィ!会いたかった!ねぇタウルスはどうしてる?アリエスも知らないって言うの!夜会の後どうなった?」
「あれから彼は学院へも来ていない。だが今回の粛清は騎士団員にも波及している。団長自身の潔白は証明されたが副団長は…ちょっとね…」
「副団長…なにかあったの?」
「彼はオピオンに侵されていたようだ。それをネタに脅され、そして彼の口利きでドラブの縁者が試験を受けず何名も不正に採用されていた。人事に関し彼に一任した団長にも責任はある。何らかの処罰は免れないだろう。僕もタウルスの事は気になっているのでね、休みの間に様子を見に行くつもりだ」
「あー…って、休み?あっ、もう夏休みだ!デルフィ、僕も連れてって!」
夏休み…前世と同じに夏休みは長期の休み。これでホントに断罪フラグが消え去ったなら、やりたかったこと全部やってもいいんじゃないかって思うんだ。
計画してた事ならたくさんある。ジローとアルとアリエスと、みんなでダンジョン行こうってずっとずっと話してた。冒険者の予行練習。
タウルスも行きたいって言ったら連れて行ってあげようか?
冒険者かぁ…
僕は十六になったら…十六になったらどうしよう。
レグルスは本気で僕を婚約者に?
…そうしたら僕はどうするんだろう…どうしたらいいんだろう…




