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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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76 宮廷会議 7月 

テオに関する悪い噂、それは社交界を中心に囁かれ、消えかかるたび何度も何度も復活しては悪意を振り撒くことをやめないでいた。


その事象に利害を絡めた一部の議員当主たち。彼らは殊更危険を強調したが、騒ぎ立てている貴族のほとんどはドラブ侯爵派閥の者だ。



「王子をはじめ、高位貴族の子弟らを軒並み篭絡したテオドールは最も危険な不穏分子。武器商人と手を組んで戦争を企てているらしい」

「いやいや、かの家レッドフォードそのものがテオドールの手中に堕ち王家の転覆を狙っているのではないですか?何やら裏のルートを使い武器を流そうとしたとかしないとか」

「他国に違法な薬までをも流しているとの噂でありますぞ」

「いずれにせよこのままにしておくわけにはいかぬだろう。レッドフォードに責任を取らせよ」



根拠のない噂話を真に受けるとはなんとも浅はかな…

いつから宮廷は女人の茶話会になったのか。


「それにしても陳情に来るものはすべてレッドフォード侯爵に煮え湯を飲まされてきた者たちでありますな」


デルフィヌスの父、現宰相が事も無げにさらりと言う。


「このように姑息な真似しか出来ぬものがあの侯爵にとって代われるものか。身の程知らずどもが…」


「謁見の間には連日大勢の陳情が来よる。なんと耳障りな。レグルスよ、もう良いのではないか」

「ねぇレグルス、婚約者でいたいのならすぐにでも議会を招集し全ての汚名を晴らしてみせなさい」


父上、母上からも苦言が入る。両陛下にはご納得いただいた上での策であったが、それよりも煩わしさが勝ったのだろう。


「ええそうしましょう。もはや準備は整いました」

「して首尾は」

「上々です。期待に応えて見せましょう」


テオドールが他国の軍に武器を流すなどと…馬鹿らしい。テオドールの中身はこちらが心配になるほど平和だというのに。

低位の魔獣を求めて漫遊の旅を夢みるテオの何処をとったら邪悪に見えるというのか。流すならもっとましな噂流せばいいものを。


私は憤っていた。




そうして開かれた緊急議会。それは今までになくひどく見苦しいものであった。

何しろドラブ侯爵派閥の者が、ここぞとばかりに威勢を放っているのだ。

中立派閥が様子を伺い何も言わないのを良いことに、彼らは言いたい放題唾を飛ばしている。


「テオドールを追放せよ!」

「いや追放は駄目だ!あの危険な才知を流出させては我が国が逆に手札を失いますぞ!」

「監視の目の行き届くところで軟禁すべきではないですかな」

「そうとも!何も手を打てぬよう財も領地も名誉も持たぬ貧乏貴族に嫁がせてはどうだ!」

「そうしてその知恵だけを有用するのだな」

「ならばテオドールの持つギルドから得られる全ての財を没収すべきであろう!」

「おおっ、そしてその没収した財を我ら清廉な貴族家でうまく運用すると」

「それは妥当な落としどころでございますな」


なんという低俗な物言いだろう。何故テオから没収した財を自分たちが使えるものと思うのか…、呆れてものも言えぬとはこのことだ。


「レッドフォード侯にも責任を取ってもらわねばならぬな。幾らかの領地を没収してはいかがか、皆はどう思われる」


ドラブ侯が最後に発した言葉を聞き終わるや否や、壊れんばかりの轟音と共に会議室の扉が開け放たれた。


「追放されるべきはお前たちであるぞ!黙って聞いておれば好き勝手言いよって…臓腑が煮えくり返る思いであるわ!」

「レ、レッドフォード侯…」


今までに見たことも無い形相のレッドフォード侯爵。


常日頃、ほとんど感情を見せない沈着冷静な水属性の侯がここまで激高するとは…

日頃彼からテオへの父性を感じたことは皆無であったが、初めて見る憤怒の姿にその場にいる全ての者が一瞬にして震えあがった。


「テオドールを軟禁だと…?ふざけたことを、ドライス伯!」

「わ、わたしは当然のことを言ったまでだ…」

「当然のことか…。では私も言ってやろう。貴殿は管理国営地の測量を誤魔化し私腹を肥やしておるな?」

「な、何の話だ…」

「その金はどこへ行きつく?辻褄の合わぬ資金の先はすでに調べがついておる。我が国の諜報はまこと優秀であるな。闇ギルドへ資金を流しその見返りに手足としたか」

「く、下らぬことを…」

「よいか、流れは全て断ち切った!奴らが助けが入るなどと甘い考えは捨てるのだな!」


「なっ!何を申すか!」


バサバサバサ…

机上に投げられる証拠の数々。ドライス伯はその場に崩れ落ちていく。


「貧乏貴族だと?それは貴殿のことかグランシー侯」

「わ、私を愚弄するか!」

「ふん!貧乏なればこそ姑息な小銭を懐に入れるのであろう」

「さっぱり分からぬな…」

「資源の潤沢なダンジョンを餌に法外な通行税を冒険者に課していることは分かっておる。そして金の無い冒険者に免税と引き換えで違法な依頼を引き受けさせていることも」

「い、違法かどうかは知らぬが無理強いなどしてはおらぬ!むしろあ奴らから願い出たのだ!」

「だまれ!法の目をすり抜ける二重三重の罠のような税制をいつまでも続けられると思わぬ事だ!此度のことであのダンジョンは国の管理と相成った。もはやグランシー領へ入領する冒険者はおらぬと思え!」


「なんだとっ!そのような事できるものか!」


やはり机上に投げつけられたのは王の印が押された管轄移動の勅命書。グランシー侯はその場に立ちすくんだ。


「そして厚顔無恥なノイラート伯よ」

「私の何が厚顔だというのか。このような場で辱められて黙っている私ではないぞ」

「黙っておれぬのはこちらのほうだ。侯よ、貴殿の言う武器の流出とやらはノイラート領の地下通路で行われる密事のことを指しているのか?」

ピク「…」

「貴殿はなかなか尻尾を出さぬが、ディネーブ帝国の武器商側から資金の洗浄ルートをついに見つけ出したぞ!」

「はったりだ!」

「そう思うか?ではこれはどうだ。其方の領地からこそこそと運び出される怪しげな荷。押収したと言ったら?」

「ば、馬鹿な!」

「それだけではない。今頃軍部によって巧妙に擬装されたオピオンの庭は全て抑えられておるわ!」

「や、やめろぉ!」

「テオドールの悪評に紛れ上手く捌けるとでも思ったか!我が息子に己の罪を擦り付けようとした貴様だけはただではおかぬ!生きてノイラートの地を踏めると思うな!覚悟せよ!」


「ぐぅ…」


ハインリヒに頼んだいくつかの件。そうか、彼は侯爵の力を借りたのか。

自分の力を過信せず頼るべきところは頼る。彼はまったく有能な男だ。そう、テオドールが絡まなければ。


ドラブ派のもっとも力を持つ三人の当主が捕縛されるのを目にし、お粗末な意見をがなり立てていた馬鹿者どもはまるで死んだように息を殺している。


だがもう遅い。

増長しただけの彼らは罪に問われるほどではないのかもしれない。だが自分自身で己が軽薄な愚か者だと知らしめたのだ。彼らに明日の大臣席はない。考えてみればドラブ侯は一体いつの間にこれほどの子飼いを集めていたのか。

恐らくは利害を以て懐に入れたのだろうが、その努力を他に向ければよかったものを…


「レッドフォード侯爵、ここからは私が話そう。それらすべての大元となるドラブ侯、脅しをかけ様々な者を御してきたようだが其方の企みは既に潰えた。今回ばかりは尻尾切りで切り抜けられると思わぬ事だ。証拠も証人もすべて揃っている。実に残念だ。名門中の名門、代々続くドラブ家が其方の代で消え失せるとは…」


「お待ちください殿下!何故レッドフォード侯の話だけを一方的に信じるのか!この私に何の咎があるとおっしゃる。証拠とは?私を糾弾する何の証拠があるというのか!噂は本当であったようだな。殿下はテオドールの危ない薬で篭絡され正気ではないと!」


「黙れドラブ侯!我が息子、王太子を愚弄するか!不敬であるぞ!」

「ははっ、これは失礼しました。ですがまるで当家をおとり潰しにでもするかの物言い…つい感情的になりまして」


「良いのです父上、このドラブ侯には私が気狂いしているように見えるらしい。では聞くが、その怪しい薬とはどこにあるのだ。私や私の友人たちを篭絡するほどの薬がもし本当にあるのならば…とっく社交界を汚染しこんなふざけた噂など消えているのではないか?そうであろう?己を悪しざまに言うものを薬漬けにすれば済んだ話だ」


「噂を真に受けたことは謝罪いたしましょう。だがそれだけで全ての黒幕かのように言われるのは我慢なりませぬな!」


「残念ながらドラブ侯、状況証拠は全てお前を指している」


セリッシュ嬢から始まった悪意、父親である侯爵はそれに便乗し、己の復権をかけ政敵を潰しさらに私腹を肥やさんとしたのだ。

武器は確かに儲かるだろう…だが血に染まった金塊は…いずれ罰となり我が身に返る。それも最も非情な形で。


「欲張りすぎたなドラブ侯。家令の身柄は既に抑えた。闇ギルドと武器商は一部捕まった者を除き、お前を売って国外へ逃げた。この件に関わったお前の子飼いたちもとうに収監は済んでいる。逃げ道はない。お前も一族郎党も。そしてお前の大事な一人娘も!」


逃げ道は無いと悟ったドラブ侯が縋りついたのはわが父、この国の長、王である。


「へ、陛下!殿下の暴走をお止めにならぬのか!陛下、私は忠実な臣下でしたぞ!」


だが返って来たのは非情な一言。罪人に慈悲は与えられぬ。


「ドラブ侯、私は其方に失望したのだ。其方の腐敗を信じたくはなかったよ。其方の父、先代のドラブ侯爵には幼い頃とても良くしてもらったのでな。だが先代は少し其方を甘やかしすぎたらしい。彼が既に身罷っているのは幸いだったと言わねばならない。家門の没落するところなど見たくはなかったであろうからな」


「陛下…ああ…」


ドラブ侯爵、そしてその派閥としてこの騒動に加わった方々の家門がこれで宮廷から一掃されることとなった。


こうしてこの悪意のシナリオはテオドールを苦しめるその元凶、あと一人を残すのみ。



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