ろく 第三のフラグ破壊
お母さまにもお兄さまにも無茶苦茶ごり押ししてアリエスの離れ住まいを許可してもらった僕。勝ったね。
何したかって?ひっくり返って泣き叫ぶ、必殺『おもちゃ屋の前の子供』を展開したんだよ!あれってば最強!
僕付きの侍女には離れに行ってもらって…うん、せいせいした。
十六(中身)にもなって女の人にお世話なんかされたくないよ。子供じゃないんだから。
そりゃぁ?確かに?身体は七歳だけどね。僕にも男としてのプライドがある。
けど貴族の子にお供が居ないのは絶対ダメだってみんないうから、一番うるさくなさそうな侍従だけは残しておいた。一人いれば充分でしょ。
食事はこちらの厨房から運ぶみたいだけど基本あの離れはあそこで完結するようになってる。
身体の弱かったデイヴィッドさんが動き回らなくてすむようにっていう配慮だったらしい。
これでしばらくは平和な毎日が続くと思ってたんだけど…アリエスを取り巻く不幸のシナリオは一筋縄ではなくならない事を僕はこの後知るのだった。
窓際で自分で焼いたお菓子をつまむ。美味しい。
本を読むのにもさすがに飽きてある日僕は暇つぶしに厨房へと乱入した。
使用人たちは絶叫してたけど、僕はワガママ令息テオドール。お構いなしに食材だっていっぱい使ってやった。
小麦粉に砂糖とミルクと卵を入れて混ぜて焼いただけのクッキー。お母さんが作ってるの見てたから材料くらいは知ってるんだから!
とにかくぜーんぶ入れてガーっと混ぜてバーッと焼けばいいんだよね?少し焦げちゃったけどそれもまた香ばしくて良し。
バキッ、ガリッ、ゴリッ
おせんべいかな?
…歯ごたえあって良いよね。味は悪くない。
何しろ僕は家をでて冒険者になるんだから料理が出来ないと困るのだ。
掃除と洗濯をしなくていいのはサイコーだ。クリーンが使えて本当に良かった。
といっても今の僕じゃクリーン一回使ったらヘロヘロだけど。
僕は…悲しいことに魔法の才能がほとんどなくて生活魔法の、それも最低限の初歩の初歩みたいな魔法しか使えない。
「あー!!!なんでなの!転生チートとか無いわけ?不親切だよっ!」
だけどこれもゲームの設定だからしかたない…
でも基礎生活魔法、ウォーターとファイヤー、ライト、クリーンが使えれば大体問題なくない?
そんなことを考えながら窓際でボーっとしていた時だった。
窓の外から不穏な泣き声が聞こえる…
「も、もーっ!また誰かが姑息な真似を?」
三階の僕の部屋の真下は本邸の裏庭になる。
ホントは最初に目覚めたあの部屋、あそこが僕の部屋で、あそこは真反対の正面に向いた部屋だったんだけど、明るすぎて嫌だったから身の回りの物を持って自力で移動したんだよね。
僕はポジティブなインドア派だ。明るい日差しなんか毎日浴びてたら死ぬ。
くすんくすん…
あれ?アリエス独り?
「おかあさん…」
あっ…、そ、そっか、寂しくて泣いてたのか…
設定ではアリエスの母親はロクなもんじゃなかったけど、アリエスにとってはそれでもたった一人の母親だったんだよね…
そうか、アリエスはまだ七歳なんだ…中身が十六歳の僕と違って…
「よ、よし!」
僕はちょっぴり考えて、ベッドの上のテディベアをひっつかむと窓から盛大に放り投げた。
ぼすっ
目の前にいきなり熊が降ってきて驚いたアリエスは尻餅をつく。
上を見あげたアリエスとがっちり目が合ったけどお互い何も言わない。言えない。
「そうだ、いいこと思いついた!」
僕はさっき食べてたクッキーを紙に包んで大きなスカーフをパラシュートみたいに四隅に縛り付けて窓の外に放り投げた。
ヒュー…ドサ
あれ?こんなはずじゃ…
思ったよりも落下速度が速くて愕然としたけど…アリエスはちゃんと受け取ったみたいだ。割れて無きゃいいけど。
う~ん、友達には…ちょっといろいろフラグが怖くて…なってあげられないけど、それ食べて元気出しなよ。
それ以来アリエスは時々窓の下に立つようになった。
そんな時は紙飛行機をとばしたり、やっぱりお手製の固焼きクッキーを差し入れたりして…でもそんなふうに過ごしてるうちにアリエスがどんどんぼろぼろになってきてることに僕は気が付いてしまったのだ。
「あれ?服がぼろぼろじゃない?」
嫌な予感に意を決してある日離れに向かった僕。
バーーーン!
勢いよく扉をあけ放つと侍女もアリエスも目を丸くしてる。
「え、ちょっと、何食べてんのそれ?」
そのテーブルには使用人たちが食べる賄い食が並んでいた…
いや別に?仮にも天下の侯爵家が、たとえ使用人にでもそれほどおかしなもの食べさせてはいないよ?そんなみみっちい真似しないって。
だけどアリエスは使用人じゃなく庶子とはいえこの家の息子だから!だからこれは違うでしょーが!
わなわなと震える身体。イヤな予感がする。ほとんど確信を持ってクローゼットに近づき中を確認すると…服がない…だと…?
「アリエスには、というか離れには離れ用に予算だしてるはずだよね?」
「そ、それは」
「僕がお母様に交渉したんだから金額だって覚えてる。…これどういう事?」
「その…」
「まさか…」
パクってたのか!
ぎぃぃぃっ!服も…食事も……ああっ!イライラする。すごくイライラする!
僕が…僕が侯爵家の平民落ちを防ぐためにどんなに頑張っているか知らないで!それを!
「出てけーーー!!!」
その侍女たちを言い訳もさせずに離れどころか屋敷から追い出し、僕の部屋に居た侍従を力まかせに離れまで連れてきた。
「今日からここで仕事して!」
この侍従はあの侍女たちに比べて愛想は悪いけどうんとまともな人。きっと人道的に間違ったことはしないはず。
「ちゃんとしたご飯用意してあげて。いつか社交も必要になるんだからテーブルマナーも教えないと。それからデザイナー呼んで服あつらえてよ。はぁっはぁっ…もうっサイアク!」
ぷりぷりしながら部屋をでようとした僕を震えた声が追いかける。
「あ、ありがとう…おにい…さま…」
疲れ果てた僕は振り返りもしないで離れを後にした。
これで又ひとつフラグは回避できただろうか…




