71 手を組む恋敵 3月
なんと!今更70話が抜けていることに気が付いたので71の冒頭に足しますね…(;^_^A
「デルフィヌス、それで何があったのかはもうすっかり判明したのかい?テオドールの持ってたマップは結界を超え危険なBエリア、その中でも特に警戒の必要な封印の祠がゴールに指定されていた。そしてその祠はご丁寧にも破壊されていたのだよ」
寒中野外演習で起きたあってはならない変事。ましてや巻き込まれたのがテオドールとあって、それは学院をあげての大問題となった。
だが件の事故に遭遇した面々は聴取を受けるに留まった。祠を壊した犯人を見つけ出そうとする、その動きにどこからか圧力がかかったためだ。
しかしレッドフォード家からはハインリヒ、そして今回ばかりは侯爵夫人の抗議も止まず学院長は頭を抱える事態となっている。
何しろレッドフォード侯爵家は学院一の寄付を誇る。そのレッドフォードの溺愛するテオドールに何かあろうものならば、学院年間予算の根幹が揺らぐのだから。
問われたデルフィヌスは一人の生徒を伴ってきた。
テオと同行していたチームリーダーの彼は泣きながら悪意を否定して見せた。
「デルフィヌス様、殿下…ぼ、僕は何も知りません…あの日いきなり先生にリーダーに指名されて…そんな、わざと置き去りになんて…」
「ならば何故テオドールはあの場に一人だった?君はチームリーダーだったのだろう?メンバーの安否に責任がある。たった六人程度の頭数で何故テオドールとはぐれたのだい。あのエリアは人一人を見失うほどう#鬱蒼__うっそう__#とした場所でも無いはずだ。あのマップは君が渡したのか?」
「そ、それは…」
「答えないのならそれでも構わない。だが事は悪戯では済まないほど深刻なものだ。君の処分は学院長に一任される。レッドフォード侯爵にも報告はいくだろう。いずれだんまりでは済まなくなる」
「そ、そんなっ!本当にあのマップなんて知りません!僕が渡したのはみんなと同じ普通のマップですっ!結界を離れBエリアに入り込むなんてそんな事…。僕はただテオドール君がおかしな武器を持ってたから他の生徒に危害が加えられないよう距離をとっただけなんです!」
「武器…また武器か!それで?テオドールはその武器をどう扱った?」
「その玉で…アサルトマウスを追い払ってくれました…」
「ならば何故その玉で君たちに危害を加えると思った?なにか兆しでもあったというのか?」
「…いえ、今考えれば実際は何も…むしろ彼は終始、先生の元へ戻ろうと言っていました…」
当たり前だ。テオドールは突拍子なく見えて肝心なところで保守的だ。特に目上の者には面と向かって逆らいはしない。あの義兄ハインリヒにでさえ我儘は言っても逆らったりはしない。
「テオドールを置き去りにしたのは君の考えか?」
「いいえっ!あれはコリーン、あの、バッハ男爵令嬢が…皆に何かされる前に彼を撒いて進もうと…」
「…バッハ男爵令嬢か…」
その後、別室でバッハ男爵令嬢の聴取を終えたケフィウスが仔細を報告する。
「コリーン嬢だが、テオドールを撒いたのは認めたがマップの件は震えながらも頑なに否定した。だが彼女がテオドールにマップを渡していたのはチームの者が目撃している」
「目撃者がいながら否定するのか…」
「ああ。そのマップは彼が落としたものを拾っただけで自分は一切関係ないとね。だが彼女が演習に入る直前、セリッシュ嬢の取り巻きであるカーネル伯爵家の令嬢となにやら話し込んでいたのをやはり何人かの生徒が目撃している。バッハ男爵家とカーネル伯爵家は上下の立場だ。逆らう事は出来ないだろう。彼女が本当に何も知らなかったかは甚だ疑問が残るところだ」
テオドールに関わりのない上級学年の役員は当たり前の疑問を口にした。
「テオドール君、レッドフォードに手を出せばただでは済まないことくらい彼らも分かっているだろうに…一体皆どうしたって言うんだ」
「なんとしてもテオドールを悪役にしたい何者かが居るという事だ」
「会長、それは…セリッシュ嬢のことなんだな」
「想像にお任せするよ…それよりも、今私がこの件をここで、皆の前で話すことには意味があると考えてもらいたい。この件は屋敷に戻りぜひ当主夫妻に伝えてもらえるか」
歯止めの効かぬ社交界の噂。これが誤解を解き抑止のひとつとなればいいのだが…
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あの事件の後、お兄様の強力な反対もあり結局僕の受講科目は今後座学だけに減らされた。
座学だけなら余裕!やったね!まさに災い転じて福!
そうすると少し時間が空くよね?ジローの屋台でも手伝おうか。
あー、そういえば近々屋台から店舗にランクアップするって言ってた。そうだ!売り物を何か…何か考えておこう。なにしろ僕の中には前世のおじいちゃんおばあちゃんから教わった、いろんなアイデアが詰まってるんだから。
「テオドール?具合はどうだい」
「お兄様。全然大丈夫って言ったじゃない。ほら見て、ぴんぴんしてる」
「顔の傷も治っているね…。良かった。アリエスの治癒魔法が効いたようだ。まったく…傷だらけのテオの顔を見た時には心臓がにぎりつぶされる思いだったよ」
「それはちょっとおおげさだよ。それよりあの時のアリエスの魔法、すごくきれいでお兄様にも見せたかった」
ベッドの上にはレグルスのくれたキャスパリーグが僕に寄り添い寝そべっている。ちゃんと従属魔法かけてあるから(レグルスが)安心して放してられるのだ。
「テオドール…お前はこれでもまだ冒険者になりたいのかい?」
ドッキー!どっ、どうしてそれを!
「分かっただろう?テオに冒険は危険すぎる。薬草採取と言ったとて外にはこれより危険な高位の魔物がいくらでもいるのだよ。いったいどうしたんだい?お前は家で過ごすのがあれほど好きだったじゃないか」
「うっ…それは…。家は今でも好きだけど…でもずっと籠ってはいられないよ…。それに、とっ、友達もできたから…」
「友達…そうか。孤児院で親しくしている者のことだな。それで冒険者に憧れたのかい?そうか、ならばテオドールは彼らを支援すればいい。そうして少しばかりの冒険譚を語り聞かせてもらうのだよ」
「うん…」
まったく誰がばらしたんだか!しっかり口止めしておかなくちゃ。だけどお兄様の言う事にも一理あって…
ふわふわのキャスの背中に顔をうずめて僕はいつまでもうんうんと頭をひねった。
野外演習の事故の後は何事もなく時間が過ぎた。
意外にもあの事故があってから話しかけてくれる人が増えている。
あの時同じチームだった人たちは1週間ほどお休みしていた。どうしたんだろう?ちょっと気まずくなっちゃったのかな?
そして一週間後の登校日、チームリーダだったリヒャルト君はあの時同じチームだった二人の男子生徒と共にわざわざ謝りに来てくれた。
「その…ごめんね、くだらない噂を真に受けて…」
「え…」
「テオドール君の投げた玉ほんとにすごい効果だった。僕にもあれ分けてくれないかな?僕の家の領地はすごく田舎で…その、アサルトマウスやフリートウィーゼルが屋敷に入り込んで荒らすんだ」
「いっ、いいよっ!あ、あれはね、厨房で見つけた赤い実を煮詰めて作ったんだよ。雰囲気でハバネロって名前にしたけどホントはカヤンって言う実なんだって。植物図鑑に書いてあった!いくつ欲しい?いっぱい作ってもってくるね」
「許してくれるの?…うぅ…僕は今まで何を見ていたんだ…もう少しで君を死なせるところだった…本当にゴメン…」
「テオドール君、僕の事も許してくれる?良かったら今度一緒にお昼食べよう?」
「えっ…あ、うん…そ、そうしようか…」
いきなりのお誘いに思わず顔が熱くなる。攻略対象者たち以外の学友なんてゲームの中でも居なかったのに。
ほんとはめちゃくちゃ文句言ってやろうと思ってた。
だけどハバネロボールを褒められて有頂天になった僕はそんなこともうどうでもよくなっていた。
だけどあの嫌みな女子は僕を見るといまだに文句を言ってくる。僕のせいで叱られたって…
いいや!自業自得でしょうが!そして彼女はどうやらセリッシュ嬢の取り巻きにクラスアップしたようだ。
入る派閥を間違えると一生棒に振るのにな…僕はそんな言葉を飲み込んだ。
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宮廷にいくつもある執務室のひとつ。財務長官の部屋を訪ねる。
「これは殿下。それにデルフィヌス殿。今日はどういった用向きですかな?レッドフォード侯は本日は出仕の予定はありませぬが?」
「手数をかけるがハインリヒを、税関の補佐官殿を呼んでくれないか?内々に話があるのだよ」
今日だけは反目し合う訳には行かない…。これは既にテオドールだけの問題ではなくなっているのだから。
「これはこれは王太子殿下、あのような失態をおかしてよくも顔が出せたものだ。テオが許しても私は許さない。いいか、もう少しでテオは命の危険に晒されるところだったのだ。どんな弁明にも耳を貸す気はない!」
「それについての弁解はしない。確かに私の失態だ。彼女があそこまでの暴挙に出るとは重ね重ね考えが及ばなかったのだ。すまない」
「ハインリヒ殿のお怒りはもっともだが今日はその話で来たのではない。僕らは情報と策の共有を提案に来たのだ」
「共有だと?」
彼から見れば私は天敵も同然。共有という言葉に思い切り顔をしかめている。
「セリッシュ嬢のこの暴挙だが…おそらくは武器が思ったように闇ギルドに渡らぬせいだ」
私たちが仕掛けた事の次第と経過を知り彼は机をたたくが、握りしめたこぶし、そこに浮いた血管が怒りの強さを示している。
「あの令嬢は何を考えている!武器を流出させるなど…母国を危険に晒すつもりか!」
「ドラブ侯爵令嬢はそこまで考えていないのだよ」
「浅はかな!」
「同感だ」
「テオドールを蹴落とせれば彼女はそれで構わないのだ。そしてそれは父であるドラブ侯爵本人にも言える。彼は武器の横流しにより入るであろう大金に目がくらんでいるのだよ。それくらいテオのあのクロスボウは上手く出来ていた」
「お褒めにあずかり光栄だ…」
テオのクロスボウを改変した張本人が顔を歪める。
厄介な代物になってしまったがそれでなくては取引材料には出来なかったともいえる。複雑な気分だ。
「続きを。それで証拠はどこまで掴んでいる?」
「闇ギルドの構成員を二名抑えてある。それからアリエスがドラブの家令を見た」
「商業ギルド長はとある貴族に後ろ暗い弱みを握られている。おそらくそのために登録品レシピの横流しを始めたのだろう」
「ドラブか…、愚かなハイエナめ」
「その延長線上に今回の設計図がある。だが今ギルド長を捕まえたところで侯爵はギルド長を切って終いだ」
「私たちはこの機会にドラブ家と繋がる腐敗貴族を一掃したいと考えている。他国が絡んでくる以上、税関長補佐である君の力が必要になる。どうか手を貸してもらえないか」
ドラブ侯爵は決して自らの手は汚さない。今まで何度煮え湯を飲まされてきたことか…
かの家が名家である以上、確固たる証拠がなくては貴族社会全体からの反感を買う。
だがセリッシュ嬢のこの愚かな策は狡猾な父では考えられぬほど浅はかな行いである。
「おそらくは令嬢の企みと父であるドラブ侯爵の企みは同じものではないのだろう」
「つけ入るならば今しかない」
「テオの安全を確保するためには仕方がない…。私になにをさせたいのだ」
「まずは国外への流出ルートだ。またその過程で闇ギルド、武器商人とつながる貴族もあぶり出してほしい」
「汚れた金の出所と流れそれらの解明もだ」
「注文の多いことだ」
「ドラブとのつながりを明確にしなければ事は終わらない!それはテオの安全が今後も脅かされるという事だ!」
感情のまま声をあげた私に、デルフィヌス、ハインリヒ、二人ともが驚いている。そうだ。私はこれまで常に冷静であろうと努めてきた。だが…
私の腕は今も尚覚えている。「ウソツキ」と私を責め続けたテオの涙を…
「良いだろう、テオドールの為ならば殿下と手を組むこともやぶさかでない。だがこれは一時的な協定だ。それを忘れないで貰いたい」
「結構だ。ハインツ。恋敵と言えど君の能力を買っているのだよ私は」
「…ハインツと呼ぶのはやめてもらおう…」
「ふふ、テオと同じことを言うのだね。彼も言うのだよ、「テオって呼ぶな」とね。血は繋がっていなくても君たちは立派な兄弟だ」
そこには憮然としたハインリヒの顔があった。




