はち 消えてないフラグ
お母さまが手配した家庭教師がやってきた。魔法学園の上にある学術院で教鞭をとってたこともあるとても頭のいい先生だ。
「こ、これはっ…!」
「ふふん」ドヤッ!
「勉学に関してはお教えすることがございませぬ…神童とは聞いておりましたがこれほどとは…」
「でしょ」
「ですが、魔法に関しましては未熟どころではございませんな」
「ぐふっ…」
それは言わない約束でしょ…あ、してないわ。そんな約束…
「では魔法を中心に」
「いいんだよ!僕は魔法なんて最低限使えればそれで別に困らないし!そんなに教えたいなら離れであの子の勉強を見たらいいじゃん。あっ!そうだよそうしなよ!それいい考え!お母様には内緒で」
おお!突発的な思い付きだがナイスじゃないの?
「…しかし伯爵夫人からはテオドール様をご教授せよと」
「どうせいくらやったって僕の魔法は上達しない」
これ設定だから!
「なのに魔法の勉強ばっかり毎日毎日やってらんないよ。四日向こう行ったら一日こっち来て。それくらいで十分。来る日数が同じならお給料は一緒でしょ?」
「むむ…四日こちらで一日あちらでは…」
「三日向こうで二日こっち」
「いやいや、二日向こうで三日こちらに」
「……二日向こうで二日こっち…一日は先生の裁量で…」
「畏まりました」
負けた気がする。
先生を通じて離れの情報が手に入るようになってきた。
僕の侍従をあちらにやってから、僕には新しい従者がやってきたけどやる気があるのかないのか分からない人。
言われたことはなんであろうが正確にキチンとするけれど、自分から進んでなにかは絶対しないし隙あらばさぼろうとする現代人っぽさを感じる人物。
でもこれくらいの人のほうが僕には都合がいい。責任感のありすぎる人だと結構、いやかなりめんどくさい。
僕はパーソナルスペースを大切にする現代っ子だからね!
そんなある日先生に手を引かれてやって来たのはなんと…アリエス!
は、はぁ?
「あの、僕お兄さまにどうしてもお礼が言いたくて」
「なに!何のお礼⁉ちょ、やめて!僕は自分のためにしか何にもしてないよっ!」
「でも、お兄さまのおかげでどんどん暮らしやすくなっていきます。こうして勉強までも教えてもらえるなんて…」
「お礼とか良いから、あちょ、も、やめてっ!頭下げないでー!」
勘弁してよ~。これじゃぁ傍から見たらなんて思われるか。
僕とアリエスの間にはとてもとても繊細な問題が常に立ちはだかっているんだから。
「わ、わかった、わかったから早く戻りなよ。もういいからっ!」
「あの」
「何!」
「このクッキー…少し頂いてもいいですか…?その、好きなんです…大好きなんです!」
「え、なかなか違いの分かる男だね。いいよいいよ好きなだけ持ってって」
この固焼き煎餅みたいなクッキーの良さが分かるとは…グルメである。
「先生…ほんとなんですか?このお間言ってらした…お兄さまの評判がとても、その、良くないって…」
「う~む、何故あのような噂がまかり通っておるのか私にもわからぬのだが…」
「お兄さまはこんなにお優しいかたなのに…」
「うむうむ、わかりづらくはあるがの」
レッドフォード家のテオドールはわがままで癇癪持ちの鼻持ちならない子供。
母親違いの弟を離れに追いやり、本邸への立ち入りを許さない。
偏屈な、父である侯爵にも見放された悪童である…




