24 戦い済んで…
「お兄様ってば…、こんな所で迷子になっていらしたの?良かった見つけられて。さぁそろそろ戻りましょう。早めにお暇するって言ってらしたでしょう?」
途方に暮れるあわれな迷子をようやく発見してくれたアリエス。良かったこれで屋敷に帰れる。
さすが王城と言わざるを得ない巨大な生垣迷路の中、気が付いたら僕は攻略対象全員と出会いを果たしていた。
いやいや、テオドールが攻略するわけじゃないんだから関係ないじゃん。よりによって王城なんかで会いたく無かったのに。
あれほど絡みたくないって思ってたアリエスが一番安心だなんて…変なの。
「うう…ねぇ帰ろう、もう帰ろうよ」
ジャケットの裾を掴んでそう言えば、にっこり微笑んで僕の手を引いてくれる。
あったかい笑顔…
ああそうか、この笑顔に攻略対象者たちはほだされていくんだな…
何て言う疲れる一日だったんだろう。
だけど王子様にあんな失礼なことした無礼な僕がここに呼ばれることはもう無いだろう。
小さなフラグも一つ一つ丁寧に消していかなければ…。
破滅への落とし穴はいつだってそこかしこに隠れているのだから。
「それでテオドール、どうでしたの今日のお茶会は。何事もなく過ごせたのかしら?」
「うっ、えと、きちんとご挨拶は出来ました。その後はちょっと追いかけられたりしましたけど、別に不敬なことはしていません」
「追いかけられた?ええっ?何をしたらそんなことになるのかしら。それは不敬な事ではないの?」
「だって殿下が…」
「だってじゃありませんテオドール。これだからあなたを外に出したくは無かったの。まぁいいわ。王家だって我がレッドフォードを敵に回したくはないでしょう。大事にはしないはずだわ。ああ可愛いテオドール。貴方はここで大人しくしていてちょうだい。そうすれば爵位を継いだハインリヒが良い様に取り計らってくださるわ」
ほらね、いつだってこうやってお母様は許してくれる。だからますますテオドールはわがままになっちゃったんだよ。
でも僕はちゃーんと自立の道を一歩ずつ進んでいるけどね。
「はぁ…疲れた…なんてめんどくさいんだろうお茶会って…」
「本当にそうですよね。僕もそう思います」
「アリエスっ⁉」
自室の扉を閉めた僕の背後にいつの間にか立っていたアリエス。心臓が飛び出るかと思ったよ!
「どうしてここに!本邸には来られないはずなのに!」
「僕はもう七歳の子供ではありませんよ。使用人にならなにを言われたって自分で反撃くらいして見せます。だけどいつもはハインリヒ様がいらっしゃるからこちらへは来ないのだけど…」
「だけど何?」
「まだ当分ハインリヒ様は異国の地です。ふふ、僕を見咎める者はお義母様の他にはいませんよ。だけどお義母様は夜間に西棟へは来ないでしょう?絶好のチャンスかなって」
レッドフォードの王都邸は真ん中のホールのある棟を中心にして、東西南北に4つの棟が繋がっている。西側が男性の私室、客室の集まる棟、東が女性の棟、そしてホールを突き抜けた中央にミュージアムやビリヤードルーム、ダイニングなんかを含めたゲストを楽しませる部屋が集まっているのだ。
「チャンス…なんの?」
「お兄様と親睦を深めるための」
ボスっとアリエスが僕を引き寄せる。何?何がしたいの?
今日は移動も一緒の馬車だったしいまだかつてないくらいたくさん話もした。
それが何かのフラグを建てたんだろうか?思っても見なかった積極性でアリエスがグイグイ来る。
そ、そういえばそうだよね…アリエスってすごくスキンシップの激しい男の子だった。
友人だってたくさんいて…いじめていたのはテオドールくらい。だからこれぐらいはアリエスのキャラ的に普通なのか?
この距離感に攻略対象者たちも次々みんな恋に落ちたんだから。
「あ、あのアリエス、離して」
「いやです!ずっと昔からいつかこうしたいって思ってた!大好きお兄様。今日は一緒のベッドで眠りましょう?」
「え、やだ!せっかくハインリヒお兄様が居なくて一人で広々眠れると思ってたのに!」
「…今なんて言いました?ハインリヒ様ですって?…いつもここでお休みになってるんですか?テオドールお兄様とご一緒に?」ギュゥゥゥ
「い、痛いって…。何?なんかおかしい?お兄様はいつまでも僕を子ども扱いしてるから「暗い部屋は怖いだろう?」って言って時々来るんだよ。僕ほんとは部屋は真っ暗が良い派なんだけど」
「…ヤロウ…他には?…他にはなにかされてませんか?これだけで済んでるとはとても思えない」
「えっ?なにかって何?お風呂の事?」
「お風呂⁉」
「貴族の子供は一人で湯舟に入っちゃダメだって言われて…違うの?」
「違いませんけど…テオドールお兄様はもう子供ではありませんからね…十二歳、もうすぐ十三になられるじゃありませんか。だめですよ、もう大人になる準備をしないと」
あー、やっぱりそうだよね。僕だって内心はそうじゃないかって思ってたよ。
だけど中身が普通の日本人な僕には貴族の当たり前はわからなくて…
「じゃぁこれからはそうする。ふぅ…、もう疲れた。お風呂入って休みたいからいい加減離して」
「せっかくなので今日だけはご一緒しましょうか。お背中お流しします」
すったもんだの攻防の末、結局アリエスと湯舟に浸かることになったのは…良い思い出になったって言ってもいいんだろうか?




