27 フラグは既に立っている 三本目
今日はお兄様にも許可をもらったショッピングディ!沢山のお店屋さんが立ち並ぶ目抜き通りへとやってきた。
新しい薬草の種とか苗とか肥料とか、それからお菓子を包む紙や袋なんかもたくさん欲しい。
この間作ったハンバーガーはそのまま袋に入れたから中でバラバラになって最悪だった。
ラッピングペーパーみたいなのもあったら買わなくちゃ。それで今度はひとつづつ包むんだ。ジローに散々笑われたから今度リベンジするんだから。
冒険者への第一歩って自立を推進しているこの僕だけど、さすがに今の身分で一人でお買い物にはこれやしない。
馬車には従者と護衛が二人。計三人を後ろに従えて順番に目当てのものを買い求めていく。
僕のカバンはマジックバック。見た目以上の収納力を誇る優れもの。
だからお買い物だって量を気にして買い控えなんて、そんな心配必要ない。
いくらだって入るんだから。
こういう時には侯爵家ってちょっとお得。商会の人は大体一番良いモノを持ってくるし、お兄様もお母様もお金にイトメなんてつけないからね。
と、その時!
ーきゃー!誰か助けてー!ー
ーひったくりよー!誰か取り返して!ー
ーあいつらよー!誰かつかまえてー!ー
表から物騒な声が聞こえて来た。
下町と違って大棚の店が立ち並ぶこの辺りは治安だってそこまで悪くはないはずなのに。何があったんだろう。
気になって表に出ると護衛の隙間から野次馬化する僕。
だけど走り去る集団の男たちは既に背中しか見えない。
その時、団子状の僕の横を見覚えのある赤毛がさっそうと走り抜けた。
「お前たち止まれ!」
タウルスーーー!!!
お前っ、ばかっ!バカなの?いくら強いったってまだ子供。集団の大人になんで敵うと思うのか!
これだからたぎってる奴って面倒なんだよ!
あわててマジックバックからキックボードを取り出すと、「追いかけて来て!」護衛にそう叫ぶと思いっきり地面を蹴った!
ほら見ろ!案の定一人捕まえたところで結局返り討ちにあってるじゃないかっ!
もう一度マジックバックから今度は僕の冒険グッズ、自作の防犯カラーボールをとりだした。
これは液状化した核を失ったスライムに色を付けて丸めただけのお手軽カラーボールだ。
でもコンビニが当たり前の前世の記憶を持つ僕としては、防犯の基本と言ったら防犯スプレーとカラーボールしか思い浮かばない。
「よぉーし、見てろー!」
運動神経に自信はないけど授業で球技はしてたんだから!
そのとき窃盗団の一人がキラリと光るナイフみたいなのを取り出した。
ギャーヤバイ!
「やーーー!」
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その日は朝からすることもなく思い付きで王都街へ買い物に出た。
特に欲しいものがあったわけでもないが、最近はこう、ぱっとしない。
気分転換をするにもアリエスには嫌われてしまったし、アルタイルの奴は何を始めたのかここのところ忙しそうだ。
王城で見かけたテオドール。
謝りたいとは思っているが何を言ったらいいのかがわからない。
スマンでは軽いし、ごめんなさいでも何か違う。俺のこの気持ちを言葉にするのは難しい。
「はぁ…」
ため息しかでない。
なんだよ、理由があったなら言えばよかったじゃないか。
「聞いたって信じなかったさ、俺は…」
あれ以来、騎士になるという気持ちまでもが揺らいでいる。
こんな俺なんかが正義の騎士を目指していいものか…
そこに飛び込んできたのは甲高い女性の悲鳴!
ーきゃー!誰か助けてー!ー
ーひったくりよー!誰か取り返して!ー
ーあいつらよー!誰かつかまえてー!ー
叫び声を聞くや否や、考えるより先に身体が動いてた。
「お前たち止まれー!」
駆け足には自信がある。ほらな、すぐに追いついた。
騎士団長である父様からはスモールソードを持たされている。それを固く握りしめると俺は窃盗団へと対峙した。
子供の俺が大勢の大人相手に何処まで出来るのか。足が震える…
だが足止めさえ出来れば必ず誰か来るはずだ!
気の弱そうな手前の男は足を切りつけるとそれだけで腰を抜かした。
だがそれを見た仲間は余計にいきり立ち腰からダガーを抜く俺に向かって振り上げた。
ヤバイ!
身体が竦む。
「やーーー!」
気の抜けた掛け声と共に何かが飛んで行ったと思った次の瞬間、ダガーを握った男の顔が真っ赤な液体で包まれていた。
何の液体だ?スライムか!
ちぎってもちぎっても顔からはがれないそれに視界を塞がれ逃げることも出来ずに動き回る男。
だが仲間はあっという間にそれが投げられた方向を特定する。
あっ!あれは!
テオドール!なんでお前がここに居る!
「何だお前!子供じゃねえか!」
「おいっ、先にあいつから捕まえろ!」
「やめろ!」
行かせるものか!テオドールには指一本触れさせるものか!
取っ組み合いになりながらも俺と言う盾が出来たことでテオドールのスライムは次々と奴らに命中していく。
ボコボコに殴られはしたが、そうこうしてるうちにあいつの護衛に警らの騎士、味方が次々現れ奴らは結局全員連行された。
「テオドール…。俺を助けてくれたのか…あんなにひどい事言った俺を…」
「あのさ…なんで勝てると思ったのか知らないけど、ああいうの無謀っていうんだよ。はいこれハンカチ。使いなよ」
「あ、ああ、そうだな。無謀だった…」
「あの時も言ったけど、もう少し頭使いなよ」
「そうだ、俺はいつでも馬鹿だ…大馬鹿だ…」
「いや、そこまでは言ってな…、言ったわ」
テオドールの言葉にうなずくのが精いっぱいで相応しい謝罪の言葉はやはり浮かばない。
「俺は…騎士になる資格なんてない…。うぅ…父上の後を継いで騎士団長になんてとてもなれない…」
「なっ、なにも泣かなくても…、あ、あー…、あの、その、バカかバカじゃないかって言ったらバカだけど、でもタウルスは騎士に向いてると思うよ」
「この間と反対の事を言うんだな…」
「だって叫び声聞いて迷うことなく助けなきゃって思ったんでしょ?それに僕の事もかばってくれたし」
「それは…そんなの見過ごせるわけないだろ…」
「はぁ…馬鹿は努力したら治るかも知んないけど、生まれ持った資質は努力で作れないよ。ならがんばってみたら?知らんけど」
よっこらしょと言いながら護衛に手を引かれ帰っていくテオドール。
そうか馬鹿は努力で治るのか…なら相当な努力をしないとな…
俺は底なしの馬鹿だから……




