44 踊る悪役令息と憂鬱な王子
ふぅ、やれやれ。本日の任務は完了しました!
王子に言いたいこと言ってすっきりしたし僕はさっさと帰り支度をすることに…あれ?
「アリエス?アリエス踊らないの?」
「僕は…、お兄様と同じで踊れないんです。そういう機会も無かったですし」
「あ…」
アリエスのダンスか…忘れてた。てか、タウルスもアルタイルも教えてやりなよっ。学院で何やってんのさ、使えない。
気の利かない男はモテないぞ、って、十四歳じゃしょうがないか…
んん?舞踏会…高等部入学してすぐの新歓パーティー。
それはゲームの第一章、アリエスが舞踏会で最初に踊る相手からそのルートは開始される。
だけどこのまま進んだらアリエスの新歓舞踏会はどうなるのだろう…?
僕のフラグ撃退活動によってすでにシナリオは壊滅状態。カイゼル髭は登場済みだし、アリエスと攻略対象者はあれ以来ずっと微妙な関係のままだ。
この世界は僕の知ってるゲームから大きく激変している。だけど学院を出ていくその時までは一ミリだって安心なんか出来ないんだから!
もしもこれが舞踏会イベントの代わりだったら?
もしもアリエスがダンス踊らなかったらは攻略ルート誰のもの?
もしもダンスイベントが未消化になったらストーリーはどうなる?
次から次へと疑問と不安が押し寄せる。
アリエスがどのルートへ進んだところで所詮テオに救済ルートは存在しない。
僕はお兄様と結婚する気はない。だからって田舎貴族や貧乏貴族に嫁に出されるのもまっぴらだ。
そもそもこれが全年齢バージョンだっていう保証はどこにある。
つまるところやっぱり僕は家を出てテオドールの名を捨てなくちゃ未来はない。
そう。いつでもどこでも何度でも、石橋は叩いて渡らなくてはいけないのだ。
ダ、ダダ、ダンス、とにかくアリエスにダンスを踊らせなきゃ!
「アリエス行こう!取り敢えず一曲踊ってから帰ろう!僕がダンス教えてあげるから!」
「ええっ!でも!」
「大丈夫!さっき踊ったから今ならまだ覚えてる!」
アリエスの手を引いて強引に端のほうでスペースを作ると、僕は王子に振り回された足さばきを思い出し自由気ままに踊って見せる。
周りのダンスと違ってるところもあるけど多少の誤差は愛敬でカバーだ。
「ふふ、ふふふ。ああ楽しい」
「楽しい…そう?アリエス楽しい?」
「ええとても」
ホッ…良かった…
あとは念の為タウルスとアルタイルを巻き添えにしておけば踊ったと言う事実は出来上がるだろう。大切なのはストーリーから大きく脱線しないこと!
「タウルスー!」
「お、俺か?」
「はい、チェンジ」
タウルスにアリエスを任せて休憩しようと思ったのにアルタイルに手を取られる。
「え?」
「実は俺もダンスは苦手なんだ。教えてくれるか?」
ウソだー!
だってゲームでは得意だって言ってたじゃん!
あ、ああ…まだゲームの開始年齢前だからか…、そっか…
うう…これは仕方ない、チャチャっと踊ってアリエスに代わらなきゃ。
「はいおしまい」
今度こそ休憩と思ったのに…キィィ!タウルスっ!お前ってやつは!へばってるのが見えないの!
はーはー…ゼーゼー…
良し、これで対象二人と踊ったね。ダンスイベントは消化されたはず。
お似合いだな。良いことしたな。これで二人の恋愛ルートはきっと再構築されただろう。一時は壊滅的だったと思えばこれでもかなり上出来の部類。
ポン
ひっ!もう終わり!もうこれ以上踊らないから!
「やりすぎだテオドール。あまり目立ってはいけないよ。誰がどんな目で君を見てるか分からないからね」
険しい顔のお兄さまだった。
馬車の中では不条理にもお小言の嵐。けどその時の僕は達成感と充実感に満ち足りていた。
…今日はぐっすり眠れそうだな。
そのときふと気が付いた。
舞踏会イベントは…最初に踊った相手とルートが始まるって。
……アリエスが今日最初に踊ったのは…
あれはノーカンで。
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「あれが神童テオドール…容姿が良いだけの子供ではないの」
「全く以って暴虐無人。騒々しくて、まさに噂通りでございましたわ」
「殿下の厚意を踏みつけにして全くなっておりませんわね」
「何やら文句をわめきたてて、殿下の優しさに胡坐をかくなど厚かましい!」
テオドールが去った瞬間から待ちかねたようにささやかれる心無い陰口。
まったく…テオドールが婚約者の地位から降りたところで性根の醜い彼らの子女など選ばれる訳も無いだろうに…
容姿も才知も何もかもが違う。身の程知らずの女狐たちめ…
「…「王子は冷たい」か…どこで誰に何を吹き込まれたのか…。…たちが悪いとも言われたよ。まいったな。」
「ですが次期国主に足る態度だと私はそう思います。それを冷たいなどと、彼は随分甘いのですね。」
「私は国益を重んじる。どれほどの忠臣でも無能ならば切り捨てる。情に流されて判断を誤ったりはしない。それが父から学んだことだ。だからこそテオを私は利害でなく本心から欲しいと思っているのだけどね。政務を離れた時、必要なのは癒しだろう?」
「さすが神童。うわべの顔は見透かされましたか。ではそうですね。彼が本当に欲しいなら王子ではなく一人の男として話してみてはいかがです?虚飾の姿に惹かれるものなど碌なものではないでしょうに」
「虚飾…。だからテオは頑なに私をレグルスとは呼ばないのか。彼は私を王子と呼ぶ。殿下ですらなく〝王子”とね……」




