29 悪事の報い
学校から帰ると玄関前にやたらと豪華な馬車が2台。そこにはためく金糸の旗。あれは…
げぇぇぇ!王家の紋章!
誰が来てんの?王様?まさかね。お母様を訪ねて王妃様でも来てるんだろうか…
回れ右して離れへ向かう。
今本邸に足を踏み入れるのはどう考えても得策じゃない。
「お兄様!ふふっ、最近良く来てくださいますね。嬉しいです!今日は孤児院に行く日では無かったんですね。寄り道せずまっすぐ帰って来て良かった。さぁ、今日は何をして遊びましょう。お兄様が教えてくださった魔獣のカードで楽しみますか?」
なんでもこなす多彩なアリエス。試しに絵を描かせてみたら思いのほか上手だったので魔獣図鑑を見せながらモンスターカードを作ってもらった。
これはある意味冒険への第一歩。インターンシップと言えなくもない。
「えぇ…そんなに張り切らなくてもいいって。…本邸に王家の馬車が停まってて嫌な予感したから…居なくなるまでここに居る。気にしなくていいから好きにしててよ」
「好きにして良いんですか?本当に?そんなこと言っていいんですか?」
だからどうして隣に座…どうしていつもこの位置なの?狭い!
「お兄様のお好きなのはこのカードでしたね?黄色いネズミになにか思い入れでもあるんですか?」
「いや別に…」
そんなくだらない話をしながら出来上がったカードを一枚一枚眺めていると侍従の慌てふためく声が聞こえてきた。
「大変です、レグルス殿下がお越しになられました。公爵家のご子息もご一緒でございます!」
「ええっ!うそっ!」
「殿下とデルフィヌス様が?一体どうしてこの離れに…」
「ア、アア、アリエスを訪ねてきたに決まってるじゃん!」
逃げ出す間もなく部屋へ入ってきてしまう両名。案内を待ちなよ!侍従うろたえてるじゃん!
「やぁテオドール。この間はまんまと逃げられてしまったからね。今日はそういう訳にはいかないよ。さぁ親睦を計ろうじゃないかないか」
僕の命は風前の灯だ。やっぱり断罪からは逃げられないのか…
「冗談はさておいて。ねぇテオドール。私は今日君にちょっとした提案を持ってきたのだよ」
「て、提案…?」
「今、私と殿下は君の母君、侯爵夫人と話してきたところなのだ」
気遣わし気なデルフィ。な、なに…、何の話をしてきたって?
「どうやら君は、このままここで飼い殺しになる運命が決まっているらしい」
「なんだってー!」
「なんですって!」
飼い殺し?買い殺し?下位殺し?ダメだ…頭がまわらない…
晴天のヘキレキみたいな単語を聞いてぽかんとしたまま、現実に戻ってこれない僕に代わってアリエスが詳細の聞き取りを始めていた。
「どういうことですか殿下!飼い殺しって…夫人はお兄様をここで軟禁なさるおつもりなのですか!」
「ああ、すまない。選んだ言葉が悪すぎたね。…つまりはその」
「侯爵夫人はテオドールを兄ハインリヒ殿の奥方になさるおつもりのようだ。侯爵閣下が望まれるままに」
「ええっ!」
「うそっ!」
今しがた、王子とデルフィが聞いてきたばかりの話を僕にもわかるように説明してくれる。
ああどうしよう…
聞けば聞くほど顔から血の気が引いていく。
ヤバイヤバイ、ヤバすぎて一周回ってもなおヤバイ…
「おかしいと思ってはいたのだよ。君の噂の出回り方を。表舞台に出たこともない君の噂がまことしやかにささやかれているのに侯爵家がこれほどまでに放置するとは。使用人の悪意だけで片付けられない何かがあるんではないかと、そう思っていたのだが…」
「だからといって、まさか侯爵夫人にこのような思惑があるとは気が付かなかったがね。さぁどうするテオドール。君の言う選択肢は未だ存在するのかい?」
選択肢…選択…あるよっ!…ないよ…いやあるよっ!僕は冒険者になっ…
「ああっ!泣かないでお兄様…、殿下!お兄様を泣かすなんて!デルフィヌス様も許しませんよ!」
「すっ、すまないっ、ああもう…泣くんじゃない貴族の子が。ほらしゃんとして鼻を嚙んで…」
涙が止まらな過ぎて目もつむれない…
ハインリヒお兄様のことは別に嫌いじゃないけど、ゲームでも今でも、お兄様は悪役仲間でしかない。
それに僕たちは兄弟で…しまった、血のつながりは無い…
前世でも僕は恋愛なんてゲーム以外でしたことなかった。だって初恋だってまだだったんだから。
なのにBLゲーの世界に生まれ変わって、わけもわからずいきなり結婚相手が決まってるなんて…そんなのってヒドイ。
腐男子だった僕。乙女ゲーもBLゲーも大好きだった。僕だって誰かを好きになってドキドキしたりときめいたりしたい。そしていつかは大好きな人と結ばれたい。
そのために5年間頑張ってたのに!
ポケ〇ンマスターなんて噓ばっか。本当はここを出て自由になって、僕は僕の恋愛ルートを作りたかったんだ。
前世でやってた【みら学】はアリエスのための恋愛ゲーム。
僕は僕だけの恋愛ゲームでトゥルーエンドを迎えるって、そう決めて今まで張ってきたのに。
ワンワンと泣く僕の頭を三人が交互になでている。
僕を見る目はいつの間にか、本当の意味で可哀そうな子を見る目になっていた。
お母様の事もお兄様の事もずっとチョロいと思ってた。
きっと僕はその報いを受けたんだ…




