69 野外演習 2月
2学期が始まり早々に寒中野外演習がある。
「なんだってこんな寒い時期にわざわざ外で…春とか秋にやればいいのに…」
「秋は秋でチームを組んでの実地演習があったじゃないですか。冬のこれは最も過酷な状況下での立ち回りを覚えるための模擬演習なのですよ」
「秋の演習はアリエス達と一緒だったけど今回は離れ離れだから…僕行きたくない…」
「こればかりは仕方ない。テオ、お前は唯一結界で守られたEエリア、俺たちは難易度の高いBエリア。危険度が違う」
「魔力の弱いお前たちには引率の教師が三名付く。いいかテオドール、教師陣から決して離れるなよ」
こうして始まった野外演習。
クラスの人に遠巻きにされてる僕はチームを組む相手がいない。
見かねた先生は強引にチーム分けをしてくれたが、僕のせいで仲良しと離された子は不服そうだし、僕と同じチームになった子はやっぱりどこか不満そう。
うぅ…居心地が悪い…
「さすが筆頭侯爵家のご子息様は扱いが違いますわ」
僕のチームになった女子生徒を慰めながら、いつもの取り巻き令嬢は今日も変わらず冴えている。
けどそんなの知らないよ!僕だって好き好んでここに居るわけじゃないんだから!
先生の横に並んでそのEエリアへと進入する。
ここは魔力が低レベルの生徒用エリア。なので出てくる魔獣もEかDレベル。
立ち回りさえ間違えなければ素手でも倒せるって先生はそう言うけど、僕が気がかりなのはそこじゃなくって班行動そのものだ。
「先生ー、こっちに怪我人が出ましたー!」
「ぎゃー!先生ー!プランクモンキーに鞄盗られましたー!」
「仕方ない…君たち、ここから絶対動かないように。いいね」
探索がまだ半分も済まないうちから各所ではトラブル続出。なんと先生は僕たちを置いて行ってしまった。
まじか…
ふとブナの原生林に目をやるとチームリーダーの男子生徒がその中に消えていくじゃないか。
「ええっ!だ、だめだよぉ…、先生がここで待ってろって…」
「マップはあるんだし自分たちで行けばいいだろ。いつまでたっても先生戻って来ないしこのままじゃ終わらないじゃないか」
「そうだけど…」
「さぁ行きますわよ、魔法のっかえぬ侯爵令息テオドール様。ほら、落としたマップをお持ちになって」
なんて嫌みな言い方だろう…。でも一人でここに居るわけにもいかないし…手渡されたマップを握りしめ僕はしぶしぶ付いて行った。
原生林の入り口で先に行ったチームリーダーと合流する。
先生の選んでくれたメンバーは男子三人女子二人。その全員が低魔力者だ。
ブラックアントを水没させたりビックモスを風で押し退けたり、生活魔法だけでも昆虫サイズの魔物ならそれなりになんとかなるものだ。
そうこうしてたらちょっと厄介なアサルトマウスが群れを成して現れた。
水でもダメで風でもダメ、そして全員狼狽える。アサルトマウスは小さいけど群れで襲い掛かられるとちょっと大変なのだ。しょうがない、ここは冒険者志望の僕の出番だ!
「えいっ」
キーキー言いながら逃げていくアサルトマウスを驚いたように見送りながら一人の生徒がたまらず口を開く。
「い、今の何…かしら?」
「僕の作ったハバネロボール。体中が焼けるように痛むはずだから多分もう出てこない」
「焼ける…痛む…⁉ やっぱり…!」
あれ?なにかダメだっただろうか?み、みんなの顔が強張ってしまった…
ハバネロボールを使ってからみんな僕と距離を取り始めた。それに気がつきうつむいてたから僕はいつの間にかはぐれてることに気が付かなかった。
「えっ迷子?どうして?マップ通りに進んで来たよ?」
チームリーダーから配布されたマップ。おかしいな、僕はちゃんと地図の見れる男子なのに。
キョロキョロとあたりを見渡してみても足跡ひとつ見つからない。深呼吸して耳をすませば聞こえてくるのは鳥の声…
「どうしよう…なんでこんなことに…」
人気のない森は進めば進むほど鬱蒼とし気味悪さが増していく。
「もうかなり歩いてない?こ、この地図ホントにあってんの…?」
ついに森は採光を失い、暗く沈んだその場所からは嫌な予感しか感じない
「だだ、大丈夫、僕はもう十五歳、前世の十六歳と足したら三十一歳のおとn」
ガサガサ
「ひっ!ヒィィ!」
カタカタ
「ギャー!」
なになに、何なの?もう帰りたい!
ベソどころか、ほとんど号泣しながら光を求めて足を動かす。
こんなのおかしいよ。ゴール付近に誰もいないなんて。
だけどそんな僕の気持ちなんかお構いなしに、えてしてこういう時に最悪の事態とは起こるものだ。
「うそっ!ゾンビウルフの群れ!」
ゾンビはBレベルの魔物だけど、ゾンビウルフは俊敏性と跳躍が足され、ましてや必ず群れで襲ってくるAレベルのモンスターだ。ど、どど、…どうしよう!僕の手になんて負えないよっ!
わきめも振らず逃げ出したけど奴らはずっとついてくる。こういう時に限って足元には木のコブ。つまずいた僕はあっという間に顔から転ぶ。
「ヒグッ!もう走れないっ!もう立てないっ!…痛いよ、怖いよ、誰か助けて、助けてぇ!」
『空より起こりし風よ、見えなき無数の刃で彼の者を刻め!エアーカッター!』
もう駄目だって思ったその時、僕の前には三人の救世主が現れた。
アルタイルのエアーカッターが風を切る。
傍らにはアリエスとタウルスも居てゾンビウルフたちを倒していく。
『命の根源、母なる大地よ、我が手に集え!サンドショット!』
『輝く光の槍よ、貫け!ライトランス!』「お兄様っ!どうしてこんなところに!」
タウルスのサンドショットはすごい威力で、だけどアンデットのゾンビウルフは倒しても倒してもいつの間にか蘇ってしまう。
その時、アリエスの攻撃が効いているのを見て、焦りながらも僕はドワンゴじいちゃんの話を思いだした。
そうだ!アンデッドを消滅させられるのは光魔法だけだって言ってた!
アリエスの光魔法、最上位の光魔法ならアンデットも浄化が出来るはず!
はっ!そうだっ!これってきっとアリエスの野外イベント!最上位の光魔法に目覚めるための覚醒イベントだ!
時期が違うから気が付かなかったけどきっとそう!そうに違いない!そうだと言って!
「アリエス!ジャッジメント・レイを放って!早く!今すぐ!」
「ええっ?それは履修してない高位の魔法で詠唱もまだ憶えていません!」
「僕が覚えてる!後について詠唱して!アリエスなら絶対出来るっ!」
「は、はいっ!」
「光を遮る悪しき闇よ、光無き世界に闇は在らず、聖なる光で常闇を払いたまえ、ジャッジメント・レ、ぎゃぁぁっ!」
僕の詠唱に被せるように、ゾンビウルフの親玉が大きな咆哮とともに駆け出してくる。その咆哮の衝撃波だけで僕はゆうに五メートルは吹き飛ばされた!
「テオッ!」
「テオドール!」
「お兄様っーーー!!!『光を遮る悪しき闇、光無き世界に闇も無い!聖なる光で常闇を払えっ!おのれ!よくもお兄様にっ!消え失せろ!ジャッジメント・レイ!』
カッッ!
眼も開けてられない程のとてつもない閃光が放たれたとおもった瞬間、目の前に迫り来ていたゾンビウルフたちがバラバラと崩れていく。
凄いや、これがアリエスの覚醒イベント…。そうだ…最上位の光魔法に目覚めたからこそアリエスは王太子妃の座につけたんだ…った…
だけど僕にはそんなチートはなんにも無くて、こうして無様にも土にまみれることしかできないでいる。
…やっばり王子の横にはアリエスが…アリエスが座るべきだ…
そう思いながら僕は意識を手放していた…




