45 ルート ハインリヒ
ハインリヒお兄様がさっきからご機嫌斜めだ。
あんなところでアリエスとダンスなんか踊っちゃったから少しお怒りなんだろうか…
でもどうしてもイベント消化が気になって…、こじつけ感満載だけど一応フラグは立てといたから。
「テオドール、あれはいけないよ。奴らがどんな目でお前を見ていたか分かっているのかい?」
「奴らって誰?周りに居た貴族達?」
「アルタイルとタウルスだ。奴らのテオを見る目ときたらまるで獲物を狙う捕食者のようだ」
「へっ?っそ、そう?そうかなぁ…?そうだったかなぁ?」
「油断してはいけないよ。隙を見せたら小さなテオには抗う術などないのだから」
どうしよう。上手くいってるとばかり思って僕は調子にの言ってたのかもしれない。
だって僕はアリエスをいじめたりなんかしてないし、フラグの再構築にだってこんなに協力してるのに…
アルタイルかぁ…、あの時腹が立って色々言い返したのがまずかったんだろうか?
「ああ、こわがらせてしまったね。心配はいらない。私が付いている。お前のことは私が必ず守る。テオは私の言うとおりにしていればいいのだよ」
そんなこと言ったって…言うとおりにしたらお兄様のお嫁さんが決定事項になっちゃうじゃん。僕はそれも嫌なんだってば!
「お兄様は…その、ホントに僕と結婚したいと思ってるの?」
「テオドール…、私はずっとお前の側にいた。そうだね?誰よりもテオのことを理解しているつもりだ」
「そうかもしれないけど…僕結婚なんてしたくない。だってまだ十四なのに…」
「そのことか…。もちろん今すぐという話ではないよ。テオが成人するのを待ってのことだ。いいかいテオドール、王家ではだめだ。彼らは何も分かっていない。王宮の中でなどお前は暮らしていけないよ。くだらないしきたりと制限の中でどれほど窮屈な思いをするか…お前をそんな目に合わせることなど出来はしない!」
そ、それには同感だけどあ、圧が…
「お前はレッドフォードの中で私に守られながら暮らせばいい。息抜きが必要ならば孤児院への慰問は続けるがいい。魔獣が好きならば小さなニードルスクワールでも飼ってあげよう。ともかく、屋敷から出ていくなど考えてはいけないよ。お前は外では暮らせない。いいね」
どっちもどっちという言葉を僕は必死に飲み込んだ。
王宮もレッドフォードのお屋敷も僕には同じだけ不自由な気がする。だけどそれをお兄さまに言うのはやめた。
お屋敷から出ないって勝手を言って引き籠ったのは僕自身、お兄様はずいぶん甘やかしてくれた。
ゲームのテオみたいに悪事の片棒担がせたりはしてないけど、それでもたくさんのわがままを言ったしお兄様は何でも聞いてくれた。
大好きなお兄様。だから代わりにこう言うんだ。
「お兄様…僕を子ども扱いするのはやめて。僕はもう十四歳で…学校だって孤児院だって一人で行ける大人だよ?だから僕の事はこれ以上心配しないで大丈夫!」
「ほう、テオは大人なのかい?」
「そ、そう!大人だよ!だからね、お兄様は僕の為に色々我慢してこんなことになってるんだろうけど…そんなことしなくていいからっ!」
お兄様は僕のために結婚しようとしてくれている。
だけど筆頭侯爵家嫡男なんて、最最最重要優良物件じゃん?どんな美男美女だって選びたい放題なのに、よりにもよって相手が悪役令息テオドールだなんて…
お兄様は宮廷でも期待の若手だってお父様も言ってらしたし顔立ちだって悪くない。そりゃぁ王子ほどでは無いにしろ、悪役令息兄らしいちょっと吊り上がった目元がイケてる二枚目だ。
貴族の習慣だとホントだったらとっく昔に婚約者の一人や二人、居たって全然おかしくないのに、僕を守ると言う謎の使命感に燃えたまま、浮いた話の一つもない。
ああ…僕の為に我慢なんかしないで!お兄様も好きな人と大恋愛の一つもして自分の人生楽しんでほしい!
「テオ!テオドール!そんな風に私を試すのはやめてくれないか。テオ…お前の気持ちはとても嬉しい。だが…まだ成人前のお前にそんなことなど出来はしない。いいとも。お前の気持はよく分かった」
「分かってくれた?」
「成人の儀が楽しみだ。その日が来たら…その時は…もう我慢など一秒だってしない!」
むぎゅうぅぅっ
く、苦しい…
そんなに感動してもらえたのだろうか。
…半分何言ってるのか分からなかったけど、僕の成人を待って自分の人生を楽しむことにしたらしい。
反動ですごくチャラくなったらどうしよう…
そんないらない心配をしている僕の顔をお兄様が覗き込む。
「私の大事なテオドール。困ったことがあったらいつでも私に言いなさい。お兄様がなんでもしてあげるから、いいね」
ほらね。これだよ。お兄様の決め台詞。こうやってお兄様はゲームの中でもテオを庇い続けて…そうして一緒に断罪された。
だけどここはゲームじゃない。だからこんなわがままなテオドールの傍に居てくれたお兄様を平民落ちなんかさせないよ。今度は僕がお兄様を守ってあげなくちゃ。
「ひゃぁっ」
頭に止むことなくキスをしていたお兄様が目測を誤って耳をかじった。
び、びっくりした…ゾワッとした…
今のは一体…何だったんだろう…




