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悪役令息設定から逃れられない僕のトゥルーエンド  作者: kozzy


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25/110

25 フラグは既に立っている 一本目

バタバタしてて学校へは1週間も行けてない。

ほら、例のお茶会やらお茶会の準備やらで。…全部お茶会のせいじゃないか!


それにしても、お兄様の居ない西棟へ毎夜毎夜やってくるアリエスとは前よりちょっとだけ兄弟らしい。


よく考えたらアリエス自身は攻略対象者じゃないんだから、こうしていても別にいいんじゃないかと思えてきた。

レグルス王子たちとさえこれ以上会わなければ断罪からは逃げられるはず。だって僕は高等部になっても学院へは行かず冒険者になるんだから。


ようやく今日は学校へ行ける。だからちょっと張り切ってシェフにはバスケット二つ分のお弁当を用意してもらった。


それに僕だって自分のお弁当…初めて作ったハンバーガーを紙袋一杯に詰めこんだ。

だってきっとジローが欲しいって言ってくるから…。別にジローの為に用意したんじゃないけど…お味見人は多いに越したことない。


「ああ…明日にはハインリヒ様が戻ってきてしまう。こうして一緒に眠れるのも今日でお終い…なんとかならないか…」


アリエスがなんか難しい顔してるけど、結局広々寝ることはこの一週間全然出来なかった。


「いいから早く離れに戻って着替えなよ。いつまでもそこで僕の着替え監視してないで」

「ボタンの位置を間違えてはいけないですからね。さあ、僕のことなど気にせずお着替えください」


ちゃんと着れるって言ってるのに…

お兄様もアリエスも僕の手先を侮りすぎだ。指がちっちゃいからそう思うんだろうか?




かたん


久しぶりの教室。椅子を引き出し腰掛け、お行儀悪く机に突っ伏すと何人かのスラムの子たちが集まってきた。


「なぁ…なんでしばらくこなかったんだ。病気でもしてたのか?」

「学校来るの…いやんなったのかとおもったぜ」


はじめてまともに話かけてきたんだけど…もしかして心配してくれてた?えー、嬉しい!


「嫌になんかならないよ。だって僕ここが好きだもん」

「好きって…へんなの、貴族のくせに。じゃぁなんでこなかった?」

「王城のお茶会があってそれで忙しくって…」

「「王城!」」


貴族だからって誰もが王城へ招待されるわけじゃない。これは僕の家が侯爵家の中でも一際えらい家だからだ。

そういえばデルフィが縁起でもない事言ってたっけ。王太子妃の座が狙えるとかなんとか。ほんと冗談じゃないけど。


王城の話を聞かせろと周りをみんなに囲まれるけど話して聞かせるほどなにも覚えていない。

今気づいたのだ。僕の記憶には生垣しか残っていないことを。


しょんぼり…軽くショックを受けているとお目当てのジローがやってきた。


「じろー来るの遅い!」

「なんでだよ、約束なんてしてなかったろ。ほらみんな散れっ」

「僕が来たらじろーもこなくちゃダメなんだから!」

「へぇ?そっか、そういうワガママは悪くないな」

「いいからここ!ここ座って!」


今日も授業そっちのけで薬草の分類表でも作成しようと思ってたのに先生から助手をお願いされちゃった。


「孤児院で上手に教えていると聞きましたよ。どうかここでもお願いします」


横を見るとジローが鼻の頭をかいている。もうっ!余計なこと言って!


「し、しょうがないなぁ…、じゃぁカルタから…」


ぶつくさ言いながら手製のカードを取り出す僕。だけど気分は悪くなかった。



----------------



俺のテオドール。おかしなおかしなテオドール。


大貴族のくせにこんなとこ来てだらだらと暇をつぶすテオドール。

いつも文句が多いくせに言われたことは大体素直に引き受けるテオドール。


みんなほんとは分かってるんだ。テオが俺たちの為にわざわざ大きな昼飯の籠を用意してること。

命令口調で「片付けといて」なんて言うけど、テオはほとんど口をつけない。これが貴族の嗜みだって偉そうな顔で言い放つけど、腹を空かせた俺たちの取り分が減らないようわざとなんだろ?


自分で作ったとかいう白パンの昼飯はいつも野菜の水分でべちょべちょだ。

冒険者になる練習だとか言ってたけど…貴族の息子のくせに本気で自分で作ってんのか?考えるだけで笑っちまうな。


他の誰にも食べさせたくなくて…残らないよう強請ってたらいつの間にか俺の分まで作ってくるようになった。

なんだよそれ、嬉しいじゃねーか。


孤児院の一件でテオが貴族の奴らに良く思われていないことを知った。

そうだな、取り澄ましたところのないテオドールは貴族の中では異質なんだろう。

テオの良さが分からないなんて貴族ってやつはほんとに馬鹿だな。


いいさ、むしろ都合が良い。テオは俺が守る。冒険者になって俺たちは一緒に旅に出るんだ。

嬉しそうに喜んでたテオドール。絶対だからねって念押しして。

そうだな…、テオと眺める夜の星はどれ程輝いて見えるだろう。


なんてな、そんなの無理に決まってる。

テオドールは大貴族の息子。王城にだって招待されるほどのご子息だ。


ああ、聞かなきゃよかったな…


身分の違いを思いしったら胸の奥がズキンと痛んだ。

だけどもう少し、しばらくの間だけは…こうして独り占めしたっていいだろう?


いつかその日が来たら…俺はこの手を離せるだろうか…





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