77 断罪の時
引きこもってた僕の元に王家から迎えの馬車がやってきた。
家令のスチュアートの話ではお父様もお母様も学院で僕を待ってるらしい。
お兄様に手を引かれ急いで馬車に乗り込んだ。
そうしてやって来たひと月ぶりの学院は威圧感溢れる大侯爵、つまりお父様の存在感で学院長まで震えあがり誰も口火を切れないでいた。
ここまでの色々で僕のメンタルはボロボロだ。小さくなったまま僕はアリエスとお兄様に挟まれ事の成り行きをただ黙って見てた。
「多少の悪評ごとき、テオのあげた功績から鑑みて問題にもならぬと捨て置けばこれは一体どういうことか。議会での見苦しい惨状は言うに及ばず、我がレッドフォードを見縊る行い、殿下を信じて任せておいたがこれ以上は見過ごせぬ」
「返す言葉もない…」
「だが、武器まがいのおもちゃを作って不信の種をまいたテオドール、そしてハインリヒにも責はある故それは責任を取らせるつもりだ。依ってこの婚約は辞退させよう」
「私との婚約を解消しどうされるおつもりか」
「王家との婚約を反故にしたテオドールには今後まともな縁組はなかろう。そこでいっそ義兄を伴侶につけ二度と下らぬ真似をせぬよう監視をさせる。家門にとって良縁とは言えぬがこれをもってテオへの罰、そしてハインリヒへの戒め。仕方が無かろう」
な、なん、なんで?
一気にHPバーが赤くなる。
そしてアリエスはカッと目を剥きお兄様は…僕の背中をそっと撫でた。
ああ…せっかく本人と話をつけたのに…結局軟禁決定かぁ…
あの涙の意味って一体…僕とお兄様のドラマを返せ!
それにしてもなんだってこんなことに…。そっか、武器か…武器ね…
まさか割りばし工作がこんな大層なモノへとグレードアップするなんて…こんなのってないよ…
へこむ僕を置き去りに、王子と大侯爵、頂上対決は止まらない。
「それは早計と言わざるを得ない。侯爵、此度のこの悪質な噂、もとをただせばそもそもの発端は夫人とハインリヒではないか。これらは全て無茶を承知で通そうとした結果だ。それをあたかも王家に非があるかのように…夫人…そうではありませんか?」
「まぁ、なんとひどい言い草でしょう。あの件はメイドたちの不義を公表することで収まりを見せたはずですわ。そしてハインリヒの武器改良に関しても既に話はついております。これらは宮廷周りの思惑ではありませんの。そもそもテオドールとの婚約を本気で望んだのは殿下、貴方様おひとりでございましょう。無茶を通そうとした結果というのでしたらこれこそがまさにそうではないのかしら」
「まったくもってその通りだ。奴らはテオドールの悪評を名分に婚約者から下ろした上で軟禁などと…口にするのも憚られる!なんと下劣で下らぬ策略かっ!」
軟禁!何それ怖い!
「お待ちください侯爵様そして侯爵夫人。軟禁などといった愚劣な案、そこに至る全ては仕組まれたもの。自ら流した噂に便乗する形であわよくばご令息を手に入れようと…暗躍した者どもがいるのです」
暗躍!デルフィの口から飛び出した恐ろしいキーワードがますます僕のHPを削っていく。
それにしたってどうして学院に?だってさっきまでみんな王宮に居たんでしょ?なんだって僕まで呼び出して学院じゃなきゃダメなんだろう。今から何が始まるの?
まるで心の声が聞こえたかのように、合図を受けた王子の近衛が二人の生徒を連れて入室する。
あれ?この人達は何度か顔を見たことある…そうだ!一学年上の先輩だ!
「侯よ。此度の騒動だが私は噂の出所を、いや、害意をまき散らす不届き者を明らかにせんと密かに探っていたのだよ」
え…、え、えぇー!そうだったのー?
「噂の温床は夜会や茶会。誰それに聞いたというはっきりしない話をひとつづつ検証し…そうして浮かび上がってきたのがこの者たちだ」
「い、いいえ殿下。害意などと滅相も無い!我々らは焚き付けられただけなのです」
「ほう?どのようにだ。言ってみるがいい!」
「その、悪辣な武器を発明しては国を危険にさらす者など、た、たとえ侯爵家の息子でも放置しては危険だと…」
「そ、それが公の問題となればきっと地位剥奪の上なんの力ももたぬ…もたぬ…」
「もたぬ、何だ!続けよ!」
ビク!「わ、我ら辺境の財の無い…いずれかの下位貴族に娶らせる運びになることだろうと」
「愚かな…」
「この身の程知らずらめが!」
「も、申し訳ございません!ですが何度も囁かれるたび信じてしまったのです。こ、これは善行なのだと」
「我らはただ…ただ遠くから焦がれるしかなかったテオドール様を伴侶に出来る可能性があると聞き、浅はかにもその気になってしまっただけなのです…」
ああーーー!!!お前らかー!おっ、おっ、お前らっ!もしや全年齢バーションの下位貴族っ!
そういえばこの顔…ゲームでは半シルエットだったけどうっすら見覚えあるような…
ぐぬぬ…こんなところに隠れていたのか、お、恐るべしゲームの設定…
「それだけか?純愛のように語るなど片腹痛い、金銭の授受もあったのだろうが!なんという軽率な…お前たちの醜悪な行い、全て皆の前で説明せよ!」
「りょ、両親に連れられ茶会や夜会へ出向く際、その都度ご婦人たちに耳打ちをしておりました。テオドール様をこのままにしては世が乱世へと向かいかねぬ、何とかせねば有望な跡継ぎたちが皆道を踏み外しかねないと。テオドール様を排斥するのが正しき貴族の務めと…う、噂好きなお方を中心にして面白おかしく脚色をして話したのです…」
僕の隣でギリリと音がする。お兄様が歯を軋ませたのだ…
「後は皆様の知る通り。夫人から議決権のある当主へと話は進み…ああ…今ではなんと愚かな真似をと後悔しかありません。あの晩、一方的に糾弾され走り去る血の気の失せたテオドール様の姿を見て己の罪深さを初めて理解したのです…。あれ以来罪悪感で満足に眠ることも出来ず…私は…私は…」
ボソリ「死ねばいい…」
アリエスは小さく呪詛を唱えている…
「この罰は如何様にもお受けします。テオドール様、お許しください…」
言うが早いか床に頭をつける二人の上級生。僕はそれを見て「土下座って異世界共通なんだぁ…」などと考えていた。
「このうつけ者め!筆頭侯爵家に唾を吐きかけ罰ごときで済むと思うな!不敬が過ぎるぞこの痴れ者が!お家断絶の憂き目にあっても文句は言えぬ!レッドフォードを出し抜けるとでも思ったか!」
「筆頭侯爵家を敵に回すとは大した度胸だ、愚かな。お前たちは両親の期待をも裏切ったのだ!今さらだがすべての調べは付いている。詫びる気があるならば余すとこなく証言せよ!よいか、この期に及んで忖度はいらぬ!」
「は、はいっ、ドラブ侯爵令嬢とその取り巻きです。流す噂の一言一句、すべてセリッシュ様がお考えになりました」
「度し難い愚婦め!あの古き家門は栄華を極める我らに比べ年を追うごと衰退の一途をたどっておる。領地の税収は減り産業は栄えず、それ故王家にすり寄り我らに取って代わろうと並々ならぬ対抗意識を燃やしておったが、ドラブの娘…それが此度の元凶なのだな!」
「ドラブ侯は昔から娘を正妃にどうかと何度となく懇願していたよ。父はその都度到底無理だと撥ね退けていた。あげくにこれか。なんという下劣で身の程知らずな行い…だがそれもここまで!ドラブ侯爵令嬢、セリッシュをここに!」
お父様とレグルスの怒りが凄まじ過ぎて僕はさっきから一声だってあげられない。
ゲームに出て来た下位貴族たち。
あの先輩は荷物を拾ってくれた…。隣の先輩は目が合うと会釈をしてくれた…
彼女の口車に乗った代償はお家断絶…
僕はセリッシュ嬢の罪深さに震えながら、家族を巻き込んだゲームのテオを思い出し長くて深いため息をついた。




