22 五里霧中
何が地雷だったのかさっぱりわかんない。けどとにかく王子は怒ってる。
ええっ?感情が出ないキャラっていう設定…は?
アリエスといい王子と言い、やっぱりゲームと少し違ってきてる。
「ねぇテオ。今日私が君をここに呼んだのは何のためだと思っているんだい?アリエスの顔を見たかったわけじゃないんだよ?彼の顔なら学院でいくらだって見られるからね。私がこうして顔を見たいと、そうだな…、君の言うよろしくしたいと思っているのは誰だと思う?」
「わかんない。それよりテオって呼ばないで。僕と殿下初対面なのに」
勝手に距離詰めてくんな!僕はパーソナルスペースを大切にする現代人なんだから!
だってゲームのテオドールは王子の婚約者になりたくて余計に暴走したんだよ。何がヤバイって…王子が一番ヤバイじゃん!
こうしてるだけで変なフラグが立ちそうで、さっきから僕は気が気でない。
「そっ…、それはすまなかったねテオドール。ふぅ~ん、君は私と親しくするのがそんなに嫌なんだ?」
「お、で…殿下は僕の地雷なので…嫌とかそんなんじゃなくて親しく出来ないんです…」
「地雷?それはどういう意味?出来ないって何故?じゃぁこうして触れるのはダメ?」ツン
「ひょっ!だ、だめ!顔触んないで。だって殿下は…」
「私が何?」
冷や汗なのか脂汗なのか、よくわからない汗が背中をつたう。何だろう…このレッドシグナル感は…
「今までだって侯爵家に招待状は出していたけど君が顔を出したことは一度だってなかったよね。ハインリヒの顔ならもう見飽きたよ」
「だって僕が来たってしょうがないから…」
「だから何故?侯爵夫人はテオを王家に嫁がせたくはないのかな?年の合う子女を持つ家門の親は鵜の目鷹の目で婚約者候補を狙っているというのに」
「なっ、ならない!お嫁さんにも、婚約者にも!なりたいなんて絶対言わないんだから!」
僕の絶対拒否は王子のプライドを刺激したのだろうか?なぜか笑顔なのに笑顔に見えない笑顔で(何言ってるかわかんない…)じりじりと距離をつめてくる。
「お願いだから側に来ないで!」
「聞き捨てならないね」
「もう限界!もうヤダー!」
「あっ、待て!テオドール!」
あまりの恐怖に限界を感じ立ちあがって逃げ出す僕。
そんな僕を追いかけてくる王子。
これじゃぁ僕は不審な逃亡者だ。
「殿下が誰かを追いかけているわ!」
「あれはレッドフォードのテオドールよ!」
「いったい何をしでかしたのかしら…」
やめてやめて!こっち見ないで!僕のことはほっといて!そうしたら僕だって静かに暮らす。
ああ、どうせ転生するのならその辺のモブとかで良かったのに!
「こっちだテオドール」
いきなり誰かに腕をつかまれて人目のない生垣に引っ張りこまれる。
あっ、これ生垣迷路だ。子供のころお父さんが連れて行ってくれたやつ…
迷路の中をぐるぐる歩いているうちにようやく王子の追跡をまいたようだ。
「つ、疲れた…」
落ち着いて見てみれば僕を助けてくれたのはこの間僕に酷いこと言ったアルタイルじゃないか!なんと!断罪危機は続行中!
「ここまでくれば大丈夫だ。それより何故殿下から逃げていたんだ。一体何をした?」
カチン!
「腕離してよっ!王子から逃げてたんじゃない、勝手に王子が追いかけてきたんだよ!なんでそうやっていつも僕が悪いことにすんの⁉」
「そっ、そんな気はなかった。す、すまない。そう、この間の事もきちんと謝りたかった。君のことを何も知らないで…ひどいことを言った。本当にすまなかった」
「もういいよ…別にもういい。せっかく忘れてたのに思い出させないで!」
「テオドール…」
しょげた顔。そんな顔したってだまされないんだから!
しょせん僕たちは悪役令息と攻略対象者。どこまで行っても敵なんだから!
「これ以上僕に関わんなければそれでいい。だからもう行って!」
「だがテオドール…」
ムカ!「勝手に名前呼ぶな!いい?この間のことはもう怒ってない。けど言われたことは忘れない。言ったほうはいつだって勝手に忘れるけど…僕は絶対忘れない!良い奴だって思ってたのに…アルタイルのばか!がっかりだよ!」
おっと、いい奴だって思ってたのはゲームの中の話だった。
まぁいいや。これでアルタイル絡みのシナリオも変わっただろう。破滅の足音はきっと遠ざかった。
がっかりって言われたのがショックだったのか立ち尽くしているアルタイル。
なんでそっちが傷ついた顔してんだよ!ひどいこと言われたのはこっちなのに!
ぷんぷんしながら歩いているとどこからかガサリと音がした。
生垣の角を曲がって現れたのは思い出すだけでも未だに腹立たしい赤毛の脳筋タウルスだ。
何か言いたげな顔。けど僕はこんな奴顔をみるのも我慢ならない!
ふんっ!
そっぽを向くと回れ右してとっととその場を後にした。
僕は十六歳足す十二歳、合計二十八歳の大人だからね。相手になんかしないんだから!




