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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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42/101

42 お披露目は吉か狂か

夜会の為に訪れたお茶会以来の王宮だけど、思ったとおりだ、やっぱり居心地が悪い。


「ほら…あれ…」

「ああ、あの…」


コソコソと扇の向こうから僕を見るたくさんの目。


「うう…何言ってんのか聞こえないけどやな感じ」


ゲームのテオドールならこんなの気にも留めなかっただろうけど、僕は小心者だから…


「ほらテオドール、私の手を取って。大丈夫かい?」

「お兄様…もう帰りたい…」

「ああ…可哀そうにテオドール。最低限の義務さえ果たしたらさっさと帰ってしまおうね」


付き添いはハインリヒお兄様。初めての夜会に僕の足はすくみっぱなし。

だって僕は攻略対象者に会うかもしれない社交場なんて今までずっと出なかったし、お兄様もお母様もそれでいいって言ってくれてたから。


通されたのは王子たちが歓談するドローイングルーム。目の前にはロマンスグレーの美中年が居る。


「よく来たねハインリヒ。そしてテオドール。噂通りの美貌じゃないか。よくもここまで隠しおおせたものだ。だがこれでようやく君を公に披露することが出来るというものだ」

「甚だ不本意ではありますが」

「まあそう言うなハインリヒ」


「それより宰相殿、あの噂はどう言うことでしょう。テオドールをまるで都合の良い金の卵をうむ鵞鳥のように…殿下は、いや王家は我が弟を飼殺すおつもりか」

「些かそれは不敬であるぞハインリヒ。口を慎まぬか」

「だが社交界では真実のように語られているではありませんか。私の弟をそのように愚弄するなど許せぬことだ!」


ヒィィ…大人の口論ってマジ怖い。僕はいたたまれなくてオロオロするばかり。


「こちらへテオドール」

「デルフィ…良かった」


宰相の息子、デルフィは修羅場から僕を連れ出し、向かった先は王族専用団欒室。


それにしたってあっちもこっちも飼い殺す飼い殺すって、そこに僕の人権は?


「すまなかったねテオ。嫌な話を聞かせたようだ。だから君をここへ連れて来るのは気が乗らなかったのだよ」

「王子、ねぇどう言うこと?卵って何?僕は卵なんか生まないよ?」

「お兄様の、お知恵の話ですよ」

「アリエス…」


今日の招待状はアリエスにも届けられている。

だけど茶会の時と違ってお母様はアリエスの同行を許さなかった。

それでも公爵家のデルフィが迎えの馬車を寄こしたものだからお母様もそれ以上何も言えなかった。


僕の衣装は王子から贈られた特注品。だからアリエスには僕の、着もしないのに毎年新調してた手付かずの衣装を数着あげた。僕の衣装は最高品質だから立派な見栄えがするだろう。

僕の目の前で衣装を身に着けたアリエスは、さすが主人公と言わざるをえない可愛さだった。けど袖と丈を少しずつ出さなきゃいけなかったのは、なーんか納得いかないよね…


う~ん、十二歳くらいまではあんまり変わらなかったのに…ゲームのアリエスより発育良いんだけど?

ああっ!いじめがなくて食事事情が良いからか!


「お兄様手のひら叩いてどうしたんです?それよりも殿下、これはどういうことです?お兄様の叡智を手に入れるため身を犠牲に婚約を…でしたっけ?殿下の思惑がそこにあったとは…すっかり騙されましたよ」

「やめてくれないか。それはただの誤解だと何度言えば…。私がどれほどこれは心から望んだ婚約だと話しても誰もそうは受け取らないのだ。まったくもって君の悪評はなんて手ごわいんだ!」

「王太子妃の座を狙う者にとってテオは邪魔者でしかないからね。なんとかして筆頭の座から引きずりおろそうとしているのだろう。…どいつもこいつも…度し難いな!」


よく分からないけど、僕は引きずり降ろされるらしい。

…それって…断罪フラグじゃありませんか?

何としてでも僕を悪役令息にしようとするゲームの強制力を肌で感じずにはいられない。


ぞぞぞ…


「怖いっ!」


「お、お兄様こちらへ!殿下!今すぐなんとかしてください!」


「分かっているよアリエス。心配いらないよテオドール。私は巨利を得ようと君を望んだわけじゃない。君という人の何事にも捕らわれない天真爛漫な姿に惹かれたのだから。陛下にもそれはお伝えしてある。君は思うがまま過ごしていればいい」

「惹かれ…え?」


えぇっ!いつの間にそんなことになってたの!うそっ!

…そんなはずない…ある訳ない。だって王子は僕を…



断罪の直前までただ一人テオの話に耳を傾けてくれた正しくて公平で優しい王子、それがレグルス。

みんながテオを「酷い奴だ」「悪い奴だ」って責める中、王子だけはいつも庇ってくれていた。

だからテオはますます王子に惹かれて愛されたくて…


…だけどゲームの終盤、冷たい顔でテオに罪状を告げたのもこの王子だ。

何度も何度も、誰のどのルートを進んだって、最後に断罪を言い放つのはいつでも王子。


ロイヤルスマイルは感情を隠す鉄壁の仮面。

仮面の裏ではいつだって、心の閻魔帳にテオの罪を書き溜めている。

「思うがまま」だなんて…そんな言葉をうのみにしたら最後、どんな目に合うかわからない。


うっかりその気になんてなるもんか!ゲームのテオと僕は違う。僕はゲームを知ってるんだから!


「お、お兄様?」

「ふんっだ。何言われたって別に平気。僕は王子と結婚なんて絶対しないから関係ないし。これはあくまで十六までの仮だから」

「…じつに手ごわいね、君は。そう絶対しないのだね。いいね、燃えて来た」

「よせレグルス。テオ、君は冒険者になりたいと言っていたが今でも気持ちは変わらないのか」

「変わらない!」


僕の明るい未来はゲームを離れた先にしかないんだから!


「楽しそうに何の話を?」

「遅くなりました。さぁ広間へ行こう」


のんきな声をかけながらアルタイルとタウルスがやってくる。

これが楽しそうに見えるだなんて二人の目は節穴だろうか?



「ああよく来たね。いいかい二人とも、今日はテオの側からけして離れないよう頼むよ。何しろ隙あらば彼を貶めようとする輩が掃いて捨てるほど居るのだからね」


王子は僕に即席のSPを用意してくれたようだ。だけど僕だってやられっぱなしじゃないからね。

そうだよ!何しろ僕は悪役令息。やられたら…倍返しだ!



こうして攻略対象者たちを従えた僕は煌びやかなホールへと覚悟の一歩を踏み出した。




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