43 やけくそ感半端ない
衆人環視の中、王子にエスコートされて進むその先には本日最大の難関がある。
両陛下の御前に到着すると王子はロイヤル側に行ってしまった。え?放置?
「面をあげよ、テオドール。我が息子レグルスの婚約者候補である其方の顔をようやく拝めるのだ。まったく、頑固者のドルフは頑なに息子の参内を嫌がりよってな」
「ひぇっ!ご、ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます。レッドフォードが次男テオドールと申します。本日はお招きいただき、こっ、光栄の極みにございます…」
こ、心細い…、お兄様どこ!?
「なんと美しい少年か。神からのギフト…なるほどな。息子が夢中になる訳だ」
「およし下さい父上。それでは私が容姿にだけ夢中みたいではないですか。お話したはずです。テオの良さはその天衣無縫さにこそあると」
「ほほ、では容姿でも才知でもない魅力の一端を今日は知ることが出来るのかしら」
「母上まで…」
なんだか品定めされてるみたい。受験の面接みたいなもんだろうか?わが校の生徒にふさわしいかどうか。ロイヤルプレッシャーが半端ない。これがほんとの圧迫面接…
「そう固くならずとも良い。此度の夜会は成年になる前の若木を集めた寛いだものだ。十分に歓談し交流を深めるが良い。テオドールよ、特に人嫌いの其方はな」
人嫌いなわけじゃないんだけど…
これは僕のお披露目を目的とした夜会。でも、高等部入学前の貴族子女を集めて人脈作りをさせるのが本来の趣旨。
学院高等部は入学するとのっけからスリーマンセル、フォーマンセルを組んで演習があったりする。だからその前に高等部入学前の子供たちを集めて、こうして顔合わせをさせる機会が何度かあるのだ。
その中でも一番大きいのがこの王家主催の夜会。
といっても子供が集まる夜会だけに、時間も早いやや気軽なものなのだけど、一応こうして両陛下のお出ましがあるのでみんなの緊張も半端ない。
「寛大なお言葉を賜り、あり、ありがとうございます…ハァ…」
続いて挨拶をするタウルスやアルタイルを待ってホールの中央に移動する。
ハインリヒお兄様は保護者の集まる辺りで僕を見守っている。そう、最低限の義務を果たすのを待っているのだ。
最低限の義務。つまりダンスだ。舞踏会だけに。
えーとえーと、手順はどうだっけ…。楽団が演奏を始めたらそのうち王子がやってくるから決まり文句に合わせてファーストダンスを一曲踊って…そうしたらさっさと退散だ!
まだなんにもしてないのに…ああ、疲れた…
「お兄様しっかりなさって!」
「アリエス…僕もう帰りたい…」
「おかわいそうにお兄様。はい、お兄様のお飲み物ですよ。あとすこしの辛抱ですからね」
最後の拷問を待つ、僕は憐れな仔羊ならぬ仔悪役令息。
だって僕はダンスが踊れないのだ。
おかしいな…、ゲームのテオはダンスが大好きだったのに。
だけど僕は前世でも社交ダンスなんて習わなかったし、現世でもそういう場所には行かなかったし、そもそも僕にはリズム感が無い。
音楽の授業はいつも寝てたし音ゲーだって高得点は取れたためしが無い。
お母様がわざわざ楽団を呼んでお兄様と特訓したけど…焼け石に水って、こういう事を言うんだね。
僕をリードするお兄様が楽しそうだったことだけが救いだよ。
「テオドール、一曲踊ってくれないかな?」
「…ヨロコンデ…」
僕をダンスに誘う王子は、緑の葉に囲まれた小さな白い花と赤い苺が可愛いブローチを胸につけてくれる。
あ、これ知ってる。お母さんが集めてた食器の柄だ。
王子と手を取りホールの中央に向かう。うっ、スポットライトが眩しい!
「う、うぅぅ…」
「そんな顔しないでテオドール。大丈夫だよ。このブローチには浮遊の魔法をかけておいた。君は力を抜いて身を任せておいで」
「浮遊?…あっ!」
足が床からほんの少し…外から見たらわからないくらいのほんの少し、1センチくらい浮いている。うわぁ…す、すごい。
「笑ってテオドール。みんなに見せつけてやろう」
王子のリードでダンスが始まる。
ふわっと浮いた身体は王子の動きに合わせてクルリクルリとターンを決めて、気が付いたらスポットライトは僕と王子だけを照らしていた。
ゲームの中で僕は何度も王子と踊ってたっけ。…アリエスになって。
こうやって王子と手を取りスポットライトを浴びたのはレグルスルートの最終章。そう、これはテオドールが断罪された後のお楽しみ。
僕は黙って王子を見上げる。
こうして軽やかに踊る僕はまるでおとぎ話のお姫様、ゲームの中のアリエスみたい。
だけど僕はテオドール。断罪される悪役令息。
…現実とのギャップに背筋が震える。
気が付いたら曲が途切れて夢みたいな時間はもう終わり。
「どうしたのテオ、そんな顔して。そんなにダンスが嫌だった?」
「ううん…やっぱり仮婚約者になんかならなきゃ良かったなーって後悔してた…」
「どうしていきなりそんな…何かあった?」
「だって僕は知ってるもん。王子の好きなのはアリエスだって」
「テオ…、どこで何を聞いたか知れないがそれは誤解だ。確かに毛色の違うアリエスに興味は持った。だがそれだけだよ」
ほら。やっぱり興味があったんじゃん。
「王子が何考えてるのか分かんない。前から分からなかったけど今はもっと分からない。こんなふうに僕を油断させたって何かあったら王子はあっさり切り捨てるくせに」
「えっ?そんなことはしない。テオ聞いて」
「むぅ!どさくさに紛れてテオって呼ぶな!僕は知ってるって言ったでしょ。ホントの王子は冷たい。公平だけど優しくなんかないって」
「テオドール…」
「そうだよ。前からいつも思ってた。ダメなところがあったならその時言えば良かったのにって。…ずっと笑顔で味方みたいなふりをして墓穴を掘るのを待ってるなんて…ずるいよ!…暴走させたのは王子じゃないか!」
「何事!」って何人かがちらちらこちらを見てるけど構うもんか。ずっと言いたかったことが言えて僕は満足だ。
ああ…なんて面倒な世界に生まれ変わってしまったんだろう…




