34 フラグの補強は頑丈に
攻略対象者たちとは絶対接触しないって決めてたのに…なにがどうしてこーなったのか…
会っちゃったのは仕方ないにしてもまさか婚約者候補になるなんて…ゲームの強制力って怖い!
十五の年になったら僕は断罪の舞台、魔法学院高等部へ嫌でも入学することになる。
だけど十三歳になった僕は今も変わらず学校へ通っている。
殿下の婚約者(仮)になった僕は学院への入学を余儀なくされた。
それでも中等部へは今更嫌だとわがままを通し、年数回の試験だけ受けることで通学は免除された。
だって言うまでもないが試験のトップは確定なんだから。なにしろ僕は現代日本の難関受験を…以下略。
だから今もこうして学校へ通っている。慈善活動の体をとって。
僕はここでスラムの子たちに読み書きを教えていることになってるんだよね。
学校の先生が偉い人に、僕がカルタやトランプをするために数字や文字を教えたこと話したみたいなんだけど…盛りすぎだって!
「はい皆さん、今日は魔獣について少しお勉強をしましょうか?この中には将来冒険者やハンターになる子もいるでしょう。魔獣の中にはかわいく見えても恐ろしい牙や毒を持ったのも居ますからね。近寄ってはならない個体を覚えておきましょう」
何それ!重大情報、それは聞いておかなければ!
魔獣辞典や魔物の書物でいろいろ覚えたけどリアルタイムの情報は貴重だからね。
リアルタイムかぁ…
「ねぇねぇじろー、いつか救護院のおじいちゃんたちと近くのダンジョン行くんだよ。一緒に行かない?」
「ああいいぜ。なんたって俺たちパーティー組むんだからな。行く日決まったら早めに言えよ?煙突掃除の仕事代わってもらうから」
あっ、仕事!
そうだ…ジローはここに居る以外の時間、ずっとどこかで日銭を稼いでるんだった。
褐色の肌は煙突の煤でいつだってよりいっそう黒光りしている。働き者のジロー。だけどそのお金はほとんどが孤児院のために消えていく。
「…うちから慈善活動の寄付がいったでしょ?足りてない?気は乗らないけどお母様に話そうか?」
「いいや、侯爵家からは充分してもらってる。お前の口添えもあるからな。なんなら王家やどこぞの貴族たちからも寄付はどんどん増えてるよ。癪だけどな。だけどそんなんじゃない、俺は自分の金を貯めたいんだ」
「貯金かぁ…」
やりたいことでもあるのかな?それとも冒険者の装備を揃えるために?
そうだ、良い事思いついた!
「ねぇじろー、僕の最近考えた…」ゴソゴソ「この割り箸マジックハンド…これ、ちゃんと作ったら売り物にならない?」
「おおっ!何だこりゃ!」
「高い所の木の実とか取れるように考えたんだよ。だって冒険に出たら野営とかして焚火してそれでバーベキューするんだよね?僕お肉とか串にさすの得意だから任せて!」
「ば、バーベキュー?」
カバンから取り出した折り畳みの工作品。小学生の…三年だったかな?田舎のおじいちゃんと夏休みに作ったマジックハンド。
ここで作った試作品は小枝を沢山組み合わせたカッコ悪い出来だけど…僕みたいに魔法の使えない背の低い人にはお役立ちアイテムだと思うんだよね。タンスの裏の落とし物だってこれでとれるし。
そう話すとジローってばいつになく興奮して、その深い深い緑の瞳が宝石みたいにきらめいていた。
「すげえな、いやこれぜってー売れるって!え、何これ、いいのかよ…」
「商業ギルドに登録すれば専売出来るからじろーこれ売っていいよ?僕ダンジョン以外も行ってみたいし、それで時間作ってじろーは僕と一緒に来てね」
「テオ…お前そんなに俺のこと…」
僕の両手をぎゅっと握ってすごく喜んでくれたから…ちょっと後ろめたくなっちゃった。僕は僕の為にそうしたのに。
だって僕にはジロー以外に友達が居ない。だからジローが仕事ばかりしてるとどこへも遊びに行けやしない。
それに僕とジローはパーティーだからね。協力するのなんか当たり前だよ。
裏庭で今日もじろーと一緒にお昼を食べる。
ジローは僕のお弁当が昔っからお気に入りだ。
大きな籠のゴージャスなお弁当、せっかく侯爵家のごちそうなのに、ジローはいつでも僕の作った食べかけのハンバーガーばかりを食べたがる。変なの。
もしかして味覚が日本人に近いんだろうか?真っ黒な髪のジローは本当に日本人の血を引いてるのかも知れない。
「なあ、テオ…」
「うん?へぁ!」
ぎゅうぅぅって抱きしめられて足が地面から浮いて…浮いてるっ、浮いてるよっ!
「お前の気持ち嬉しかった…。俺…すげー金稼いで、ちゃんとお前にふさわしくなってみせる。だから…王子なんかと結婚しないで…俺と冒険の旅に出よう、な?」
「え?あ、うん。冒険行くよ!」
よっぽど感動したらしい。大げさだなぁ。
でもそうだよ。僕とジローにはダンジョンが待っている!僕が行くのは王宮なんかじゃないんだから!




