37 一見平和なお茶会
この学院は前期、中期、後期の3学期制だ。
学期ごとの間にはそれぞれ一か月から二か月ほどの休みがある。その間に保養と領地貴族の子は勉強のため領地へ行ったりするんだって。
そして今日は中期試験の日。面倒だけど学院へ出向き教授の元で個別試験を受けなきゃいけない。
僕があんまりスラスラとその問題を解くものだから教授は目を白黒させてる。
アルファベットの入ってない数式なんか楽勝だって。この世界の数学はいまだxもyもzもない。
「ふぁ~…ぁ…」
「ふふ、大きなあくびだね。試験はもう終わったのかい?それなら私の部屋でお茶にしよう。それとも食事の方が良いのかな?」
「げっ!王子」
「げっってねぇ、君…」
頭をゴリゴリしてくる王子。痛いし縮む!やめて欲しいんだけど。
プリプリしながらその手をどかせようとする僕を見て、呆れた顔をしたデルフィヌスが大きなため息をついた。
「レグルス、その手を離してやれ。テオドール、殿下にいちいち突っかかるんじゃない。色々と面倒だ」
「面倒とはひどい言い草だ。可愛い婚約者との他愛もないふれあいじゃないか。」
「いいから離して!ちょうど良かった。僕デルフィに聞きたいことがあって」
「…以前から思っていたが君は初見から妙に馴れ馴れしいな。誰が愛称で呼んでいいと」
「ねぇねぇそんなことより僕の〝ウォーター”もっとお水の量増やせないかなぁ?デルフィの属性〝水”だったでしょう?」
「ふー…まあいい。僕は君に属性を話しただろうか?名前といい属性といい君はいつも何故知って…あっ、こらっ!」
デルフィを笑顔で牽制し隙あらば僕の肩や腰に手を添えようとしてくる王子を躱すため、僕はデルフィの陰に隠れた。
第一印象の刷り込みというか、僕のデルフィヌスへの信頼はもはや揺るがない。
デルフィは頭は固いけど曲がったことは大嫌い。だからつまらない意地悪だってしないんだから。
ゲームのデルフィのことMって思ってごめんなさい。草もいっぱい生やしてほんとにゴメン。
前世のお姉ちゃんが推してたキャラだもん、悪い奴のはずが無かったよね。
部屋に入るとそこにはいつもの面々。アリエス、タウルス、アルタイルがいた。
生徒会には他数人の三年生が居るけれど、王子が在学しているこの期間の生徒会は異例中の異例で入学時から王子が会長だ。
王子はいわゆる帝王学とやらを学んできているし、王子を下に従えるなど、たとえ学院内は治外法権と言ったって上級性も嫌だろう。
それに何より、王子が書記とか会計とか…ぶっ!ゲーム的にしまらない…ぷぷ…
「何を笑っているんだい?」
「別に?ただの思い出し笑い…ぶふっ」
「やれやれ、君が楽しそうで何よりだ。それより今日もまた焼いてきたのかい?例の硬い硬いクッキーを」
「むっ!そこまでは硬くない」
「いや、お茶に浸せばなかなか美味しく食べられる。いらないなら俺が食うから殿下の分もこっちにくれ」
「…タウルス様はそちらにある有名店のマフィンをどうぞ。並ばないと買えない貴重なものですよ。殿下がご用意下さいました。お兄様のクッキーは僕の好物ですから僕が頂くことにします。そういえばアルタイル様も甘いものは苦手でしたね。ご安心下さい。僕が貰って差上げます」
「いや、最近は多少甘味も口にするようになった。気遣いは無用だ」
ギスギスしている…。なんだろうこの空気感…
アリエスと攻略対象者たちの間に流れる雰囲気が何かおかしい気がするのは多分気のせいなんかじゃない。
「殿下のその貧弱なお口には僕のお兄様のクッキーは合わないようですね」
「私のテオドールが焼いてきたのだ。私のために。さぁそのクッキーをこちらに返してもらおおうか」
さ、寒い…おかしいな。今季節は夏なのに…
「王子の為に焼いたんじゃないもん。これは試験の合間の小腹用に、」
「テオドール、王子などと呼んではいけない。きちんと敬称で呼ばなければ駄目だ」
「わ、分かってるってば。ついうっかり…」
ずっとゲームしながら王子王子って言ってたから、今さら口が付いてこない…。デルフィはいちいち小言が多い。まるでお母さんみたいだ。
「人前ならテオだって殿下と言うさ。いいじゃないか此処でくらい」
「アル、お前変わったな…」
アルタイルはあれからも時々救護院に顔を出す。最近ではおじいちゃんたちにアルって呼ばれて面倒な雑用を言いつけられている。
それどころか、退院したおじいちゃんとこに御用聞きにも行ってるらしい。買い出しの手伝いとかして、代わりに市居のいろんな事を教えてもらっているんだって。
実にまじめなアルタイルらしい。ゲームのアルに戻ったみたい。
「変わったのは君もだ、タウルス。浮ついたところがなくなった。騎士修業は順調なようだね」
タウルスは騎士の稽古に余念がない。
今は雑念を払って励みたいってわざわざ言ってきたけど…僕みたいに中身でも入れ替わったんだろうか?
あ、イヤイヤ、攻略対象者なんだし本来はきっとこうなんだろう。脳筋が良いほうに働いてなによりだ。
こうして何もなかったかのように同席してるけど…みんな僕の寛大さに感謝するがいい!
なにしろアリエスと攻略者の様子がなんか変だったから…。拗らせたままにはしとけないでしょ?仕方なくだよ、仕方なく。
ま、まぁ…あまり上手く取り持ててないけどね…




