61 悩める生徒会長
ドラブ侯爵家の令嬢と殿下の想い人テオドールの間に一悶着あったと、生徒会長であるこの私のもとに報告があがってきた。
ドラブ侯爵令嬢は権威を笠に着る非常にやりずらい令嬢だ。学院内において身分の隔ては無いのだと何度言っても聞き入れる気配すらない。
そもそも会長である私の事すらたかが子爵家の子弟ごときと嘯く彼女に他者への敬意は無いらしい。
問題さえ起こさなければ横柄な態度くらいは見逃してやったと言うのに…
私はこの件を殿下の耳に入れることにした。
くだらない生徒間のいざこざであれば次期会長とは言えわざわざ殿下に話すつもりはない。
何故なら殿下は成人年齢に達した日から公務に随伴することも多く、せめて私が在学中は出来る限り負担を減らして差し上げたいとそう思っているからだ。
だがテオドールに関する事、特に今回の件は大きな問題の前哨戦でしかないと、私の勘がそう告げている。
我がブラックバーン子爵家は先祖代々王家に仕えた諜報の家系である。
そのため今でも一族総出で王家の為に身を尽くしている。
嫡男は組織を率い国王陛下を陰から支え、次兄は公爵閣下の子飼いとして、そして私は王太子殿下の侍従として仕えている。
その私をなにかと助けてくれるのは公爵家のデルフィヌス様、殿下の従兄弟である。
表からは宰相としてデルフィヌス様が、裏の仕事はこの私が、こうしてレグルス殿下にとって盤石の未来を作り上げていくのが私の使命。
殿下の隣に並び立つのであれば…生まれはともかくアリエスの方が好ましいと思えるのだが…如何せん、殿下があれほどご執心では致し方ない。
問題の多いテオドール。悩みは尽きぬが、私の考えがどうであれ殿下のお気持ちを汲むだけだ。
そうしてテオドールを叱った翌日、私からの要請でデルフィヌス様はドラブ侯爵令嬢を談話室へと呼び出していた。
あの令嬢が学院内で殿下以外に頭を下げる唯一の存在が公爵令息デルフィヌス様だ。
己の力不足を認めるようで癪ではあるがデルフィヌス様に同席を願う、これが一番合理的で効果的だ。
「全く何て野蛮なのかしら!あれが筆頭侯爵家の息子だなんて!」
「本当ですわ。殿下の婚約者にしておくには余りにも不出来ですわ」
「ええ、あれほど乱暴者だなんて、社交界の噂は本当ですのね」
彼女は自分の行いを棚に上げ、その取り巻き達と罵詈雑言をぶちまける。まるで自分たちは被害者で自分こそが正しいのだと本気でそう主張している。
「よさないか。先に突っかかったのはセリッシュ嬢だと聞いている。何をしにわざわざ下級教室へ出向いたのだ。そのうえ年下相手に節操なく罵倒するなど…最上級生としての振舞いとはとても言えまい」
「あら、わたくしは高位貴族として当然の振舞いを致しましたわ。助言を与えてやったのです。あの者たちが殿下のお傍に侍るなど…身の程を知るべきだと教えてあげただけですわ。おかしいかしら?下位貴族家のケフィウス様には分からないかもしれませんが」
「セリッシュ嬢…学内では会長とそう呼ぶようレグルスからも注意を受けたはずだ。聞く気が無いという事か?ならばそう彼に申し伝えておこう」
憮然とした表情の彼女は到底納得など出来ないようだ。
「それにだ、高位貴族としての振舞いというならレッドフォードの二人に対してあれはなかなか勇気がある。次男三男とはいえテオドールは次期当主ハインリヒの溺愛する義弟なのだがご存知か」
「だったらなんだと仰いますの」
「レッドフォードは国の財務大臣。どうやらドラブ侯爵領は財政の支援は要らぬらしい。急場の保護も不要なのだな?分かっているのか。君の行いが領民の困窮を招くかも知れぬのだ」
「ま、まぁ…何という言い草。我がドラブ家は支援など必要とすることはございませんわ。要らぬ心配でございます。父の領地運営はとても上手くいっておりますのよ。とはいえ、デルフィヌス様にそうまで言われては仕方ありません。ここはわたくしが上級生として引くとしましょう。会長、デルフィヌス様、ごめんあそばせ。さぁあなた方行きますわよ」
言いたいことだけ一方的にまくしたてる令嬢。まったく話にならないおそまつさだ。
「すまないケフィウス…さすがの僕も説得までは出来ないようだ」
「いいえ、十分ですデルフィヌス様。これでしばらくは直接ケンカを売ったりはしないでしょう。その代わり水面下の動きに目を配らなくては。頭の痛いことだ…」
厄介な…デルフィヌス様までもが眼鏡を外し目頭を押さえていた。
----------
「貴方たち…少しあのテオドールをいつものように懲らしめておやりなさい」
「そ、そんな!なんて無理をおっしゃいますの?私のような下位貴族家の者が侯爵子息に手を出すなど…」
「同じく私も無理ですわ。我が家は伯爵家、筆頭侯爵家とは家格が違いすぎて…もしもばれたりしたら家族にも迷惑かけてしまうもの…」
「テオドールにものが言えるのはこの中でセリッシュ様だけでございますわ」
「…悔しいけれどわたくしでもあのレッドフォードを敵に回すことは出来なくてよ。だからこそ王太子殿下の正妃の座を何としても射止めよとお父様から厳命されておりますの。お母様も仰ったわ。わたくしのこの美貌をもってすれば振り向かせることは必ずできると」
「本当ですわ。セリッシュ様ほど華やかな方など校内中見渡してもおりませんもの」
「そうよそうよ。テオドールなどちょっと頭が良いだけの無作法者ではありませんか」
「頭が良いと言ったって発明するのは武器ばかり。議会で問題視されているとお父様から聞いておりますわ。そう…そうね。その問題がもっと大きくなればどうかしら?」
「と言いますと?」
「面白い事になるかもしれなくてよ」




