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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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51 ルート アリエス

レグルスとの事があって、僕はアリエスにも歩み寄ってみようと思い始めた。


だってアリエスはとっくの昔に僕の知ってるアリエスじゃ無くなっている。

ほんとうは気づいてた。けど気づいてないふりしてたんだ。

ゲーム通りは嫌だけど…ゲームから離れていくのも怖かった。だって僕の唯一のアドバンテージが無くなっちゃうから…


明るく健気で一生懸命。誰にでも分け隔てなく優しいアリエス…だけどドジっ子属性はとっくに無くて、どちらかというとちゃっかりしてる。

わりと短気でよく怒っているし、固めた笑顔でものすごく嫌味をかましている。あの口の悪いジローにもちっとも負けたりしていない。そもそもゲームの中のアリエスなら…喧嘩なんかしなかった。


それが今のアリエス。

だから先入観を取っ払ってよ~く思い出してみる。僕とアリエスの七年間を。


僕のあげた固いクッキー、大好物だって言ってくれたのはアリエスが最初だ。

離れのアリエスの部屋には僕のあげた熊だけじゃなく紙飛行機まで飾ってある。

僕の悪い噂を聞いて僕の代わりに怒ってくれたのもアリエス。アルタイルやタウルスと仲たがいするくらい怒ってくれたっけ。

いっしょに孤児院行くようになってたくさん話すようにもなった。

それから王宮の舞踏会…僕のあんなへたっぴなダンスにも楽しいって笑ってくれたよね…


僕はいつでも相当ヒドイ態度をとってたのに…アリエスは今の今まで文句の一つも言わなかった。


さすが主人公…本当に良い子。

心のバイヤスを払ってみれば…なんだアリエスはずっと味方じゃないか。


無性に謝りたくなった僕は急いで離れへとやって来た。


「お兄様、こんな時間にどうされました?食事はもうお済ですよね。お茶でもお出ししましょうか?」

「うん。砂糖とミルクも。あ、違う。そうじゃなくて…今日はアリエスに謝ろうと思って…」

「謝る…?何をですか?」

「うん…なんかずっと冷たくしてごめんね。反省したからもう冷たくしない」


僕がアリエスに意地悪さえしなければ断罪なんかされないって信じることにする。

アリエスもアルタイル達も、もう友達だって思っていいよね?レグルスの事も信じるからね。お願いだよっ!


「お兄様…冷たく何てされた覚えはありませんが…えっ?もう冷たくしないって…今まで僕は冷たくされていたのでしょうか?」


こてんと首をかしげるアリエス。可愛さの破壊力がえげつない。こっ、これがゲームのヒロインパワー!


「うんごめんね。ひどいよね。でももうしないって約束するから」

「えっ、あれが冷たいって…じゃぁ冷たくしなかったらどうなっちゃうんですか?え?えぇ?どうしよう…え?」

「とりあえずお詫びになんでも一つ言う事聞いたげる。何して欲しい?」

「ええっ⁉」


「どうしようどうしよう」とブツブツ言いながら歩き回るアリエスも、やっぱりゲームで知ってるアリエスじゃない。

おかしいな、なんか可愛い。ゲームのアリエスより…今のアリエスの方がずっと良い。



-----------


お兄様が何を思ったかいきなりとんでもない事を言い出した。


今まで冷たくしてたって…あれがひどい態度だと言うのなら、お兄様の暖かい態度とはいったいどれほどの熱量なのだろう。お兄様と僕では沸点と融点がおそらく大分違うらしい。


だけどこんなチャンス…みすみす逃してはこのアリエスの名が廃る。


「お、お兄様…本当になんでも?」

「良いよ、何?言ってよ。聞くよ?」

「じゃ、じゃぁ…きっ…きき…キス…キスしてもいいですか…」

「なっ!そ、それは…ええ~?」

「なんでもきいて下さるんですよね?こ、これは仲直りの証です」

「そうだけど…レグルスにもされたばっかりで…僕…」

「なんですって!ど、どこに!どこにされたんですか!」


お兄様がもじもじしながら口を隠す。

なんてこと!それにいつの間にか殿下を名前で呼んでいる。こけら落としのあの晩に一体何があったというのか!


…お兄様ったらキャスパリーグで懐柔されたとか?

それにしても何て手の早い、さすがは殿下…油断も隙もありゃしない。


「お兄様…僕も…僕もその…唇に…」

「…ええ…でも…、ううん、仲直りだもんね。し、仕方ない…うう、わ、わかった」


うっ!はぁはぁ…心臓が止まる…


お兄様が目をつむってこちらに向かって唇を…可愛い唇を「んー!」って突き出している…。可愛すぎて死にそう…


ちゅっ


天にも昇る気持ちとはこういう事を言うんだろう。

真っ赤な顔で僕を見る天使のようなお兄様。お願い天に帰らないで。


調子に乗ってもう一度と思ったけど…欲をかいて嫌われでもしたら元も子もない。忍耐を総動員して我慢する。


降ってわいた幸運を神様に感謝しながら、お兄様の緊張をほぐすためのお茶を一杯カップに注ぐ。

そうしたらポケットからいつものクッキーを取り出し…


「一枚しかないから半分こね」


小さなお口で半分かじったクッキーを僕に下さる。…残念…口移しでも良かったのに。



お兄様のお口を経由したクッキーはいつもよりずっと甘かった…





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