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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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56 若き補佐官との話し合い

「それよりレグルス…いい加減降ろしてよ。いつまでもこんな、ねぇ!みんなが見てる!」


「どうして?恥ずかしい事など一つもないよ。私の可愛い婚約者、ふふ、やっぱり君は君だった。安心したよ。ほらテオドール、心配をかけた私にキスくらいしてもいいんじゃないかい?」

「え…理不尽!」


レグルスのせいで動けないのに、その上キスをしろだなんて。

僕が心配かけたわけでもないのに言いがかりにもほどがある。

プリプリしながら胸に打ち込む怒りのパンチ。それすら嬉しそうに受け止められて…これじゃぁ、キャッキャウフフしているカップルみたいじゃん!ちょ、やめてよ!恥ずかしい!


「そこまでです、レグルス王太子殿下。筆頭候補など正式な婚約者だと私は少しも認めていない。婚姻の約束すらない若い二人がそのようなみだらな体勢など…テオドールを膝から降ろしてもらいましょう」


「ハインリヒ…いいところで邪魔をする。だがまぁいい。今日は君に聞きたいことがあったのだ。テオドール、残念ながら続きは今度ね。私は今から大事な話をハインリヒとしなくては」


お兄様は将来有望な若き文官。財務大臣であるお父様の後を着々と辿り、今は国境の税関長補佐だ。

そのため留守にすることが多く、なんとか転移陣を手に入れようとお父様に散々強請っていたのを僕はちゃぁんと知っているのだ。


けれど、すぐにも設置が進むとばかり思っていた転移陣は、政務を疎かにしかねないと言うお母様の判断で無情にも却下されていた。

お母様は家格に関わる事には殊更厳しい。だからこそ僕への過保護だけが異常に目立つんだけど。



「それで王太子殿下、大事な話とは如何様な?ようやく出来た貴重な休暇、無粋な話はとっとと終わらせてテオと水入らずで過ごしたいものだ」

「一言一句全てそのままハインツリヒ、君にお返しするよ」


「やめろレグルス。ハインリヒ殿、テオドールの発明品に手を加えたのは貴方なのか」


「デルフィヌス殿、そうだと言ったら何か問題が?あれは有用な代物だった故、テオの資産が増えるよう改良の上登録したが…それが一体何だというのだ。あれは既に国境の監視塔でも哨兵(しょうへい)への支給がすすむ議会公認の魔道具ではないか」


はじめて聞く話に驚きしかない。お兄様はあれを僕の資産にと…そこまで考えてくれていたのか。

僕はここを出ていこうとしてるのに、お兄様は僕の将来を考えていた…

そう思ったらなんだか少し胸が痛んだ。やっぱりお兄様の依頼だけは最優先で引き受けよう。


「武器の登録も軍用品にすることも、それが問題なのではないよ。テオドール…彼の名が問題なのだ。君たちがあの悪評を放置し続けた数年間でテオの評判は地に落ちた。彼の名を冠した武器が量産されるたび評議会は疑心暗鬼の声で埋め尽くされる。酷いものなどテオがあたかも反逆者かのように。君はそれらを…お父上、レッドフォード侯爵からは聞いていないのか?」


「そのようなことは何やら言ってはいたが…我がレッドフォードが国を裏切ることなどあり得ない。我らは最も古く王家と国を支え続けた名門レッドフォードである。我が家門の名誉にかけて反逆など…一体誰のどの口がそのように愚かな噂を流すのか、その名を教えていただこうではないか!」


ドン!


「興奮するな、ハインリヒ。誰もレッドフォードを疑ってなどいない。テオの名が表に出るのが問題なのだ」

「ならば殿下!あなたは婚約者などと嘯きながらこの噂をほおっておくのか!」

「すでに何度も手は回したとも。だが次から次へと湧いて出るのだ。それよりハインリヒ、君は何故改良など…それこそが発端ではないか」


「北の帝国ディネーブは我が国との隣接領土、神獣の加護の届かぬその地を奪うべくすでに動き出している。軍部でない私にも耳に入る程の深刻さだ。中距離武器が導入されれば満足に兵力を底上げできぬ我が国にとって有利に戦術を展開できる。違うだろうか」


「それを考えるのは君ではない。そのために将軍がいる。武器の扱いは繊細なのだよ。事と次第によっては身内の火種にもなりかねない。武器商人をのさばらせたらどうする!奴らは戦争を助長する…。私はこの王国を戦火の国にはしたくないのだ!浅慮だぞハインリヒ!」



僕には分からない政治の絡んだ難しい話。二人の厳しい言葉の応酬は相槌を挟むことさえためらわせた。


今まで見たことも無い顔。僕に笑いかけるお兄様もキラキラした王子様もそこには居ない。

国の繁栄を考える、筆頭侯爵家の次期当主と次代の王、王太子としてのレグルスがそこにいた。


お兄様はまだわかる。二十一の大人だから。だけど王子はまだ十六歳、前世の僕と同じ十六歳…


僕は今も昔も四月四日が誕生日。だから前世の入学前、僕はとっくに十六歳になっていた。

きっとクラスで一番年上。能天気にそんなことを思ってた。


あの頃の僕はほとんど何にも考えないで、勉強以外は遊ぶことしかしてなかった。

なのにレグルスはこんなにも大人みたいに、現役文官に一歩も引かず丁々発止のやりとりをする。


レグルスは陛下の名代としてご公務に励むこともある忙しい身。

その隙をぬって、それでも会いに来るんだ。朝や、夜や、…たとえ一杯のお茶を飲むわずかばかりの時間でも…。僕に会いに。




背中に負う重い責任とその大きな覚悟を垣間見て…僕はレグルスから目が離せなかった…




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