57 ルート ジロー
あれからレグルスとお兄様はたくさんの話し合いを重ね、改めてあれらの魔道具を製作レッドフォード、認可王家、そして監修テオドールで登録しなおした。
僕は監修だって大袈裟じゃないかって思うんだけど、お兄様が「テオのアイデアが無ければ生み出されなかった物だから」って言ってやっぱり僕に少しだけ特許料が入るようにしてくれた。
「武器かぁ…どうしよう・もう作らない方が良いのかなぁ…」
「どうしたテオ。何か悩んでんのか?」
「じろー!会いたかったじろー!ねぇねぇ聞いてっ!この夏のお休み大変だったんだよ」
この秋僕はついにゲームの舞台、魔法学院へ入学する。
未練がましく最期まで学校に通う僕に会うため、ジローも時間の許す限りこうして顔を出してくれる。
久しぶりのジローが嬉しくて僕は息継ぎもしないで休みの間の出来事を話し続けた。
「あああれな。知ってたぜ俺。ギルドにはしょっちゅう顔出すからな。テオに見せてもらったあの飛び道具がえらいもんになってるなって、前からそう思ってた。ハハッ」
はぁーーー!そこ笑うとこ違うっ!
「じろー!知ってたんなら言ってよ!どうして教えてくれなかったの!」
「言う必要あるか?別にテオは知らなくても困らないだろ?」
「困ったじゃない!こうやって!」
「いーじゃねぇか。何が困ったって?」
だって、だって、僕がまるでテロリストみたいに…言われて…あれ?
「困らねぇだろ別に。だって俺とお前はあと一年で晴れて冒険の旅にでるんだからな」
「…ほんとだ」
あれほど興奮してたのにジローと話したとたんになんでもないことのように思えてくる。
ジローの言葉は魔法の言葉。いつだって僕を元気つけてくれる。
「侯爵家の坊ちゃんがこんなところに何の用だ?社会勉強のつもりか?笑えねぇ」
みんなから遠巻きにされてた僕に声をかけてくれたのがジロー。
心配してじゃないことぐらいわかってたけど、外の世界へ飛び出した僕に初めて話しかけてくれた人だったから…刷り込みっていうんだろうか?僕はそれから何かあるごとにジローの姿をこっそり探した。
ジローの言葉は乱暴だけど一度だって僕を傷つけたりはしなかった。
だから僕はジローと話すといつだってどんどん元気が湧いてくるんだ。
「テオ…お前こっち見過ぎ…」
「じろー、どうしてそっち向くの?」
「何でもねぇよ。それより何を悩んでたって?」
「う~ん…アルに言われたように弓のアイテム作ってみたんだけどどうしようって。こんなの登録したらまた危うい令息って言われちゃう…って思ってたんだけど、いいんだよね?何言われたって。僕にはじろーが居るんだから!」
「お、おうっ!そうだぜお前には俺が居るだろ」
「うん、それにアルも居るから心強いよ」
「お前…ここでそりゃぁないだろう…。まぁあいつは確かに良い奴だが…それでもお前の隣は俺のもんだ」
隣…序列か何かがあるんだろうか?ほら、ボスの右腕左腕、みたいな。僕の隣は両方あるから、ジローとアルで両方埋まってちょうど良い。
「それよりお前、九月からの学院生活…本当に大丈夫か。貴族子女の義務とは言え一年間は短くねぇ」
「大丈夫。アリエスも居るし」
「アリエス…なぁ。まぁお前に関しちゃ間違いねぇが…そもそもあいつに気をつけろよ?」
ジローは何を知っているというのか…。そう、アリエスに関わるのが恐怖で避けてたこともあったっけ。
だけど今は分かってる。アリエスは僕の大事な弟で…、僕を断罪なんかしないって。
「じろーの屋台はどうなった?」
「ああ、アームハンドをきっかけにロマーノ商会と繋がりが出来たからな。あの次にお前が教えてくれたラバーケロッグの皮を紐状にして自動で飛ばす船と空船。あれもすげー高く取引できた」
「あんなの何に使うの?だって数メーターしか動かないでしょ?」
ラバーケロッグを買い占めた時、調子に乗って作りまくったゴム動力シリーズの船と飛行機。そこそこの距離を動かそうと長いゴムを使ってもあまり上手くいかないことは前世ですでに検証済だ。
「風の魔石を埋め込んで工夫した。悔しいがアルタイルの助言でな。だからそこそこの距離を動かせるようになってんだ」
「え?そうなの?」
「ラバーシップって名前にしたぜ。おかげであの川幅の広いリムリン河な、向こうとこっちでちょっとしたやりとりが出来るようになった」
「へー」
リムリン河を見たこと無いけど。
「いちいち遠くの橋まで迂回しなくて済めば数日単位で短縮できる。それで助かる奴もいるんだよ。仕入れとかな」
…あっちでもこっちでも…僕の夏休みの工作シリーズは一つも原型を留めていない。
この事実を知ったら前世のおじいちゃんは「教えた甲斐があった」ってニコニコ笑ってくれるだろうか?
「ま、まぁいいや。それよりこれ見て。僕の新作割りばしクロスボウ。アルが僕には接近戦は無理だって」
「いやお前…接近戦するつもりでいたのかよ…」
何その顔!
「いいか、お前は後方支援に徹してろ。じゃなきゃ安心して戦えねぇ」
「う、むぅ…わかった…」
「ぶーたれんな。しゃぁねぇ奴」
「だって…僕もじろーとアルの役に立ちたい…」
一方的にしてもらうばかりなんて…そんなの友達っていわないよ。僕はちゃんとパーティーの一員になりたい。
けど力も無くて魔法も使えない…そんな僕に何が出来るのか。だからいっぱい考えてアイテム作ったり薬草育てたり…してはいるんだけど…
「他には何をすればいい?」
「お前はそのままでいてくれよ。お前が俺を見て変わらず笑っていてくれるだけで…俺はなんだってやれる気がする。お前の存在そのものが俺にとっての万能薬だ」
「なっ!ばかっ、もうっ!何言ってんの。じろーってば恥ずかしいっ!」
はじめて会ったときの斜に構えたチョイ悪ジローにはもう会えそうにないなって…少し残念に思ったことはジローには内緒にしておこう…




